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第150話 バニラアイス

「累の心配事。いつも迷惑かけているからすごくわかるの。でも、仕事は続けたい。やりがいがあって楽しいから。それに自立していたいとも思うし。仕事を辞めて家にいるってことは、累に養ってもらうと言うことだから。私はそれが抵抗があるの」


「そっか。結菜が楽しそうに仕事しているのを見てるから、無理強いはできないと思っていたけど。やっぱり仕事を辞めると言う選択肢はないんだね。わかった。じゃああと一つ。君は困った人を放って置けない優しさがあるけど、それは時に人を勘違いさせてしまうことだから、少し控えてほしい」


 私はおせっかい焼きで、人が困っていると手を差し伸べずにはいられない性分なので、これも改善するのが難しい点だ。だけど、世の中は広い。時には私が進んで何かするよりも、別に頼れそうな人を探して手助けをお願いするという方法があることを最近気づいた。人助けをするにしても。同性だけにとどめて、男の人のことは男同士でなんとかしてもらうようにしようと思った。


「うん。おせっかいがすぎないようにする。その点はもう懲りてるから…。私自身が人を頼るようにしようと思う」


「ありがとう。そうしてもらえたら嬉しいよ」 


少し溶けてきたアイスを口に運ぶとひんやりと口の中で溶けるアイスがとても美味しい。久々に食べた濃厚な抹茶味のアイスはとてもおいしかった。

 累もアイスを食べて幸せそうに目を細めていた。

(累は好物を食べる時子供みたいな顔になるのが可愛いな)

 じっと観察しながらそんなことを思う。


 その顔を見られるのが私だけだと言うことがたまらなく嬉しかった。

 私の視線に気づいたのか累が私を見つめてきた。


「俺の顔に何かついてる?」


「ううん。なんでもない」


 言ってしまうと意識して子供っぽい顔を隠してしまいそうだったのでとぼける。

(この顔は無くしたくない)

 私は思わず微笑みながらアイスを食べていった。


「あと一口かあ。おいしかったから残念」


「ふふ。じゃあ最後の一口はあげるよ。ほら。アーンして」


 累は自分のバニラの最後の一口をすくい、私の方に近づける。断るのも悪い気がしてアーンと口を開く。累は嬉しそうにスプーンを口内にそっと差し込み、私がアイスを口に含んだことを確認してからそっと引き抜いた。


「美味しい!バニラも濃厚で口の中が幸せ」


「良かった。喜んでもらえて」


「じゃあ私のも累にあげるね」


 私はそう言ってスプーンに最後の一口をすくって累の口元に運ぶ。


 累はそれをしゃぶるように口に含むとゆっくりと味わうように食べて、ニコニコ笑った。


「結菜からもらったら、いつも以上に美味しく感じるね。ありがとう」


 ふたり見つめあって微笑んだ。


 最近色々と立て込んでて、累に向き合えてなかったから。今の時間がすごく大切に感じる。

 私は食べ終えたアイスの容器とスプーンを机に置くと、累の肩に頭を預けて目を閉じた。累はそんな私の頭を優しく撫でる。そしてそっと頭にキスをしてくれた。

 嬉しくて見上げると累は熱のこもった瞳で私を見つめてくれている。見つめ合ううち、自然と二人の距離が近づいて、いつの間にか唇に触れるだけの優しいキスをした。

 何度かキスを繰り返すうち、累は私を抱っこすると寝室に連れて行ってくれた。


「ねえ…いい?」


 累が少し潤んだ瞳で私を見ながらそう尋ねるので、私はちょっと赤面して頷いた。


「久しぶりだから…ゆっくりするね」


 累はそういうと私の服をプレゼントの包装を剥がすようにゆっくりとはぎ取っていった。


「可愛い。結菜…愛してる」


「私も愛してる…」


 どれくらい経ったろう。私はいつの間にか眠っていて、目を覚ますと累が私のことを愛おしそうに見つめていた。


「結菜。お水のむ?持ってこようか」


 言われて喉の渇きを覚えて私は頷いた。


 累はキッチンで水をコップにつぐと、戻ってきて私に手渡してくれた。


「これ飲んで。ゆっくりね」


 累は私の身体を気遣って優しく抱き起こしてくれる。そして後ろから抱きしめて首筋にキスをした。


「お水ありがとう。喉が渇いていたから嬉しい」


 一口のむと渇いていた喉が潤ってようやくひと心地ついた。随分久しぶりに重ねた肌は熱くてとろけそうだった。

 累はどこまでも優しくて、私は涙が溢れそうになった。こんなにも愛されているんだと身体に刻まれているようで。愛おしくてたまらなかった。


「累…大好き」


ふと無意識に口からそんな言葉が漏れ出ていた。愛してると囁きながら過ごした時間からしたら、可愛い愛の告白だろうが、累はそれが嬉しかったようで私に優しく触れながら抱きしめてくれた。


「俺も大好きだよ。たった一人、この世界で一番大好き」


 累もそれに答えてくれる。その言葉は乾いた地面に雨が降り注ぐようにスッと心に染み込んで、私の心を潤してくれる。

 どんな時もいつでも私を大切に思ってくれる愛おしい人。私はこれからもこの人と共に歩んでいきたいと、そう思った。


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