翌日から私は気持ちを新たに仕事にうちこんだ。
世良のことはまだ気がかりではあったが、事情を知っている課長は心配して私のことを見てくれていたし、愛花もサポートしてくれたので業務に支障はなかった。
その日の夜、久々に蓮花に一人で飲みに出かけた。
「マスターご無沙汰しています!最近なかなか来られなくてすみませんでした」
するとマスターは笑顔で一番奥の席に案内してくれる。
「また来ていただけて嬉しいですよ。何にしますか?」
「じゃあおすすめのやつ。甘いのがいいです」
「承知しました」
マスターは手際良くカクテルを作ると私の前に出してくれた。
「今の季節、スイカが美味しいですからスイカの果汁を使ったカクテルです。こちらはカットスイカ。これはおまけです」
蓮はそう言うと他の客に呼ばれたためそちらに行ってしまった。
私はちびちびとお酒を飲んでいると懐かしい声が聞こえてきた。
「ああ〜!結菜お姉ちゃん!!」
「花ちゃん元気だった?」
累の義理の妹である花がそこにいた。
懐かしい顔に自然と顔がほころぶ。
最近色々あって全然会えていなかったので、今日たまたま巡り会えてラッキーだった。
「最近忙しそうだったけど何かあったの?」
「そうだねえ。色々あって…長くなるけどいい?」
私は最近の出来事を花に話して聞かせると花は眉間に皺を寄せて微妙な顔をした。
「お兄ちゃんまたやったんだねえ。それにストーカーって…結菜お姉ちゃんなんでそんなに不幸なの?」
あまりにバッサリ言い切るのでいっそ清々しかった。
花は心配そうに私のことを見つめる。
「でも結菜お姉ちゃんが無事で良かった。お兄ちゃんのことは私からもクレーム出しておくけど、相変わらず変な人に好かれるの、なんでだろうね」
花はウイスキーをロックで飲みながらポツリと呟いた。
(やっぱり花ちゃんから見ても私変な人に好かれてるんだ)
がっくりきてると花がミックスナッツを注文してそれを私の前に置いた。
「お姉ちゃん元気出して、これささやかだけど応援の気持ち」
「ありがとう。今日花ちゃんがいてくれて良かった」
花は裏表ないし、言いたいことは遠慮なくズバッと言ってくれるから現状について冷静にズバズバ切り込んでもらってダメなところかが実感できて良かった。
「そういえば花ちゃんの方はどう?何かいい話はない?たとえば恋とか」
「恋かあ。実はね。結菜お姉ちゃんにだけ言うけど私良平さんのこと好きなんだ」
突然の告白と久しぶりに聞く名前に驚く。前見た時二人の関係は良好とはいえなかったので、花が彼にどうやって惹かれたのかすごく気になった。
「ちょっと驚いちゃった。どうして良平のこと好きになったの?」
「う〜ん。なんかね。お兄ちゃんに執着してた頃は全然興味なかったんだけど、結菜お姉ちゃんが私と仲良くしてくれてから、良平さんがずっとあきらめずに結菜お姉ちゃんのこと好きでい続けるその健気さに惹かれたんだ。ここで時々一緒に飲んでるしね。いまだに結菜お姉ちゃんのこと気にかけてて、相変わらず好きなんだな〜ってその諦めの悪さとかすごく好き」
花はすぐに良平に振り向いて欲しいわけではないようだった。でもまさか良平のことが好きになるなんて思わなかったので正直驚きが隠せなかった。
「結菜お姉ちゃんは嫌?私が良平さんのこと好きなこと」
「全然嫌じゃないよ。良平について、私は何もいえないけど。でも良平のこと気にかけてくれる人がいるのは嬉しい」
それは素直な気持ちだった。私は良平の気持ちにこたえられなかったので、彼にいい人が現れて救われたらすごく嬉しい。
勝手なことを考えてしまっているけど、それが私の本心だった。
(良平と花ちゃん…。良平は心広いし器も大きいからはなちゃんにぴったりだな)
「私はもう良平に関われないから応援しかできないけど、恋、成就するように祈っているよ」
そう言うと花は少し微妙な顔をした。
「う〜ん。成就かあ。今は片想いしてるのが楽しいんだよね。実際に付き合い始めたら粗ばかり目立ってしまうから今のままがいいなあ。多分良平さん恋人作らないし長く片想い楽しめそうだし」
「確かに片想いしてる時って楽しいよね。好きな人に振り向いて欲しくて自分磨きしたり、ちょっと会話できただけで嬉しくて舞い上がっちゃったり。そういうの確かにいいね」
「そうなの!友達に話してもいまいち理解してくれなかったけど結菜お姉ちゃんならわかってくれるって信じてた!やっぱり私、結菜お姉ちゃん好きだな。早くお兄ちゃんと結婚して本当のお姉ちゃんになってくれたらいいのになあ」
花はそうぼやいてウイスキーを含む。
私もカクテルを一口のんで少し考えた。結婚はいつかしたい。でも今じゃない気がするのだ。私は花ちゃんからもらったナッツを齧って考える。
「結婚かあ。まだ実感がないな。今は仕事も楽しいし…。色々問題があるからそれが完全に解決してから結婚について考えたいと思う」
私がそう言うとまた花が顔を顰めた。