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第152話 花

「結菜お姉ちゃんの問題は今後も続くだろうから落ち着いてるの待ってたらおばあちゃんになっちゃうよ?それは建前で本当は怖いんじゃないの?」


 ズバリと言われて私はどきりとした。確かに累には色々問題があるから、結婚して家族になって逃げ道がなくなるのが怖いという気持ちもあったからだ。

 花にはそれを見透かされてしまって驚いた。

(相変わらず聡い子。やっぱり今日出会えて良かった)


「確かに怖いのかもしれない。累は私に執着しているからそれがまた悪い方に転んじゃって、結婚しているから逃げるのも難しくなるのが怖いのかも」


「そうだよねえ。あんなに約束したのにまたGPS仕込むような人だから結菜お姉ちゃんの気持ちはすごく良くわかる」


 花は色々思い出しながらゆっくり語ってくれる。


「お兄ちゃん、今まで他人に興味なくて、彼女とかもすぐ別れてたから結菜お姉ちゃんにすごく執着してて驚いたんだよ。最初の方は私も嫉妬で結菜お姉ちゃんに意地悪しちゃったけど、今はお兄ちゃんと仲良くしてほしいし、またお兄ちゃんがバカなことしたら一緒に叱ってあげるから。離れないでいてあげてほしい」


 花は累のことが相変わらず大好きなのだろう。優しい顔で語る花を見て微笑ましく思った。


「困ったことをする人だけど、それさえなければ完璧な恋人だよね。確かに怖い一面もあるけど、それも話せばちゃんとわかってくれるし。でも結婚はなあ…」


「仕事が楽しいのも関係してる?」


「そうだね。私はどうしても今の仕事が好きだから、結婚して家庭に入るって言うことが難しい。累も今は在宅で仕事してるから家事をしてくれているけど、事務所の方もだんだん忙しくなってるし、そのうち出勤になったら家事分担で揉めそうだからなあ」


 現実的なことを考えると問題は山積みだった。お互いの関係や距離感について話し合う必要もあるし、そのほか、日常についても色々と調整が必要になる。お金についても夫婦別財布にするか、それとも合わせるか。


「結婚って大変だよね。今考えたら改めてそう思った」


「そうだよね…。同棲と違って家族になるってことだから色々問題出てきちゃうよね」


 そういえば花には結婚願望があるのだろうか。ふと気になって聞いてみた。


「そういえば花ちゃんは結婚願望ないの?今は片想いが楽しいって言っていたけど」


 すると花はニヤリと笑うとウイスキーを一口飲んで言った。


「片想いに飽きたら私から良平さんにプロポーズするつもりなの。きっとびっくりするよね。今から楽しみ」


「ええ!付き合わずにいきなりプロポーズするの!?」


 花はいつも突拍子がないけどこれには流石に驚いた。良平がそれに応じなさそうなので心配になる。


「良平。多分断るんじゃあ?」


「ああ。それは想定済み。だけど私決めたから。良平さんがOKくれるまで何度でも特攻する予定だよ」


 花は強い女性だ。きっと本当にOKをもらうまで特攻するつもりなのだろう。それを考えると私の悩みなんてちっぽけだと思えて勇気がもらえた。


「花ちゃんはいつもパワフルだね、そう言うとこ大好き」


「えへへ。結菜お姉ちゃんにそう言ってもらえるの嬉しい。大好き!」


  花はそう言うとウイスキーをまた一口飲んだ。飴色の液体が花の美しい口に流れ込んでいく姿はとても美しくて思わず見惚れる。

 こんな美少女があんなに辛辣な人間だと誰が思うだろうか。出会った頃の花を思い出すと今の花とあまりにかけ離れていて、辛辣だった頃の花が少し懐かしくなった。


 その時だ。隣で飲んでいた若者二人が私達に声をかけてきた。


「こんばんは。二人ともすごくかわいいね。良かったら一緒に飲まない?」


 花はナンパされ慣れているようで、軽くあしらう。


「今は二人で飲みたい気分だし、気軽に声かけないでくれる?うざいんだけど」


 相変わらず懐に入れた人間以外には辛辣で私はヒヤヒヤした。


「うざいって…ひどいなあ。君たちすごく可愛いから是非一緒に飲みたいんだけど…場所を変えてもいいし、仲良くなりたいな」


「うざ。一回断られたら退けよ。あんたたちみたいなジャガイモには興味ないの。鏡見たことあるの?はっ。ないんでしょ。あんたと私達じゃ釣り合わないんだよ」


「花ちゃんちょっと!言い過ぎだよ」


 花がイライラしてズバズバ言うものだから思わず止めに入ったが、もう遅かった。


「はあ!?調子に乗んなよ。お前らが女二人で寂しく飲んでるから声かけてやったのに、生意気なんだよ」


 男二人は怒って立ち上がると花の手を強く握って椅子から引き摺り下ろした。


「痛い!女に暴力振るうなんてサイテー」


「お前が俺らを馬鹿にするからだろ!ちょっと顔がいいからって調子に乗りやがって」


 男がグーで花ちゃんのことを殴ろうとしたので私は咄嗟に花を庇ってその間に飛び出したが、いつまでも痛みはやってこなかった。


 恐る恐る目を開けるとマスターの背中が見えた。

「うちのお店の大切なお客様を。しかも女性を殴ろうとするとは許せませんね。申し訳ありませんがお引き取りいただき、2度とうちの敷居を跨がないでください」


 見ると蓮さんが男の手を受け止めギリギリと締め上げている。


「イタタタ!!わかったよ、こんな店もう2度とくるか!」


 そう言って男達は去っていった。


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