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第79話 おお、勇者よ!

 さて、今週中には聖弥さんが復帰してくる予定なんだよね。

 SE-RENへのサポートとしては、聖弥さんにブートキャンプをして、武器防具を作ってあげて、それで終わりにしようと思ってる。


 防具はホラ、衣装も兼ねてるし蓮くんのが2着もあるから、今後蓮くんと聖弥さんでお揃いで着るためにも統一感のあるデザインの方がいいしね。


「というわけで、聖弥さんには今日からこのアポイタカラ鉱石と寝食を共にして貰います」

「えっ? どういうこと?」

「聖弥……こいつが言ったことは大体『えっ?』と思うようなことでもそのままの意味なんだ。寝食を共にして貰いますとは、寝食を共にしろということなんだよ」


 火曜日の夜、藤沢市内の聖弥さんの家にて。

 今日のレッスンを終えた蓮くんに案内させて、私は由井家の玄関で10キロのアポイタカラ鉱石を抱えて立っていた。


「蓮くん、金沢さんから返事来た?」

「土日空いてるってさ」

「じゃあ、土曜日お願いしますって頼んどいて」

「わかった」

「待って待って、話が見えない。えーと? 金沢さんって聞いたことある気がするけど……」


 蓮くんはもう私のペースに慣れてる感があるよね。

 聖弥さんに対して説明省いてるところとか、まさにそんな感じ。


「聖弥さんが復帰したら私は抜けるでしょ? でもユニットで片方だけいい装備なのはバランスが悪いじゃん? だから、聖弥さんにも武器と防具を作ります。

 で、アポイタカラみたいな伝説金属は縁が強ければその人に合わせた武器になってくれるらしいので、これから土曜日まで、学校行ってる間以外はこれを抱っこかおんぶしながら過ごすように!

 寝るときももちろん一緒だよ!」

「寝食を共に、ってそういう……」


 蓮くんに比べて「正統派王子様」みが強い聖弥さんだけど、思いっきり顔が引きつってるよ。

 その聖弥さんの肩を、やけに穏やかな笑顔で蓮くんがポンと叩く。


「諦めろ、聖弥。俺は杖だったから種類も何もなかったけど、おまえの場合はどういう武器になるかで今後の活躍が大きく変わるんだ。たかだか10キロ、米袋を担いで生活してると思えばいいだろ?」

「蓮も何か前と変わったね? ……まあ、あの配信見てたら、大変だったことは察するよ。ふたりとも上がって話す?」

「ううん、これを渡しに来ただけだから、すぐ帰るよ。あ、そうだ、トレーニングメニュー考えるから、ステータス見せて。あと、LIME登録して」

「なんか、ここまでして貰っちゃって悪いなあ。あの時助けてくれて応急処置してくれただけでも凄いことなのに、社長説得して配信料の分配とかもマシにしてくれたし、何よりSE-RENの知名度がゆ~かちゃんのおかげで前とは桁違いなんだよね。

 ステータスはこれ」

「袖すり合うも多生の縁って言うし、助けたからには見届けないとね。……て、こ、これは……」


 聖弥さんのステータス画面を見て、私は思わず絶句した。


由井聖弥 LV8 

HP 50/50

MP 14/14

STR 10

VIT 10

MAG 9

RST 11

DEX 11

AGI 9

装備 【――】


 びっくりするほどド平均!!

 そ、そういえば前に蓮くんが「聖弥も前衛向きじゃないのに俺の方が酷いから、無理して前衛やってた」みたいなこと言ってたっけ!


 これはいわゆる、「勇者ステータス」だ。

 魔法も物理も何でも行けて、でもどれも専門職には劣るという……。例えば物理では私に及ばず、魔法では蓮くんに及ばず、っていう。

 でもパーティーにひとりいると、欠けてる部分を全方向で補えるから便利なんだよね。あくまで「便利」止まりなんだけど。


「むしろ、何をやって生きてきたら、こんな綺麗な勇者ステータスになるんだろう……」


 ステータス見たときは一瞬顔が宇宙猫になったけど、見れば見るほど謎であるよ。

 普通、得手不得手ってものがあって、ステータスは何かが高いけど何かが低いってなるものなんだけど。


「勇者ステータス?」


 聖弥さんが不思議そうに訊き返してくる。蓮くんは何か察したらしくて眉間に皺を寄せて目をつぶってしまった。

 そうだね、「ヒーラーなのにいざというときは剣でモンスターを一刀両断にしたりしたらかっこいいだろ」とか前に寝言言ってたもんね。


 あれは蓮くんの場合ただの寝言だったけど、聖弥さんがこのバランスのまま成長すると、それが実現できる。

 そもそも、多分あと1LV上がるとMAGが10に達して、初級ヒールか初級魔法が取れるようになるし。


 うう、なんなのよSE-REN、ずるいのばっかじゃん! 不遇だけど!


「勇者ステータスっていうのは、勇者っぽいステータスのことです」


 おっと、うっかりあの政治家構文でしゃべってしまった。


「つまり、なんでもできるけど、どれも特化型には及ばないっていう汎用ステータスのことね。珍しいんだよ? 普通は何かしら得意なものと不得意なものがあるんだから」


 例えば私の場合はAGIとVITが高くて、MAGとRSTが物凄く低い。

 あの彩花ちゃんですら、ステータスはでこぼこしてるもんなんだよね。今日私に決闘売ってきた中森くんなんかは、STR偏重型。MAGなんか私と並んでクラス最下位だし、ぶっちゃけ「AGIとDEXが低くなった私」みたいなステータスだ。


「そういえば、聖弥ってなんでもできて苦手なものってないよな」

「そんなことないよ。これでも勉強もスポーツも全方向頑張ってきたつもりだけど」

「それだー! 好き嫌いがあっても、どの科目も同じように時間を割いて勉強したりするタイプでしょ!」

「うん、そうだね」


 私の指摘に聖弥さんが頷く。

 まさに、それ!


 ステータスの伸び率は「何が得意か」で決まらない。「何をやってきたか」で決まる。

 聖弥さんはある意味とてもストイック。自分の好きなことばっかりやらずに、そんなに気乗りしないようなことでも平等に平均的にやろうとした結果がこれ。


 しかし困ったぞ……今LV8でしょ? このステータス、どの方面に持って行くべきなの?

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