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第80話 困ったぞ?

 念のため、聖弥さんのステータスのスクショをLIMEで送ってもらった。

 作業的に動画編集をしながら、時々チラリとそっちに意識が行って、私はその度に頭を抱える。


 正直、SE-RENの活動的なものも考えると、じっくり時間を取ってステータス上げは厳しい。

 私もそれにずっと付き合うわけにはいかない。


 ……………………。


 うん、考えるのはやめよう!

 まずは本人に訊く。これだ!


「突然ごめん、聖弥さんは方向性としてどうステータスを伸ばしたいとかある?」


 LIMEを送ってから十数分後、ピロリンと返信が来た。


『僕と蓮はあくまで俳優を目指してて、冒険者をやってるのもステータスをあげておけば体力が向上したりいいことがあるからっていうのと、事務所都合だから。

 蓮の場合は打たれ弱すぎて特訓も必要だったと思うんだけど、蓮の防具のステータス見せて貰ったらあれでも十分なくらいダン配としては活動できると思う。

 それに武器のステータス補正が乗ったら、もう全然問題なくLV上げしていけると思うから、無理に特訓するのも、方向性を決めるのも必要ないんじゃないかな』


 そ、そうかー!

 そもそも、俳優を目指してるから冒険者として大活躍まではしなくていいんだ。武器と防具のステータス補正が乗れば、聖弥さんのあの勇者ステータスなら確かに何でもできる。


 基本物理攻撃だとしても、遠距離では魔法も使えるし、最強格武器防具のおかげでガンガンLVアップできるよね。そして、多分聖弥さんの場合、そのLVアップによるステータスの底上げこそが冒険者をやる最大のメリット。


 だったら、いいのかぁー。


 ……いいのか、なあ?

 本人がいいって言ってるからいいのか。


 まあ、もしかしたら武器が聖弥さんの深層心理なりなんなりをくみ取って、物凄ーく物理特化とかになるかもしれないしね。

 そうなるとむしろこの勇者ステータスは強みなんだよね。


 勇者にはつよつよ専用武器がつきものなんだし。

 あいちゃんには聖弥さんの衣装の方向性決めるからステータス教えろって言われてるんだけど、これは武器ができるまでわからないな。


「了解です! 武器次第で今後どう立ち回るか決まるから、むしろ先に武器を作ってから少しだけ訓練した方がいいかもね」

『それから、僕も明日から蓮と一緒にボイトレ受けさせて貰うことになったから、よろしくね』


 ん? それはママからも聞いてないよ?

 SE-REN、なにげに私の生活に食い込んでくるなあ……。


 昨日も今日も、蓮くんは学校終わった後うちに来てママからレッスンを受けていた。

 なんとなく先週のせいで「当たり前」のようにそれを受け入れてる私に気づいてしまったけど、聖弥さんも来るとなると割と謎の構図だね?


 ……まあ、SE-RENがもっとお金稼げるようになって、ちゃんとしたボイトレの先生に教わることができるようになるまでだろうけど。

 ママPも、自分がプロ並みに指導できないってことは自覚してるから、あくまでストレッチとか自分がプロのシンガーから付けられてるボイトレに従って基本的なことをやらせてるだけだし。


 私は聖弥さんに犬が敬礼してるスタンプを送ると、ヘッドフォンを外して編集中の動画を保存した。


「ヤマトー、寝ようか」


 足下で伸びてたヤマトに声を掛けると、ヤマトはうつ伏せで後脚伸ばして寝てたー。

 激写!!!! 肉球可愛い!!


 むちむち肉球の写真をX‘sにアップすると、「配信マダー?」ってコメントが素早く付いた。

 そういえば先週は一度も配信してないね! それどころじゃなかったし、さすがにMVのための練習風景は事前にアップできない。


 配信、配信どうしようかな。寧々ちゃん誘って国分寺ダンジョンでステ上げしようかな。それとも……。


 ベッドに潜り込むと、健康優良児の私はそこで意識がすうっと途切れてしまった。



「おはよう、ママ。はい、ハグー」

「おはよう、ユズ。はい、ハグー」


 翌朝、お約束のハグをママとしたところで、昨日の夜聞いた話をぶつけてみる。


「今日から聖弥さんもボイトレに来るんだって?」

「そうそう、昨日の夜に決まったのよ。聖弥くんもなかなか大変ね……というか、割と蓮くんがお気楽だったのかなあ」


 現在SE-RENのマネージャー兼プロデューサーとなっているママが、眉間に皺を寄せて悩んでいる。


「蓮くんが、お気楽?」


 あれはあれで割と苦労性っていうか……どっちかというとネガティブ要素が強かったりするイメージがあるんだけど。


「聖弥くんに比べたらお気楽だと思ったわ。少なくとも、あんまり深いこと考えてないわよね」

「た、確かに」


 深いこと考えてないって点については同意するかも。


「割とユズに似てるとママは思った。もう目標が決まってるから、そこに向かってがむしゃらに努力してればなんとかなるだろうって考え方」


 アイター! 確かにそうですけどね!

 でも、現段階でできることってそれしかないんだもん。


 将来動物園の飼育員になりたいから、どうやったらなれるかは調べた。

 特に必要な資格というものはなくて、普通免許は持ってるといいよみたいな話があったけど、多分それはどんな仕事でも日常生活でも必要になるところだし。


 採用試験の時に生物学とかの知識が必要になるという話もあって、高校卒業後の進路として大学の生物学科に進むか専門学校に進むかの二択かなと思ってるけど、冒険者科の授業が受験向きじゃないから専門学校になりそうな気配。


 でもそれも、2年生中頃くらいの成績次第かなって。

 生物は得意科目だから、それだけに限って言えばいけるんだけどねー。


 うん、やっぱり私は今はステータス鍛えて、足腰弱った象を抱え上げられるくらいまで強くなるのが優先かな!

 すっごい強みじゃない? テイマージョブ取得してて、大動物を押さえ込める力があるのって。ライオンすら保定できるんだよ。


「考えてみたけど、今の私がやるべきは、学校の勉強とステータス上げだと思いました! まる! じゃ、ヤマトとランニングしてくるね」

「ユズはそれでいいのよ。……でも聖弥くんはねえ。親が、私より強火なのよねー。弁護士だし」


 ママより強火!? そ、そんな恐ろしい人が私の周囲にいるのか……。


「念のため、今日は学校から直でダンジョン行ったりしないで一度帰ってきなさい」

「わ、わかった」


 なんだろう、怖いな。

 そこはかとなく、嵐の予感。

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