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第94話 魔法使いェ……

 MAG48――これがどれだけ凄いかというと、「MAG30で上級魔法・上級ヒールのスキルを取れるようになる」という事実でわかると思う。

 MAG依存の魔法スキル習得条件は、初級がMAG10、中級がMAG20、上級がMAG30。その他にジョブ取ってると取れるようになる魔法とかあるけどそれは割愛。


 で、MAGが5上がるごとに1つのスキルを選択できるから、蓮は今魔法の初級・中級・上級と、ヒールの中級・上級から7つ選択できる状態。いや、5つ取れば全部取れるけどね!


 今日の特訓前に「取るべきは中級ヒールと初級魔法か」って言ってたのは、MAGが20だったからだ。MAG10を超えたところで初級ヒールを取ってたから、選択できるのは中級まででふたつ。


 だけど、一気にLVアップしたことで、もうえらいことになってる!


「魔法系全部一気に取れるじゃん! 取っちゃえ!」

「ええええ、俺のここんところの悩みは一体……」

「待った待った、先にジョブを取ろう。回復と魔法攻撃と補助魔法、どれを優先したい?」


 面倒な魔法の習得が一気にできると知って、「全部取ろう!」と突っ走った私だけど、熟練冒険者の毛利さんが止めてくれた。

 確かに、ジョブを取るのは大事! ジョブごとのスキルも付くし、専用魔法も取れるようになる。


「うーん……どっちかというと、回復優先です」


 蓮は悩みつつもそう答えた。まあ想定内かな。「初級魔法と中級ヒール」って言ってたくらいなんだし。


「じゃあ、まずは中級ヒールと上級ヒールを取って、ジョブヒーラーになろう。その時に解放されるスキルの中でも、MAGによるポイント消費型で取れるものがある。それを見てから後の選択肢を決めたほうがいいよ」

「なるほど!? そうします!」


 蓮が指先を震わせながら中級ヒールと上級ヒールを取得した。そしてステータス画面に戻ると、ジョブ【ヒーラー】という文字が増えていた!


「……なんでMAG更に上がってるの?」

「ジョブボーナスだよ。柚香ちゃんもDEXが上がっただろう?」

「えっ? 私は確か次のLVアップの時に上がりましたよ?」

「それはLV10に達してなかったからだね。『LV10までは、それまでやったことでステータスアップ率が決まる』の法則だよ。一律でジョブボーナスは+5だけど、成長率の中に組み込んじゃうと更に上がりが良いからね」


 な、なるほどー! 確かに「妙にDEX上がった」とは思ってたんだよね!

 というか、テイマーのジョブボーナスはDEXなのか。MAGじゃないのか。そこはMAGであって欲しかったなあ……。


 そうか、テイマーが後衛で戦闘支援やってる率が高いのは、高DEXになるからなんだね。前衛不向きじゃなくて、後衛向きになるからなのかー。


 私の場合、日本刀を使ってて更にDEXが伸びやすく、元々のステータスが前衛向きだ。

 DEXが上がると「遠距離武器の命中率が上がる」よりは「近接武器のクリティカル率が上がる」運用をした方が良くて、避けながら接近戦というスタイルになる。


 遠距離武器よりは絶対そっちの方が、私の性格にも向いてるしね!


「なんかいっぱいある!?」


 驚きすぎて語彙力がなくなった蓮が、助けを求める顔でアプリ画面を私と毛利さんに見せてくる。


 うわ。

 なにこれ。


 私の場合、ジョブテイマーだけど、特別な項目は【従魔】だけ。ヤマトのステータスも見られるけど、ヤマトも魔法型じゃないから、魔法には無縁。


 そう、私は、魔法には無縁!! 教科書も読んでないほど無縁!

 つまり、魔法の名前がたくさん書いてあるところを見せられても、目が滑る!


「おいゆ~か、なんで目を逸らすんだよ!」

「専門外なので……自分で調べるなりなんなりして。なんだったら私の教科書貸すし」

「教科書に載ってるのか? 俺の今の状況!」


 なんかパニック気味になってるから、私はちらりと蓮のスマホに視線を戻した。


安永蓮 LV17 

HP 95/95(+80)

MP 52/87(+300)

STR 15(+75)

VIT 22(+85)

MAG 53(+215)

RST 42(+160)

DEX 39(+120)

AGI 37(+145)

ジョブ 【ヒーラー】

スキル 【初級ヒール】【中級ヒール】【上級ヒール】【回復力アップ】【護りの祈り】

装備 【アポイタカラ・セットアップ】【ロータスロッド】


「無理! もうこれだけで十分目が滑る! 護りの祈りって何!? 蓮は聖女か何かなの!?」

「知らねえよ!」

「ああ……これは。金沢くんが見たら笑い転げる奴だ」


 そういう毛利さんはそれほど驚いてないけど。――あれ? 今「金沢くん」って言ったよね?


「笑いの沸点が低い金沢さんって、武器クラフトの金沢さんですか!?」

「そうだよ。彼の修行中に護衛をしたことがあるからね」


 ごくあっさりと返ってくる答え。なるほど! 世間は狭いなあ。そもそも神奈川県内のことだしねえ。


「護りの祈りは、防御力を上げるスキルだよ。魔法スキルの方でもバフは取れるけど、こっちの方がMP消費が低い。――ちなみに、うちのヒーラーはLV57でMAG44だったかな。それでも上級ヒールまで使えてジョブヒーラーになってるけど。つまり、多分蓮くんに魔法に関して教えられる人は、日本国内を探してもあまりいない……。ヒーラーかウィザードかどっちかという人ならいるけど、両方って人はごく一握り」


 毛利さんの説明を聞いて、蓮の体がふらりとかしぎ――ぶっ倒れたー!


「え? 倒れるところ? えええー?」


 なんか気絶してるっぽい蓮を、ヤマトがふんふんと嗅いでいる。お腹の辺りを前脚でてしてししている。「おまえ、何寝とんねん」って感じかな。


「いや……仕方ないと思うけど。蓮くんは常識的なんだろうね、だから自分が一般からどれだけ逸脱してるか認識が難しかったし、受け入れがたかったんだと思うよ」


 一般から逸脱……。確かに、俳優になりたくて、回り道だけどアイドルしてて、そのついでにやってる冒険者でこんな有り余る才能を突きつけられても困惑するんだろうな。


 あと、蓮は意外に小心者だから、自分が努力してる分野ならいざ知らず、「普通じゃない。凄すぎる」って言われても「まさかそんなー」ってシャットアウトしちゃいそう。


「もういいや……面倒だし寝かしとこ。魔法のことはうちの学校の先生にでも相談してもらえばいいし。そうだ、さっき拾ったドロップ鑑定しなきゃ」


 デストードを倒した時に拾った、なんか湿った袋! 取り出して鑑定したら【デストードの痺れ毒】だった。ただし、取扱注意の上にこのままだとうっかり私が触って毒状態になりそう。


「これは……この袋の口を開いて、中の毒液に棒手裏剣を浸せば? でもなんか棒手裏剣投げるときに間違って触りそうー」

「アイテムクラフトの職人に頼むといいよ。毒系はそのまま使う方法もあるけど、薄いシート状に加工してその両面にビニール貼ることもできる。そうすると垂れてきたりしないから、使うときに剣に貼り付けたりして使えるんだ。割と便利だよ」

「湿布みたいな感じですね? それは良さそう! 戦う前に棒手裏剣に貼り付けておけばいいんだ! 垂れてこないってのがポイント高い! それなら村雨丸にも使えるし」


 クラフト凄いなあ! 武器と防具以外にもいろいろある。アクセサリークラフトの人もいるし、アイテムクラフトの人はポーションとか作ってるって聞いてたけど、そんな加工もできるのか。


「毛利さん、もし知り合いのクラフト職人さんがいたら紹介してもらえませんか?」


 図々しく頼むよ。だって金沢さんの護衛もしてたっていうし、毛利さんみたいな高LV冒険者なら、いろんなクラフトの人と知り合いの可能性が高い!


「いいよ、LV上げを手伝ったりした縁で繋がりがある人も多いしね。俺としても知り合いに仕事が入るのは嬉しいから。

 やっぱりこういうのは直接その人を知ってるかどうかが大きくて、HPホームページとかでは判断しにくいところがあるからね」

「わーい、ありがとうございます! そうだ、今日こんなにお世話になると思ってなかったんですけど、御礼はどうしたらいいですか?」


 当たり前のようにLIMEの友達登録画面を出して差し出したら、毛利さんは友達登録してくれた。やった! これでこの先もわからないことが聞ける!


「御礼? いらないいらない。生ヤマトに会えて、柚香ちゃんにはアグさんと遊んでもらえて、それで十分だよ。現役冒険者科の高校生に話を聞けて参考にもなったし、良い気分転換にもなったからね」


 毛利さんは顔の前で手を振りながらニカッと笑った。やっぱり、稼いでる人は心に余裕があるなあ。


「もしよかったら、特訓はもう終わりだろうけど、たまにアグさんと遊びに来てもらえると嬉しいよ。柚香ちゃんには随分懐いているしね」

「それはもう、私にはご褒美です! 時々来ますね!」


 さて、特訓は終わり、私たちは山を降りなきゃね。最後に休憩の時に半分食べたサンドイッチの残りをアグさんに食べさせて、思いっきり撫でさせてもらった。


「アグさん、今日はありがとうねー。また来るね-」

「グルグルグル」


 アグさんにペロって顔を舐められた! うわー! ドラゴンに舐められたー!

 なんかヤマトも舐められてる! 首を伸ばしてヤマトを舐めるアグさん、可愛いっ!

 ヤマトはよろけないように踏ん張ってる。こっちも可愛い。


「さて、俺も帰るか……ああ、蓮くんはおぶっていこうか? それともポーションで起こすかい?」

「いや、いいですよ。私が担いで降ります。アルゼンチン・バックブリーカーで」


 持ち物は全てアイテムバッグに収納して、私より10センチ以上でかい蓮の体をひょいと担ぐ。防具の補正は入ってるからこのくらい余裕だね。

 毛利さんは顔を覆って「尊厳……」とか呟いてたけど、気絶してるからいいのだ。



 後で意識が戻った蓮が、死にそうになってたのは言うまでもない。

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