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第111話 リーダーの役目

 美味しい牛丼を食べて心機一転! 午後の実習に戻るとするぜ!


「事前に確認します! 午後の目標は、まず7層まで行って寧々ちゃんのツノウサテイムをしてからLV上げです。ジョブ取得前に経験値をこれ以上入れないように、倒さず突っ切るよ! いい?」

「了解」

「わかったよ」

「オッケー」

「お願いします」


 パーティーメンバーから口々に返事が返ってくる。ヨシ!

 聖弥くんも使いどころがないタワーシールドは選ばず、バスタードソードだけを持っている。

 この片手半剣、うちのクラスでは不人気である。聖弥くんくらいしか使う人がいない。見た目的には格好いいんだけどね。


 中森くんが両手剣を使ってるけど、あいつはうちのクラスの中でも典型的なパワーファイターだしね。かれんちゃんと彩花ちゃんはショートソード、前田くんは槍、倉橋くんは刀だ。


 前田くんが槍だって話したらママが笑顔で「リアル槍の又左またざじゃない!」って喜んでたけど、前田くんにその話をしたら「ナニソレ? マタギ?」って言われたので、前田利家リスペクトじゃなかった。

 安定した足腰で槍を振るう前田くんはかなり強い。穂先で突くだけじゃなくて、石突きの方で棒術的な戦い方もしてくるからかなりテクニカル。多分男子で一番実戦強いのはこっちじゃないかな。


「ツノウサテイムした後は、そのまま7層で狩る? それとも9層辺りまで下りちゃう? 僕と柚香ちゃんがいて、午前中みたいにスリーマンセルができるなら行けると思うけど。LV9辺りを目指して、明日LV10にして完了みたいな感じ?」


 午前中あまり喋らなかった聖弥くんが、真面目に確認を入れてきた。助かる!

 頭の回転が速い聖弥くんが参謀ポジションに立ってくれると、凄くやりやすくなるなー。


「そうだねー、今の私だと初級ダンジョンのザコモンスは一撃だし、聖弥くんも相手によっては一撃だよね。面倒なのは上から降ってくることがあるヘビだけど、あんまり散開しないで戦ってれば、誰かが巻き付かれてもどうにかなるだろうし」

「9層なんて行ったことないや……」


 須藤くんが不安そうに呟いたけど、あいちゃんがその背中をぽんと叩く。


「大丈夫、ゆーちゃんのSTR38は、初級ダンジョンのレベルじゃないから」

「そうそう、私もうLV16だし、聖弥くんも――あれ?」


 聖弥くん、LVいくつだっけ。10になった記憶はあるんだけど。

 アプリのパーティー画面から確認したら、LV10じゃん! あいちゃんと1しか変わらないじゃん!

 STR12って、言うほど強くないじゃん!?

 てか、私の記憶では蓮のSTRが15だったはず!


「待って……聖弥くん、蓮よりSTR低いの?」

「えっ?」


 聖弥くんが慌てて出発しようとしてた蓮を捕まえて、スマホ出させてステータス確認して、がっくりとうなだれて帰ってきた。


「蓮の方がSTR高かった……」

「うっそー!?」


 私、あいちゃん、寧々ちゃん、須藤くん、4人の声が綺麗に揃った瞬間でしたよ。


「というか、素のステータスだと蓮に何ひとつ勝ってなかった……」

「聖弥くんLV10だし、特訓しなかったからね……蓮は結構きつい特訓をさせたから」


 そう、ユズーズブートキャンプ・ラグジュアリーデラックスという特訓をみっちりね。そこの差とLV差が顕著にステータスに現れてる。


「じゃあ、目標を9層から7層に変更します。スリーマンセルは……そのままでいいか。迂闊に崩して一緒に戦い慣れてない聖弥くんとバディにしたら、事故るかもしれないから。クラフトズはスリーマンセルで確実に敵を仕留めて、私は聖弥くんがミスった場合リカバリーに入る形でオーケー?」

「うん、それでお願い。僕も手負いのモンスを暴れさせないよう、最高率で戦うようにするから」

「それ大事だよ。偉いじゃん、聖弥くん」


 あいちゃんの聖弥くんへの呼び方が変わったなあ。午前中は「由井聖弥ァ!」って怒鳴ってたけど、見方が変わったんだろうな。

 聖弥くんはあいちゃんに褒められて、パッと嬉しそうな顔になった。すっごいわかりやすく。


「ありがとう、アイリちゃん!」

「……は?」


 ……午前中は平原さんって呼んでたよね……。そこ、一足飛びでどうしてアイリちゃんになったし。ほら、あいちゃんも素でポカンとしてるわ。


「あ、ごめん、平原さん!」


 戻った……。聖弥くん、ミスったという表情がありありと出てて顔が赤いぞ。


「元々ourtuberとして知ってたから、アイリちゃんの方が慣れてて……。学校でOネームはマナー違反って柚香ちゃんが言ってたから、頑張って名字で呼ぶようにしてたんだけど」

「あー、寧々ちゃんが初対面の時に蓮のことを、『安永蓮くん』ってフルネームで呼んでたのと同じ奴ー」

「あ、そゆこと。理解。……別にいいよ、アイリちゃんでも。私の場合本名だし、無理してるなら名字で呼ぶことないし」


 ourtuberあるある問題でしたね。


「僕は同じクラスになってから知ったから、『アイリ』としては見てないけど。猫かぶりすぎててもはや別人だし」

「私も先にクラスメイトとして認識しちゃったから、配信者としてのアイリちゃんは芸能人みたいに思ってる」


 須藤くんと寧々ちゃんの見方が、クラスの中では一般的だろうね。あいちゃんのチャンネル登録者はおしゃれに興味がある同年代であって、男子はあんまり見ないし冒険者科はおしゃれしてるどころじゃないし。


「まあ、わかるわ。私、学校で化粧しないしね」


 あいちゃんも、学校では凶暴――素だけど、動画ではメイクもヘアメイクもバッチリだからなあ。どうしても別人感があるよね。


「じゃあ、アイリちゃんって呼ばせて貰うね」


 妙に嬉しそうな聖弥くんを、須藤くんが「えー、蛮勇ー」って顔で見てる。

 あいちゃんはぐいぐい来る聖弥くんに変な顔をしつつも、頷いた。

 聖弥くん、呼び方問題について前から面倒なんだよな……。私が最初「聖弥さん」って呼んでたことについても物申されたしね。


「柚香ちゃん、事前にひとつ大事な確認があるんだけど」


 寧々ちゃんが挙手して質問してくれた。みんな偉い! 事前確認をしっかりするようになってる!


「テイムって、どうやるの?」

「テイムって……」


 寧々ちゃんの質問に答えようとして、私は唐突に気づいてしまった。


 テイムってどうやるの!? 私知らない!!


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