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第112話 テイム=気合い

 私がヤマトをテイムしたとき――いや、違う、ヤマトが勝手にテイムされたとき、だ。

 ヤマトを迷子の柴犬だと勘違いした私は、ヤマトににじり寄っていって、「おいで」って手を出して、ヤマトがペロって舐めてきて。


 それだけで、あのアナウンスが流れてきたんだよなー!


「ご、ごめん……私テイムのやり方知らないや……ヤマトはなんかすっごい好意的で勝手にテイムされた感じだったし。あ、でもテイムができると脳内アナウンスが流れるよ、あの他の人に聞こえない奴!」

「脳内アナウンス……?」

「なにそれ」


 おっと! 私以外の4人には通じないらしい! あっれぇー?

 私があれを聞いたのは、ヤマトをテイムしてジョブを取ったときと、アイテムバッグを拾って所有者になった時――ア、ハイ。

 うちのクラスだと確実に聞いたことがありそうなのは蓮だけですね。蓮はジョブヒーラーだから。


「えーとね、こういうやつ」


 私はアプリをちょっと操作して、寧々ちゃんにアイテムバッグの使用権を付与した。これはいくらでも付けたり消したりできるから、アナウンス流すには一番簡単な方法。


「あ、なんか聞こえた! 柳川柚香のアイテムバッグの使用権を得ましたって」

「そうそう、それ。その声のアナウンスで、個体なんちゃらとジョブテイマーを得ました、みたいな感じのが流れた」

「で、どうやってテイムするの?」


 そこへ戻っちゃうんですよねー!


「わからない……けど、フレイムドラゴンをテイムした人は何時間も睨み合ってたって聞いたよ。多分だけど、『うちの子にする』という気合いなんじゃないかな。コマンド通すときも気合いだし」

「テイマーって気合い職なんだ」


 あいちゃんに呆れられたけど、気合いとしか言いようがないんだよね。


「うちの子にするという気合い……が、頑張ってみる」


 寧々ちゃんが拳を握って自分に気合いを入れた。

 一応これで確認事項は終わりかな。テイムに関しては不安だらけだけど。


 みんなにも他に確認することはないかと尋ねて、全員のオーケーを貰ってから出発だ。結局、一番最後の出発になっちゃったけど仕方ない。


「7層まで走るよー!」

「了解!」


 片手に抜き身の武器を握ったままで、私たちは7層までを駆け抜けた。寧々ちゃんと須藤くん、それと聖弥くんがちょっと息上がってるけど、そのくらいで済んだし途中戦闘にもならなかった。


「じゃあ、ツノウサ見つけ次第私が捕まえるから、あいちゃんと聖弥くんと須藤くんは寧々ちゃんのテイムが終わるまで周囲の安全を確保して」


 7層からの森林エリアは、大涌谷ダンジョンと同じ。ヘビとツノウサと化けキノコしか出ない。化けキノコは遅いし、ヘビは大きい分上から降ってくるとき以外はすぐ気づく。

 問題は、体が小さいツノウサ――捕ったりぃー!!


 ツノウサの突進が厄介かもと思ったら、まさに私に向かってツノを突き出して突っ走ってくるのがいたから、タイミングを合わせてツノを蹴り飛ばしてやった。

 構造上、額にツノが付いてるからさ、あれを蹴られたら頭に衝撃行くんだよね。手加減はしたけど。


 ツノウサは起き上がろうとして頭をぐらぐらさせ、またひっくり返った。そこをすかさず捕まえる私です。


「寧々ちゃん、気合い! うちの子にするという気合い!」


 小脇にツノウサを抱え込んでがっちり押さえ込む。一般的なペットのミニウサギくらいの大きさのツノウサはバタバタもがいてるけど、ダメージ入ったせいか捕まえておけないほどじゃない。

 それに私のSTRは38だよ。


「う、うちの子になれ!」


 気合いたっぷりの寧々ちゃんの声が響く。でもテイム出来てないのは、暴れっぱなしのツノウサの反応でなんとなくわかる。


「続けて、気合い!」

「うちの子にするんだから! 絶対うちの子にする! うちの子になれ! うちの子になって! たくさん可愛がるから!」


 活用凄ーい、と感心してたら、ツノウサの抵抗が少しずつ弱まってきた。


「あ、この子、目の上に白い点がある。麻呂眉みたい」


 私に捕まってるツノウサを観察した寧々ちゃんが、そんなことを言った瞬間――。

 ぴたっと、ツノウサの抵抗が止んだ。

 おおっ、これは!?


「アナウンス来たよ! 個体λラムダがマスターを認定、って!」

「やったー!」

「すげえ!」

「やったね!」

「おめでとう!」


 周りで化けキノコを倒していた他のメンバーからも歓声が上がる。


「ステータス画面の従魔のところから、この子の情報も見られるし名前も変えられるよ」


 テイムした後のことなら! アドバイスできるんだよね!!

 私が放したら、ツノウサは寧々ちゃんの足下へ行って鼻をひこひこさせている。

 じっくり見るの初めてだけど、ツノがある以外は本当にウサギだなー。お腹が白くて、うちのサツキみたいなハチワレ模様のウサギ。


「名前……今従魔λになってるから変えよう。どうしようかな、白い眉があるからマユで」

「ブッ」


 わかりました、って感じにツノウサが鳴いた。ウサギはブーブー鳴くんだよね。滅多に鳴かないけど。


「あ、ひとつ心配なんだけど……寧々ちゃん、これから普通のミニアルミラージ倒せる? 従魔と同じ魔物を倒すのが怖くなったり嫌になったり……」

「マユちゃんと他のツノウサを一緒にしないで?」


 マユちゃんを抱き上げた寧々ちゃんの目がマジですわ……。

 いやあ、いいことですよ。それだけ自分の従魔を特別に思えるってのはね。


マユ LV1 従魔 

HP 3/15

MP 5/5

STR 6

VIT 6

MAG 5

RST 2

DEX 4

AGI 8

種族 【ミニアルミラージ】

マスター 【法月寧々】


 一度階段に戻って、マユちゃんのステータスを見せて貰った。

 ほう、LVは1なんだ。その割にはステータスが思ったより優秀じゃない? 人間と比べるのもおかしいかもしれないけど。


 物理攻撃しかしてこないのにMAGが5とはいかにぃーーーーーーー!? と思ったけど、ミニが付かないアルミラージは魔法で幻影とか見せてくるらしいからなあ。


「もしかして、育てると案外強いんじゃ」

「少なくとも、武器装備してない人間がもうひとり増えるのと変わらない感じになりそう」

「蓮がLV1だったときより全然強いよ」

「ただ、死なせないのが大変かも。防具とかないし」


 私の蹴りで残りHPが3だしね……とりあえずバッグからポーションを出して寧々ちゃんに渡して、寧々ちゃんが手のひらにポーションを開けて飲ませる。小さくてたくさんは飲めないから、半分はおでこにぶっかけてた。


「よし、回復したよ。じゃあマユちゃんは……とりあえずこれで見分け付けて」


 寧々ちゃんがポケットからハンカチを出して、くるくると丸めてマユちゃんの胴にぐるっと回して結ぶ。首に付けない辺りが偉い。首だとすぐ抜けちゃいそうだし。


「いい、マユちゃん、私から離れないでね。他のモンスに攻撃しなくてもいいから、危なくないようにしててね」

「ブッ」


 マユちゃんは寧々ちゃんの言葉を理解しましたって様子だけど……あれー?

 なんでそんなに簡単に言うこと聞くのかなあ!? 

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