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第119話 行くぞエルダーキメラ!

 6層は「広間と回廊どっちで」って話があったのでドキドキしてたけど、広間の外周をぐるりと道が通ってるそうな。それが通称回廊と。

 広間の利点は開けていること。回廊の利点は、複数の敵とぶつかったときに、一度に相対するのが少なくて済むこと。


 今回は急いでるので広場だけど、戦力や湧きの状況を見て回廊を選択した方が安全なこともある、と。

 ちなみにY quartetの場合なら、蓮の魔法があるし、回廊よりは広間の方が戦いやすいんじゃないかとまで教えてもらった。1対多でもあまり不利にならないからね。


 ここで凄く運が良ければ、キメラが回廊の方へ行っていて私たちとすれ違いになるんじゃと思ったけど、エルダーキメラは大型モンスターだからあんまり狭いところには入りたがらないらしい。


「エルダーキメラって、そんなに大きいんですか?」

「ドラゴンくらいだな」


 尋ねた私に安達先生がさくっと答えてくれるけど、それを聞いてびっくりした。

 ドラゴンサイズなの……それはでかくない?

 確か、普通のキメラって、実際のライオンとあまり大きさが変わらないって聞いてるけど。


 でも、アグさんみたいなドラゴンサイズだったら、そりゃ狭い通路には入らないよねえと思って納得。

 だったら回廊の方が安全なんでは? と思ったのは素人考えで、狭い分確実に他のモンスがいたら接敵するし、回り道になるから今回は避けたんだろうって。


 確かに、広間の外周を回廊が囲んでるなら、ガッツリ遠回りか……。


「前方、部屋内にゴーレム」

「安永、部屋に入ったら正面ゴーレムにアクアフロウ」


 安達先生が角を曲がる前に索敵の結果を報告して、片桐先生が攻撃の指示を出した。開けたフロアではないので、私は安達先生の後ろでそれを見て学ぶ。


「正面ゴーレムにアクアフロウ、了解です!」


 片桐先生の指示に従って蓮がアクアフロウを打つ。巨大な水の塊がゴーレム師匠を吹っ飛ばし、一撃で片が付いた。

 最初、「10時の方向」とか言われてたんだけど、蓮がその言い方について理解してなかったので、言い方変えられてた。

 この辺は、確かに4月に入ってすぐ教わったから、蓮と聖弥くんは習ってなかったんだよね。


 通り過ぎながら安達先生がゴーレムの魔石を拾って、サクサク進む。

 結局6層ではエルダーキメラには遭遇せず、ちょっと緊張が増してきた。


「橋本たちのいる隠し部屋はここから2時の……最初の分岐を右に行って、その先でまた右に進んで突き当たりの部屋から隠し部屋に続いてるんだが、先にエルダーキメラを退治した方がいいな。橋本パーティーは安全な隠し部屋にいてもらおう」

「探して倒すんですか?」

「明日も実習があるからなあ。このままにしておくとここが実習に使えない」


 無理にレア湧き倒さなくてもいいのでは? と思ったら、学校の都合だった! 納得!


「ん? 咆吼が聞こえたな」


 分岐の次の部屋に入ろうとしたとき、安達先生がそう呟いて立ち止まった。確かに、私にも何か低い動物のうなり声みたいなものが聞こえたなあ。


「柳川、聞こえたか?」

「多分、こっちの方角から」

「由井は」

「僕も同じ意見です」


 私と聖弥くんの意見が一致してて、おそらく安達先生も同じ意見なのだろう。安達先生と片桐先生は目を見合わせ、すぐに頷いた。


「予定変更。この部屋の右側通路に出るのではなくて、正面に進む。声の遠さからいって、おそらく2部屋くらい先だろう」


 私たちは声には出さずに頷き、それぞれ武器を構えた。もういつエルダーキメラに遭遇しても、即戦闘行動に入れる。


 そして、2部屋目を覗いた安達先生がそっと手を上げた。声を出さないのは、エルダーキメラに気づかれないためだ。緊張した面持ちの蓮が私の隣まで来て、杖を構えたままそろそろと部屋に入っていく。


「フロストスフィア」


 その声は小声だったけど、きちんと魔法は発動した。ロータスロッドの蕾が開いて、それが向けられた先のエルダーキメラが白い竜巻に巻き込まれる。

 あれ? エルダーキメラ、思ったよりも小さいな!?


「行くぞ、柳川!」

「あっ、はい!」


 キメラは魔法の発動と同時くらいにこっちに気づいたけど、時既に遅し! そして、ちょっと別のこと考えちゃった私も一瞬出遅れた。


 走り出した安達先生に続いて、全力でエルダーキメラに向かって行く。

 って、なんかいつもと出力違う! 速い! ラピッドブーストのせいか!!


 そのまま村雨丸を振り上げて、走る勢いのまま体当たりするように切りつける。

 考えてたのは、倉橋くんの剣技のこと。運動エネルギーを、そのまま攻撃力に上乗せするように!


「てやぁぁ!」


 中級ダンジョンのレア湧きモンスターは、上級ダンジョンの敵の強さに匹敵する。――つまりそれは、おそらく私が今まで戦ったことのあるどの敵よりも強いって事だ。


 相手が攻撃をするよりも、私が接敵して攻撃する方が速かった。

 裂帛の気合いを込めて振り下ろした私の一撃は、ライオンとヤギの間を裂くようにエルダーキメラを両断した。

 両断……した。


 ライオンとヤギの頭が叫ぶ断末魔に、思わずびっくり。安達先生もヘビの頭を切り落としてたけど、エルダーキメラをほとんど一撃で倒しちゃったよ!


「よくやったな、安永、柳川」

「実際見てみると恐ろしい攻撃力だなー」


 片桐先生はエルダーキメラが消えた後のドロップを拾い上げながら、安達先生は血振りをしながら私たちを褒めてくれた。


「もちろん由井もよくやったぞ。盾があるという安心感は大きいし、ラピッドブーストのおかげで移動時間がかなり短縮されたからな」

「そうそう、ラピッドブースト、結構効果大きいんだね!? 今走ったとき、出力違うって慌てちゃった!」

「役に立てたなら良かったー」


 見るからにほっとした顔で、聖弥くんが胸を撫で下ろす。


「おー、レア湧きだからドロップがあるな」


 片桐先生が見せてくれたのは、象牙色をした短剣だった。アプリで鑑定してみたら、「キメラの毒剣」だって。攻撃力補正がそこそこあって、20%の割合で毒を付与するらしい。


「STR+20か。び、微妙……」

「そりゃ、村雨丸とかのアポイタカラ製に比べたら微妙だろうなあ」


 その数値を見て私がなんとも言えない顔になっていたら、片桐先生に笑われた。

 聖弥くんや蓮のサブ武器としても、アポイタカラで短剣作って貰った方が圧倒的に強いんだよね。毒付与はいいけど、確率が20%だし、まず私たちの攻撃力だとスリップダメージが入る前に敵を倒してしまう。


「さて、隠し部屋に橋本たちを迎えに行こう」

「あー、片付いた片付いた。10層に潜る羽目にならなくて良かった」


 エルダーキメラを無事に倒してほっとしたのか、片桐先生は表情を和らげ、安達先生は思いっきり伸びをしていた。


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