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第132話 どこにも出せない癒やし動画

 アグさんは怖くないよーと十分寧々ちゃんにアピールして、寧々ちゃんもそろりそろりとアグさんの背中を撫でてみたりして、じゃあそろそろマユちゃんの修行に入りますかね!


「そうだ、修行の前にこれ着けないと」


 寧々ちゃんが取り出したのは青いハーネスだ。こ、これはもしかして、アポイタカラ製ハーネス!?


「できたんだ!?」

「うん、ステータスも100%じゃないけど上がるのが確認できたよ」


 マユちゃんにハーネスを着けると、野良のツノウサじゃないってことが一目で分かっていいね。青い平紐に少し濃い色で北欧風の刺繍が入ってるのが可愛い。このデザインは寧々ちゃんかな?


マユ LV5 従魔

HP 55/55(+25)

MP 23/23(+50)

STR 13(+32)

VIT 14(+35)

MAG 12(+33)

RST 8(+35)

DEX 8(+32)

AGI 16(+33)

装備 【アポイタカラ・ハーネス】

種族 【ミニアルミラージ】

マスター 【法月寧々】


「なにこのMAGの高さ! ずるい~! 特に何もしてないのにー!」

「柚香ちゃん、種族補正種族補正! ヤマトだってMAGそれなりにあるでしょ!」


 マユちゃんのステータスを見たら、羨ましすぎてつい叫んだよね……。

 むう……ミニアルミラージの上位種のアルミラージは魔法も使ってくるから「そういう種族」って言われたら何も言えないけど、解せぬぅぅぅ!


 それと、補正だけど私たちの防具の半分の数値で付いていた。「総アポイタカラだけども使ってる量が少ないからだと思う」とは寧々ちゃんの解説。

 だから、ヤマトの服にも同じ補正が付くはずだってさ。


 そのヤマトの服は、今うちのママと五十嵐先輩と寧々ちゃんと寧々ちゃんのお父さんの間でデザインを検討中らしい。

 はっきり言って怖い。


「アグさん、このマユちゃんの修行を手伝ってあげてね。ミニアルミラージで強くないから、アグさんは座ってればいいから」

「ギャス」


 わかったよー、という風にアグさんが頷く。本当に賢いな、この子は。


「鑑定してみれば分かるけど、マユちゃんじゃどう頑張ってもアグさんにはダメージ入れられないから。安心して攻撃させていいよ。アグさんは何もしてこないから」

「す、凄いフレイムドラゴンだね……でも確かにフレイムドラゴンからしたら、私の攻撃もマユちゃんの攻撃も、蚊が刺したほどにもダメージ感じないのかも」

「うん。痒くなる分、蚊の方が嫌だよ……」

「それもそうだね……」


 蚊に刺されたら蒸しタオルですぐさま刺された場所を抑えると毒が分解できるとか、水道水で洗い流すといいとか、そんな虫刺され談義をちょっとしてから、寧々ちゃんはマユちゃんに攻撃のコマンドを出した。


「マユちゃん、アタック!」

「ブ、ブー……」


 珍しくマユちゃんにやる気が無い。合宿の時はちゃんと寧々ちゃんの命令聞いてたのに……と思ったら、アグさんが「わー、ちっちゃい子がいるー」みたいなキラキラした目でマユちゃんをガン見してるんですわ……。


 フレイムドラゴンにガン見されてたら、そりゃあ普通のモンスターはアタックしづらいよね……。


「アグさん、ごめん、ちょっとあっち向いててくれる?」


 私が頼むとアグさんはマユちゃんに完全に背中を向けた。

 それでやっとアグさんに向かって行くマユちゃん。ダッシュからのウサパンチ。

 小さいお手々を揃えてビシッ! と攻撃するけど、これは可愛いだけで威力が無い!


「か、可愛い……」

「そこでツノアタックじゃなくてウサパンチなんだー。可愛いねー」


 寧々ちゃんは動画を撮り始め、私もほっこりですよ。


「ああー、すっごい人に見せたいのに、アグさんが映ってることが問題だから表に出せない」

「そうだね、あんまりここは広めないようにしてるって聞いたし」

「明後日みんなでダンジョン行くよね。平原さんとか須藤くんに見せようっと」

「私にも送ってください。ママに見せたい」

「うん、いいよー」


 アグさんに攻撃しても反撃が来なくて、安全なんだと学習したらしいマユちゃんは、段々行動が大胆になってきた。恐る恐るのウサパンチだけじゃ無くて、後ろ足でのキックやツノアタック、それに、助走からの体当たりとか。


 体当たりなんか、ぽよんと弾き飛ばされてて、私たちは「いや~ん!!」って歓声を上げてしまったよ。可愛すぎる!



 さて、そんな特訓を30分ほど続けていたら――。

 ヤマトが、飽きた……。

 仕方ないね。自分は何もできずに見てるだけなんだし。

 まあ、上級の1層は広いからフライングディスクで遊ぼうかと思ってぶん投げたら、アグさんが割り込んで来ちゃった!


 ヤマトもそりゃあ素早いけど、アグさんには敵いませんよ……。

 フライングディスク咥えて、「褒めて!」って持ってくるアグさんは凄まじく可愛いんだけど、これは犬ですわ! ドラゴンじゃなくて犬ですわ! アグさんのマスターさんはどういう躾をしたんだろう。


 困ったぞ。おもちゃを使って私とヤマトで綱引きをすると私が引きずられちゃうから、ボール遊びかフライングディスクが安全なんだけど、それだとアグさんもやりたがっちゃうよね。


 突然動いたアグさんにビビって、マユちゃんは寧々ちゃんの後ろに隠れちゃってるし。


「寧々ちゃん、マユちゃんは少し休憩にしよう。私フライングディスク2枚持ってきてるから、少しヤマトとアグさんに息抜きさせるね」

「うん、ちょっとマユちゃんもバテてきたからちょうどいいかも」


 携帯用のお皿に水を貰ってそれをチャッチャッチャと舐め、寧々ちゃんに撫でられていたらマユちゃんはコロンとひっくり返った。可愛い……ウサギ侮り難し!

 私は私で、2枚のフライングディスクを別々の方向に思いっきり投げる。ドスドスと足音を響かせてアグさんが走り、ヤマトは反対側のディスクを取りにすっ飛んでいく。


 あー、平和だなあ。大人になっても、こうやって可愛いモンスターたちと遊んでいたい……。

 いやいや、自分だけが楽しいんじゃなくて、動物たちや他の動物好きの人に何か出来る人間にならないと。

 お金はあるけどそれにあぐらを掻いていたら、きっと私は動物王国を作ってしまう……それはそれでいい気もするけど。


 30分たっぷりと遊んで、ヤマトもアグさんもニッコニコですわ。

 次にヤマトが飽きたら、ちょっと外に連れ出すことにしよう。



 そうして、ポーションでの疲労回復を挟んで5時間みっちりの特訓の結果――。


 翌々日、中級の小田原城ダンジョンでマユちゃんをLVアップさせてみたら、とんでもない結果が待っていた。

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