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第133話 ヤマトが輝くのは

「では確認です。今日の戦い方は?」

「手近な敵をボコる」


 中級の小田原城ダンジョンは、比較的空いていた。

 夏休みとはいえ、平日だからね。兼業じゃない冒険者と、学生しかいないんだ。


 装備を調えてダンジョンハウスの中で打ち合わせをしているんだけど、私の問いかけに答えたのはあいちゃんだった。相変わらず血の気が多いね……。


 今日は学校行事じゃ無いから自前の装備が使える。

 合宿の時と同じメンバーだけど、今日は装備が全然違う。


 まず聖弥くん。アポイタカラ・セットアップにエクスカリバー。

 そして須藤くんは聖弥くんの予備の防具を借りて、蓮のロータスロッドを持っている。魔法は使えないから、単純に鈍器だね。

 あいちゃんは蓮の防具を着ていて、長い袖と裾は捲っている。そして武器の代わりにプリトウェン。

 寧々ちゃんは私の予備の防具を着て、村雨丸を持った。寧々ちゃんも刀は扱えるしね。


 そして私は自分の防具と、補正は無いけど寧々ちゃんちの刀。

 ハイ! これで全員ガッチガチにステータス上がりました……と言いたいところなんだけど、なんか武器に関しては自我があるらしくて、「合う武器を作った」というだけあって、本来の持ち主が持ったときと同じ補正が付かないんだよね。


 それでも2/3は付いてるし、防具に関しては全員フルで付いてるから、中級ダンジョンで戦うステータスとしては大げさなくらいだ。

 その上、ヤマトと装備を着けたマユちゃんもいる。

 まあ、私たちはまだダンジョン慣れしてないし、私と聖弥くんが中級ダンジョン2回目ってくらいで後はみんな未経験だから、これでも慎重に行くよ。


「今日の目標は?」


 聖弥くんの確認が入った。私はうーんと唸ってしまう。


「中級ダンジョンの実入りがわからないんだよね……。とりあえず、敵が群れてるから、散開しないである程度まとまって戦うこと。2層と3層を戦ってみて、疲労度やダメージでその先は考えよう」

「合宿中に中級行ったよね? その時はどんな感じだった?」

「先輩たちが荒らしまくった後で、まだモンスがほとんどリスポーンしてなかった……」

「うん、エルダーキメラですら、柚香ちゃんがほとんど一撃で倒してたし……」

「なるほど、参考にならない」


 須藤くんの質問に私と聖弥くんが答えると、あいちゃんがスンっと切り捨てる。

 ……せやね。


「でも、全員防具でステータスが凄く上がってるし、ヤマトもいるからあんまり心配要らないんじゃないかな」

「多分……寧々ちゃんの言う通りだと思う。ステータス的にはね」

「だけど僕ら、集団戦に慣れてないから」


 聖弥くんの指摘が鋭い。初級ダンジョンは1対1の戦いだけど、中級からは集団戦だからね。


 ……でも、戦力的に上層の敵だったら、一撃で倒せそうなんだよね。


「……結局、最寄りの敵をぶん殴る、が正解な気がしてきた」

「一周回ってそうなるよね」


 聖弥くんが渋い顔だなあ。脳筋とはほど遠い人だからなあ。


「その場合一番危ないのがフレンドリーファイアーなんだよね……僕のエクスカリバーをアイリちゃんに持って貰って、僕はプリトウェンを持って最後尾から誰がどの敵を倒すか指示した方がいいかな」

「あー、かぶらの陣みたいに組んでね。法月さんとゆーちゃんがW先鋒で、次が私と須藤くんで。聖弥くんは後方中央で盾を持ってバックアタックに警戒ってことか」

「あいちゃん凄ーい。でも陣形組んでもヤマトに台無しにされる未来しか見えない!」

「それだよねえええええええ!!」

「そもそも僕も、ヤマトと戦ったことないや」


 軍議はぐだる……。そして最終的には「同士討ちしない程度に間を開けて最寄りの敵を殴れ」ということになりましたよ。

 うん、臨機応変って事だね。だって暴走ドッグがいるからね……。



 その場で全員でパーティー登録をして経験値を共有できるようにして、いざ小田原城ダンジョン!

 1層で聖弥くんがラピッドブーストとスタミナブーストを全員に掛けた。これだけでも心強いなあ。

 2層に入ったら早速、宙に浮いたティーポットのようなモンスター――スチームポッターがわらわらとこちらへやってきた。

 教科書で見たことはあるけど、実物は初めて!


「熱いお出迎え、嬉しくないっ!」


 装備で底上げされた腕力を使って、あいちゃんがプリトウェンを振り回してまとめて3体を片付けた。陶器の割れる音と一緒に、床にビシャンと水が落ちるような音。

 確かに嬉しくない! 陶器製のスチームポッターの中身は熱湯なんだよね。気を付けないと火傷しちゃう。


 中にはこれをテイムして、いつでも熱々のお湯が便利って言ってる人もいるらしいんだけどさあ!


「ヤマト、火傷するといけないから――」

「ガウッ!」


 アタックしないようにして、と私が言う前に、ヤマトは頭突きでスチームポッターをぶっ飛ばしていた。離れた場所で地面に激突して粉々になるティーポット。……確かにこれなら火傷しないわ。


「マ、マユちゃんは前に出ないようにね」


 腰の引けたような物言いだけど、寧々ちゃんも村雨丸で綺麗に敵を両断して、熱湯攻撃を避けている。

 須藤くんは……ロータスロッドの長さを生かしてフルスイングしてた。


 うん……。これは思ったより心配ないね。



 その後も10匹くらいまとめて出てきたホブゴブリンや、強靱で粘着性の強い糸を飛ばしてくるジャイアントスパイダーとかが出てきたけど、ステータスが高すぎる私たちの敵じゃ無かった。

 集団戦というよりは1対1がたくさんって感じだったけど、マユちゃんも果敢にアタックしていくし。


 そういえば、マユちゃんのステータスって、補正があるせいで中級ダンジョンのモンスとほぼ同じくらいになってるんだよね。強いわけだよ。あくまで味方なら、の話だけど。

 敵だったら「弱い」って思うけどね。



 石造りの2層から4層はだだっ広いエリアだったけど、意外にこちらの戦力が十分でサクサク進む。そして5層からは小部屋と回廊が出てきた。

 自然と私が先頭に立って、索敵をしながら進む。


「次の部屋、物音がする。……でもヤマトが反応してないから他のパーティーっぽい」


 その部屋には入らずに、通り過ぎざまに中を覗いてみたら本当に他パーティーだった。やるじゃん私!


「その先は――ああっ! 待ってヤマト!」


 止めても効かない猛ダッシュ! ヤマトは一目散にちょっと先にある小部屋へと突っ込んでいく。


「ガルルルル!」


 小さい体で飛びかかっていくのは――ゴーレムだ! しかもたくさんいる!


「ヤバっ! これモンスターハウスじゃない?」

「ヤバいけど――ヤバくないかも」


 あいちゃんの焦ったような声に、妙に落ち着いた聖弥くんの声が続く。

 稀に発生するというモンスターがみっちりいるモンスターハウス。その中でヤマトは実に生き生きと、ゴーレムをどつき、噛みつき、次々と粉砕していった。


「なるほど、これが暴走ドッグ……」


 ゴーレムを殴る気満々っぽく杖を構えていたのに出番がない須藤くんが、妙に哀愁を漂わせながら呟いた。

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