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神を殺す武器

第228話 腹黒四天王

 うちに着いた途端、玄関からママとパパが飛び出してきた。


「ユズ!」

「ユズ、大丈夫か?」

「うえっ……苦しい」


 ふたりに思いっきりぎゅうぎゅうされて内臓出るかと思った……。

 どうも、あとちょっとで家に着くってタイミングで颯姫さんがママにLIME送ってたみたい。


「大丈夫、大丈夫だから。ちゃんと話すから」

「果穂さん、この度は大事なお嬢さんをお預かりしてたのに、あんなことになって本当に申し訳ありません」


 颯姫さんが私の隣に来て頭を下げる。あ、今は常識人モードだ。この人はオンとオフの切り替えできるところが大人だよね。

 車からライトさんとタイムさんとバス屋さんも出てきて、揃って口々にお詫びを言う。パパとママは、その謝罪には首を横に振った。


「あんなの、誰も防げなかったでしょう。むしろご心配お掛けして申し訳ないわ」

「娘を心配して尽力してくださってありがとうございました。こうして今無事でいるし、お気になさらないでください」


 うん、パパとママの言うとおり。ライトニング・グロウの人たちはできることをやってくれたよ。

 本当に「まさか物理攻撃が効かないとは」に尽きるからね。


「車内でも少し話したんですが、今後のことを少し相談させてもらいたいと思いまして」


 話を切り出したのはタイムさんだ。ちらっと颯姫さんを見て、彼女も頷いてる。


「わかりました。どうぞ、上がってください」

「バス屋はこのまま帰るぞ、おまえがいても役に立たないから」

「えーっ、ライトさん酷え!」


 結局車にはライトさんとバス屋さんだけが残った。結構な人数がぞろぞろとうちの中に入ってくる。蓮と聖弥くんは当たり前の様にいるし、五十嵐先輩と彩花ちゃんもいる。

 彩花ちゃんは同席させるかどうか悩んだんだけどね……話が余計ややこしくなる気がするし。でも現時点で撫子について一番情報持ってるのは彩花ちゃんだから。


「ユズと彩花ちゃんとミレイちゃん、ユズの部屋で着替えてきたら? 蓮くんと聖弥くんはパパの部屋使っていいわよ。颯姫さんとタイムさんは……」

「大丈夫です、コート着てれば目立たないのでこのままでも帰れます」

「私もです。布防具だし、着替えるの面倒なのでいつもそうしてるんです」

「そう? じゃあお茶を淹れてくるからリビングで待ってて」


 ママはキッチンに引っ込み、私はアイテムバッグから蓮と聖弥くんの着替えを出して渡した。そっちはパパが部屋に案内して、女子組は私の部屋に。

 いつもだったら「わーい、ゆずっちのベッドだー」ってダイブしたりする彩花ちゃんが今日はやらないね。黙々と着替えてる。

 というか、今考えてみると、ガワが女子中学生の時でも中身成人男性であれをやってたってこと!? 変態過ぎない!?


「彩花ちゃーん……まさか、小碓王おうすのみこの意識のまんまで私のベッドにダイブとかしてたわけ?」


 般若の様な顔で私が問いただすと、彩花ちゃんは「ヒッ!」と喉の奥から悲鳴を漏らした。


「それはヤバいね……前世の記憶と人格を引き継いでたら、女子扱いできないんじゃ?」


 そう言いながらも五十嵐先輩はアポイタカラゼッケンを脱いで、サクサクと芋ジャーから普段着に着替え始めた。うーん、この人も中身は限りなくおっさんだからなあ。


「あのねえ……なんていうかなー。前世の人格100%じゃないんだよ。えーとね、あれだ、画像編集ソフトでさ、レイヤーが重なってるとするでしょ? まず一番下層に小碓の意識があって、その上に他の前世の人格と記憶がレイヤーで重なってて、そこら辺は不透明度5%位な感じで、一番上に彩花としての人格のレイヤーが不透明度50%くらいで載ってる……みたいな。

 だから、過去の記憶も意識も透けて見えてるけど、ボク自身の意識と記憶が現時点では一番見えやすい……と思う」

「それにしてはあまりに端々が小碓王なのよ」

「それはゆずっちもだってば。魂の根本が変わらないってそういうことだよ」


 ぬう、ああ言えばこう言う。まあ、私も過去の自分がまさかあの場面で往復ビンタかますとは思ってなかったから、引き笑いしか出ないけどね。


「あれ、長田おさださんからだ」


 五十嵐先輩のスマホがメッセージ着信の音を鳴らす。それを確認して先輩は変な顔になった。


「柚香ちゃん、長田さんからメッセージ来てるから見て」

「え、私宛ですか?」


 スマホ渡されて思わず慌てたよ。「長田さん」って文化祭実行委員長のあの長田先輩だよね?

 そのメッセージを読んだ私は、あんぐりと口を開けて顎が落ちた。


 要約すると、長田先輩のお兄さんがヤマトの正体に気がついて、確証を得るためにDNA鑑定をしたいそうだ。

 長田先輩のお兄さんっていったら、ヤマトと出会った次の日にサザンビーチダンジョンに来て助けてくれた人たちの中のひとりだよね。……と思ってたら、メッセージの続きが来て、ハンドルネームは「くるっく」だって教えてくれた。

 本当はX‘sからダイレクトメッセージでコンタクトしようとしたんだけど、私がダイレクトメッセージを解放してなかったから妹の長田先輩経由で話をしてきたんだって。


 くるっくさん……めっちゃ覚えがある名前だわ。多分頻繁にスパチャ入れてくれてる人だよね。長田先輩が文化祭の時に私とのツーショットを自慢するって言ってたもん。


 ヤマトは神使の狼……だよね。それが正体じゃないのかな。

 でもステータス画面を見ても相変わらず【柴犬?】になってる。なんでだろ。


 私にとっても不思議なことだし大事なことだとも思うから、DNA鑑定は了承って事を伝えた。ついでに私のIDを送って長田先輩に直接繋がってもらう。


 3人揃って着替え終わってリビングに降りて行ったら、リビングテーブルを囲んでママと颯姫さんとタイムさんと聖弥くんが座っていた。何故か全員テーブルに肘を突き、指を組んで顎を載せている。


「それでは、腹黒四天王プレゼンツ、これからのゆ~かちゃんの立ち回りについて相談を始めましょうか」


 厳かに宣言したタイムさんに、蓮がびびってパパの方に逃げている。

 こ、これは最強四天王だわ!

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