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第242話 冒険者の落とし穴

 観覧車から降りてもまだテンション下がったままのあいちゃんに気を遣って、「とりあえずテンションブチ上がるアトラクション乗ろうよ!」と私たちは園内をさっき来た道を戻るように歩き始めた。絶叫系が固まってるエリアがあるんだよね。


 蓮のトラウマになったかもしれないタワーウォータースライドの横を通っていくと、円状になった座席が回転しながら左右にめっちゃ振れるグレートディスクと、ばいーんって打ち上げられるスカイラッシュ・ヒュー、それと対になる上からどーんと落とされるスカイラッシュ・ストーンがある。


「とりあえずこれ全部乗ろう!」

「あっ、私バンジージャンプやってみたい!」


 隣にあるバンジージャンプ用のタワーを見てあいちゃんが急に復活した。バンジー! 私もやってみたい!


「『18歳未満は18歳以上の保護者の同意・同伴が必要です』って書いてあるぞ。残念だったな」 


 蓮が注意書きを見て、へっと笑う。ぐぬぬぬぬぬ……蓮は多分バンジーはやりたくないけど私たちがやるなら自分も根性でやるしかないって思ってたんだろうな。

 くっそー、18歳になったらリベンジだよ!


 アトラクションはそこそこ混んできてて、待ち時間も長くなってきてる。列待機の間に聖弥くんがお団子買ってきてくれたりして、とりあえず小腹を埋めたりした。

 グレートディスクは苦手な人は苦手なんだよね、また蓮の絶叫が入るのかなと思ってたんだけど、私たち4人は誰も悲鳴を上げなかった。

 ……おかしい、前に乗ったときよりもスリルがない。

 続けて乗ったスカイラッシュ・ヒューも昔はブラックアウトを体験したりしたんだけど、なんか、普通。


「もしかして、ステータスが上がってる分、耐G性能とかがあがっちゃってる?」

「ゆっくりに見えるよね……」

「でもタワーウォータースライドは……」

「あれはコースアウトしそうなのが怖かっただけだから!」


 顔を見合わせて悩む私たちの中、蓮だけが叫んでる。――そっか! スピードとか回転とかにスリルを感じにくくなってるなら、別方向のスリルを求めればいいんだよね!


「絶叫は無理かも知れないけど、怖く感じるアトラクションに心当たりがあるよ。……もしかしたら、怖いって思うの蓮だけかも知れないけど」

「えっ、何々? もー、ステータスが上がったら絶叫マシンが楽しめなくなるなんて思ってなかったよー。ゆーちゃんのそれ試してみよ!」


 絶叫マシン大好きなあいちゃんががっかり顔で私の提案に載ってくる。そして私は、空中を走るレールを指差した。



「怖っ! 落ちそう! おい柚香、爆走させるな!」

「落ちない落ちない! そういう風に設計されてるんだから!」

「でもなんかの拍子にこのまま傾いて落下しそうで怖いんだよ!!」


 そう、私たちが乗ったのは、蓮が最初嫌がったエアサイクル。これは回転も速度も関係なく、人によってはただほのぼのなだけのアトラクションだけど。

 蓮とかかれんちゃんとか「落ちちゃいそう」と想像する人にはとっても怖いのだ……。


「やめろぉぉぉ! スピードの限界に挑戦するな! そういう乗り物じゃねえ!」

「あーはははははは!!」


 蓮は漕いでないけど、私側が漕いでるだけでガンガン進む。前がつかえるまで、私はコースを「エアサイクルじゃない」速度で爆走し続けた。


 降りたら、後ろを走ってた聖弥くんとあいちゃんから「うるさすぎ」「ただの迷惑行為」って怒られたけど……。

 蓮は怒ってなかったけど、酸欠みたいになってベンチでしばらくぐったりしていた。



 時間ずらしてお昼をのんびり食べて、前ほど楽しめなくなったアトラクションを「それでもなんとか」と乗っているうちに日が傾いてきた。


「あっ! 今から並んだらタワーウォータースライドの上の方からイルミネーションが見られるんじゃない?」


 あいちゃんが「私冴えてる!」って感じに言い出したので、渋る蓮を引っ張りつつまたあのタワーに並ぶ。待ち時間から考えると乗れるのは17時頃だから、その後イルミネーションをゆっくり見つつ帰るとちょうどいい感じ。


 そしてあいちゃんが思った通り、並んでいる間にイルミネーションが点灯する。この遊園地の中で一番高いところから見下ろすイルミネーションは、光の絨毯のように綺麗だった。


「ここ、一番見晴らしがいいんだよな。アイリ天才じゃん」

「もっと褒めていいよー。メガグラビティから見るともっといろいろ見えるみたいだけど、同じ事考えてる人がいっぱいいるから並んでる間だけでタイムアップしちゃうしね」


 イルミネーションにご機嫌になって蓮があいちゃんを褒めた。……あれ、この後あの絶叫アトラクションに乗って下っていくって事が頭からすっぽ抜けてるのかな?

 そう疑問に思ってたら、聖弥くんもあいちゃんを褒め出す。


「アイリちゃんのアイディア最高だよ。天才、可愛い。アイリちゃんと付き合えて良かった」

「……も、もう。聖弥くんは褒め方が変だよ」


 途端にもじもじし始めるあいちゃんと、満面の笑みの聖弥くん。……私と蓮が、「付き合ってもあんまり関係的に変わらなかった」タイプだから、あいちゃんの激変には驚くばかりだよね。

 そして、高所からイルミネーションを堪能した私たちは、蓮の絶叫と共に地上に降りてきた。2回目だからさっきよりは多少マシかな。


「聖弥、正門で合流な!」


 通路に出た途端、蓮が私の手を取って早足で歩き出す。聖弥くんはハッとして、「了解!」と叫ぶとあいちゃんの手を引っ張って反対方向に歩き出した。


「え、ええっ! 助けてゆーちゃーん!」

「頑張れあいちゃん!」


 ふたりきりが恥ずかしいのはわかるけど、ここは心を鬼にして置いていく!

 やっと、ふたりきりに近い状況になれたんだもんね。あのふたりのことは気にせず、私は蓮と見て歩くよ。


「あ、咄嗟にこっちきちゃったけど、噴水広場反対側だったな。しくったー」

「アーチも綺麗だよ。あ、見て見て、あれフォトスポットじゃない? 撮ろうよ」

「ま、どっち周りでもいいか。柚香と見ることに意義があるんだから」


 私たちは顔を見合わせて笑うと、撮影待ちの列の一番後ろに回った。ハート型のフレームに入って自撮りすると、ここから低い場所のイルミネーションが背景に入って綺麗に写るって感じかな。


「じゃあ、俺が撮るから……柚香はもっとくっついて」


 スマホを構えた蓮の横にぴとっとくっついて並ぶ。でも蓮はシャッターを切ろうとしない。


「……朝のさ、アイリとふたりで撮ってたときくらいに……無理か」

「やってやろーじゃん! えいっ!」

「うわっ!」


 背伸びして蓮の頬に自分の頬を付ける。蓮が慌ててシャッターを切ったから「笑え!」と脇腹を突いて無理矢理笑わせてもう一枚。


 次の人の邪魔にならないようにどいてから、今撮った写真をふたりで確認して、私たちは吹きだした。

 なんだかんだいって、2枚目はちゃんと笑顔じゃん。1枚目は驚いてる顔だけだけど。


「蓮のレアな笑顔写真だー。それ2枚とも後で送ってね」

「最初のはいいだろ?」

「ううん、それも」

「まあいいか。……こういうときのおまえの笑顔、凄いよな。心底楽しそうで」


 なんか蓮がしみじみ呟いてるけど、心底楽しいですが?


「楽しいから笑ってるんだけど? 蓮は今日どうだったの? ――あ、悲鳴の印象しかないや」


 蓮はスマホをポケットにしまうと、珍しく普通に笑った。わー、SSR笑顔だ。


「楽しかったよ。4人でもいいけど、今度はふたりでどっか行こうぜ。……コースアウトしそうなアトラクションのないとこ」

「もしかして蓮、モノレールも怖いタイプ」

「そうだよ、あれ怖いだろ。レールまたいでるタイプも吊り下げてるタイプも別の怖さがある……」


 イルミネーションを見ながら一緒に歩いて、ハートの形のホワイトチョコが浮いたホットチョコ飲んで、正面入り口に先に着いて待っていたら聖弥くんとあいちゃんが歩いてきた。

 聖弥くん、すっごい優しい顔してるなあ……顔は優しいんだよな、本当に。

 ママから連絡が来たX‘sの件でも何か企んでるっぽいし。

 ……でも、あいちゃんに対しては本当に優しいし、あいちゃんにとって悪い方向に持って行くわけないから許そう。


「今日は誘ってくれてありがとう、楽しかったし最高の一日だったよー」


 別れる前は半分パニック状態だったあいちゃんも落ち着いてる。聖弥くんがその手をしっかり握ってて、どういうルートで何を見てきたかはわからないけど、いい時間を過ごしたのはわかるね。


「そうだ、蓮、遅くなったけど誕生日おめでとう。これプレゼント」


 そう言って聖弥くんが差し出したのは、ハートの風船が先端に付いたスティックだった。風船の中にライトが入ってて、ボタンを押すと光る。小さい子が持って歩いてるのたくさん見た奴だ!


「い、いらねえ……これを俺に持って帰れと?」


 ハートのスティックを無理矢理渡された蓮は、顔を引きつらせていた。

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