「まさか聖弥が本当にアイリを落とすとは思わなかった……」
私と蓮の前を、聖弥くんとあいちゃんが手を繋いで歩いている。聖弥くんは堂々としてるけど、あいちゃんは恥ずかしそうに俯きがちだ。
「結果論だけどさあ、あいちゃんだから落とせたんだよね。あいちゃん、免疫なさ過ぎて『自分が男子に好かれるわけがない』って思い込んでた節があるから。聖弥くんのずっと無駄に見えてたアプローチも後から思い出してみればってやつで、それに気づいた途端、顔真っ赤になってたよ」
「……逆に、
「失礼な言い方だけど、クラスの男子とか見てると本当にそうかもしれない。あいちゃんに優しくする男子、中学の時とか見たことないもん」
今私たちは予定を変更して観覧車方面に向かってる。イルミネーションが始まってからだったらすっごく綺麗な景色が見られるんだろうけど、下調べしたときにSNSで「混みすぎ死んだ」って書き込みを見たから、昼間のうちに乗っちゃえーってことになったんだよね。
そして、聖弥くんのためにここでふたりずつ観覧車に乗ろうぜっていうのが私と蓮の作戦だ。もちろん聖弥くんもそれを狙ってると思うけど、私たちだってね、W「デート」なんだしちょっとはふたりきりになりたいわけですよ。
まだ午前中だし観覧車はそれほどは並んでなくて、順調に私たちの番が来た。
さて、ここで蓮とふたりで乗り込んで「じゃーねー」って笑顔で言ってやろう……と思っていたら。
「何名様ですか?」
「ふたりでーす」
「嘘でしょ!? 今ふたりきりにしないで! 死んじゃう!! 4人です、4人でお願いします!」
私の腕をがしっと掴んで、係員さんに人数を訂正しながらあいちゃんが凄い形相で一緒に乗り込んできた!
聖弥くんも困ったように笑いながら結局4人で乗ることに。ぬう、あいちゃんが抵抗するんじゃ仕方ないな。
私と蓮が並んで座り、向かいに聖弥くんとあいちゃんが並んで座ってる。もちろん手は繋いだまま。
そして……会話がない!
あいちゃんがいつもと違って乙女モードに入っちゃって、ずっと恥ずかしそうに黙ってるんだもん!
面白いから証拠写真撮っておこうかなってスマホを取り出した時、私はひっかかってた気がかりなことを思い出した。
「そういえばさー、寧々ちゃんから全然連絡がないんだよね」
水曜日から颯姫さんたちとどっかのダンジョンに潜ってる寧々ちゃん、多分その晩くらいにいちど進捗連絡くれると思ってたんだけど、連絡が全く来ないのだ。
ママの方に颯姫さんから来てるかなと思ったけど、それもないらしい。
「そういえば……ダンジョンって地下であんなに深いところもあるはずなのに、なんで電波通ってるんだ?」
「えーと、それはねえ……」
蓮の疑問に、アカシックレコードを使って答えを探す。そして見つかった答えに私は思わず額を押さえた。
神様、前から思ってたけどどっかの神話でネタ担当がいるのかな?
「……現代の人間社会に電波機器が浸透してるから、ないと不便だろうと思ったんだって。それよりトイレ付けてくれた方が深層まで潜れるんだけどなあ!?」
「そ、そんな理由なんだ」
あいちゃんはぽかんとしてるし、聖弥くんは顔を引きつらせている。
「あ、なんかコードがある……うっ、目が滑る……いや、脳か。なんだろう、この辺のダンジョンの構造とかって、プログラムみたいに記述されてるよ。そっか、一個一個作るんじゃなくて、システムを作っておいて一斉生成した方が早いもんね……」
「技術を司る神様とかのなかに、プログラミングできる人もいるのかな」
「日本の神様とかかなり近代の人もいるから、混じってそう」
私たちはそれぞれ所見を言ってみたけど、結局「神様の考えることはわからん」って考えるのを諦めた。
観覧車で景色を眺めるはずが、まさかのアカシックレコード接続になってしまった……。
「だとすると、余計法月さんから連絡来ないの謎だよね。ダンジョンって、ここより電波ずっといいのに」
「だねえ……あ、ママから電話」
電話は通じるんだと驚きながら、私は通話ボタンを押した。すると慌てたママの声が響く。
『聖弥くんそこにいるのよね!? 愛莉ちゃんに告白したの? SNSでプチバズってる!』
「ええええええええええええ!?」
たかが30分くらい前の出来事だよ!? こんな電波の悪いところでSNSに動画をアップした人がいるの!? どんな根性だよ!
「い、今スピーカーにするから。観覧車でちょうど4人揃ってる」
『聖弥くんが愛莉ちゃんに告白して、周り中からおめでとうって言われてる動画がX‘sに上がってるのよ。聖弥くんの顔はバッチリ映ってて、愛莉ちゃんの顔は角度的に見えないんだけど、声が入っちゃってるのよね。
うぷ主も悪意があるというより、「クリスマスシーズンに初々しくて幸せな光景見た! 末永く爆発しろ!」っておめでとう気分でアップしてるみたいなんだけど……』
「うん、他人の顔が映ってる動画をアップしてる時点で問題だわ」
「ど、どうしよう……」
見る間にあいちゃんが真っ青になっていく。すると聖弥くんはするっと指を組み替えて、あいちゃんの手を恋人繋ぎで握りしめた。わーお、それをナチュラルにできる男か、さすが聖弥くん。
「大丈夫だよ。僕が穏便にいい方向へ誘導するから。電波の状態がいいところへ行ってからだけどね。……どうせなら、それまでに万バズくらいしてくれると効果あるなあ」
あいちゃんに向ける笑顔は凄く優しくて頼りがいがあるけど。
由井聖弥、今度は何を企んでる!?