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第251話 決戦へ

 颯姫さんが選んで提示してきたダンジョンはいくつかあって、その中に大山阿夫利おおやまあふりダンジョンの名前があるのを見たとき、私は迷わずそれを選んでいた。

 なお、今回は私の安全が最優先なので、蓮と聖弥くんは口を挟まないつもりらしい。いつも挟んでないけどさ。


 今回のメンバーは、いつものY quartetに彩花ちゃん、そして「ここまで来たら最後まで」ってことでライトニング・グロウの人たちが参加してくれる。

 彩花ちゃんは配信に映りたくないけど映ったら映ったで仕方ないってスタンスで、ライトニング・グロウの人たちは多分バス屋さんが見切れるだろうけど基本的にカメラに映るような場所には行かないということになった。


 そういえばバス屋さん、「ライトニング・グロウのウェーイwな槍使い」「槍持ちシベリアンハスキー」って一部スレで呼ばれてるらしい。

 槍持ちシベリアンハスキーは草だわー。そのまんますぎて。


 ダンジョンハウスで着替えてから長い髪をキリッといつものポニーテールに結って、前に戦ったデストードの毒対策に毒無効の指輪も装備する。蓮と聖弥くんにも毒無効の指輪と不滅の指輪は装備しておくようにと渡しておいた。

 このダンジョンの通常の敵と戦うつもりはないんだけど、撫子がいつ出てくるかわからないからね。

 今までの感じからすると、必ず現れるとは思うんだけど、「いつ」というのが読めない。

 最悪、下層まで潜らせて私たちを疲弊させてから現れるという可能性もある。


 そんな嫌な予想を立てながら、アポイタカラ・セットアップの中に隠すように蓮とお揃いのペンダントを着けた。これは柳川柚香として生きていくための、私のお守り代わりだ。

 弟橘媛から繋がる悪いしがらみは、今度こそ必ずお終いにする。


「よし、行くぞ」


 自分の頬を叩いて気合いを入れると、黒ずくめの防具に身を包んだ彩花ちゃんが手を伸ばしてきた。


「ゆずっち、一緒に終わらせよう。全部の因縁を断ち切って――それで、は長谷部彩花として生きる」


 そっと私の体に手を伸ばして抱きしめられるけど、それは今までとは違う触れ合い方で。私の肩にことりと頭を載せてくる彩花ちゃんは、私を盲目的に愛する小碓王じゃなくて前世からのしがらみに翻弄された同志のような感覚だった。


「そうだよ。いい加減に苦しかったことも悲しかったことも解き放とう。彩花ちゃん、信じてるから、お願いね」

「うん、任せて」


 彩花ちゃんは抜き身の天之尾羽張あめのおはばりを持っている。鞘がないから、結局アイテムバッグの中では、ママが持ち出してきたオレンジ色のサテンでぐるぐる巻きのままだったんだよね。


 AGIとDEXが上がるオリハルコン・ヘッドギアは今日は聖弥くんの代わりに彩花ちゃんが装備している。とにかく、彩花ちゃんの動きが全てだからね。


 私と彩花ちゃんが更衣室から出ると、いつも通りに家から装備を着てきてるライトニング・グロウの人たちと蓮と聖弥くんが既にスタンバイしていた。――颯姫さんを除いて。


「あれ、颯姫さんはどうしたんです?」

「アネーゴならフレイムドラゴンと遊びに行ってるよ」

「うえっ?」


 当たり前のように返されたバス屋さんの言葉に、思わず変な声出ちゃったよ。

 た、確かに私もアグさん用にサンドイッチ持って来てるけど……そうか、そもそも大山阿夫利ダンジョンが候補に出たって事は、ライトニング・グロウでもここは潜ってるって事だよね。


 なんとなく、ここって秘密の気がしてたけど、上級ダンジョンとして解放されてるんだから人が来るのは当たり前で。フレイムドラゴンに喧嘩売る方が常識的にはおかしくて。アグさんを鑑定すれば従魔だって事がすぐわかるし……。


 ……なるほど、無問題だわ。

 蓮は前にアグさんと会ってるけど、聖弥くんと彩花ちゃんはアグさんに会うのは初めてだから、驚かないようにと前置きしておいてダンジョンの1層へと案内した。

 うむ、もごもご動く赤い小山の前に颯姫さんがいるね……首の辺りを撫で撫でしてるし、顔見知りなんだなあ。


「アグさーん」

「ギョロロロロロロ!」


 私が呼んだら、甘えた声を上げながらアグさんがドスドス走ってきた。聖弥くんと彩花ちゃんはびびって引いてたけど、従魔だから安全だよと念押しする。


「アグさん、久しぶり~! たくさん遊びたいけど、今日はちょっと片付けなきゃいけないことがあるんだ。それが終わったら遊ぼうねえ」


 サンドイッチの包みを開けてアグさんに差し出すと、アグさんは長い舌でペロリとサンドイッチを口に入れ、あっという間に3切れ食べてしまった。

 そこへ颯姫さんがゆっくり歩いてくる。


「ああ、ゆ~かちゃんはサンドイッチ持って来たんだ。私は今日はコーラグミ」

「颯姫さんはアグさんの好物も知ってるんですね」

「一応、この子のマスターさんと知り合いなの。活動してた時期も被ってるしね」

「そ、そうか! 同じ県内で活動してた時期が被ってると知り合いの可能性もありますもんね」


 さらっと颯姫さんが言ったことでまた驚いてしまったよ。

 颯姫さんって秘密が多い人だなあ。ライトニング・グロウの4人の関係性も普通のパーティーとなんか違う気がするし、いろいろ不思議。


「さ、やることやっちゃおう。それからゆっくりアグさんと遊ぼうか」


 彩花ちゃんはおっかなびっくりアグさんを撫でてたけど、聖弥くんと蓮は近寄らないね。こんなに可愛いのになあ。爬虫類系の可愛さって、人を選ぶのは確かだけど。


 アグさんには配信に映らないようにフロアの端っこに行ってもらって、私と蓮と聖弥くん、そして「暴走犬」Tシャツを着たヤマトはカメラに向かう。


「こんにちワンコー! Y quartetのダンジョン配信はっじまっるよー!」


 敢えていつも通りの明るい声。だって、暗い声でカメラに向かうのは私のキャラじゃないから。


『ゆ~かちゃん、蓮くん、聖弥くん、こんにちワンコー!』

『今日で片を付けるんだよな?』

『マイエンジェル! 無事を祈ってるからね!』

『ゆ~かのその明るさは、本当に俺たちの宝物だよ』

「は? 何死亡フラグ立てるようなこと言ってるんですか? 私はいつだって私らしく! 暗い顔してるのなんて似合わないでしょ?」

「そうそう、こいつが泣くのはもう見たくないからさ、俺も全力でバックアップするし」

「爽やか王子の僕もいるからね!」

『爽やかさは役に立たんのじゃあ』

『どっちかというと奸計を巡らせて欲しいんだよなあ、聖弥には』


 おっと、最近爽やかさを売りにしてる聖弥くんは、前からの視聴者さんにズバッと指摘されてるね。でもニコニコしながら口に指を当てて「黙って」って彼のジェスチャーで、コメント欄に『…………』が流れていく。


「いろんな意味で協力ありがとうございます。僕も蓮もゆ~かちゃんも、夢を叶えるために戦うから。応援しててください」

『聖弥が一番死亡フラグ立ててる説』


 それね……実は私もちょっと思ったよ。


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