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第385話 実食! おにぎりロシアンルーレット・2

 蓮は思いっきり顔を歪めながら、一口毎にお茶をがぶ飲みしつつ無理矢理おにぎりを飲み込んだ。途中で何度もゲホゲホとむせていて、元々目力が強いのにすっごい険しい目でバス屋さんを睨んでいる。


「最悪、最っ悪! 信じられねえ味! 一口目は具に到達しないと思ってたから思い切り行ったら、米食ってるはずなのに口の中スースーするし意味不明なまでにまずい! 炭水化物にミント合わせていいのはチョコミントだけなんだよ! 誰得なんだよこの食い物!」

「ごめんね、ペロッ☆」

「クッソむかつく! もう食べ終わってる順番だったらパラライズして転がしたのに!」


 激昂する蓮にバス屋さんがてへぺろをしたせいで、更に蓮がブチ切れた! おお……なんでこの人自分から地雷を踏みに行くの?


『バス屋、確信犯だろ……』


「蓮、配信中、配信中だよ!」

「ぐわああああ! マジで不快指数半端ねえ!」


 配信中に今までそんなことしたことないのに、蓮がセットが崩れるも気にせず髪の毛を掻きむしっている!

 こ、これは本気でヤバくない? 外面を気にする「クールキャラ気取り」の蓮をここまで怒らせるなんて!

 どんな味だったんだ、フリ○クまぶしご飯……。


「次バス屋さん! 順番入れ替えでバス屋さん行って!」

「呪われろ!」


 私はまだ叫んでる蓮を無理矢理フレームアウトさせて、バス屋さんに行けと指示を出した。ここはバス屋さんも痛い目に遭ってもらわないと収拾が付かないよね。

 私のを引いてればいいんだけどな。


「俺は……聖弥のおにぎりでーす。地味に嫌だ、絶対変なもの入ってる」

「え? 変なもの入れろって企画出してきたのって、バス屋さんですよね?」


 わーお、笑顔で首を傾げてる聖弥くんが凶悪だよ。これは、蓮の仇を取ってくれそうな頼もしさがあるね。


「いただきまーす。あっ、ちゃんと塩付いてる。そこは俺より上」

「ふざけんな、誰でもあんたより上だよ」


 一口目から食レポをしたバス屋さんに蓮が噛みついている。これは、今回の恨みは根深いな……。


「うっ!」


 慎重に食べ進んだ3口目で、バス屋さんの眉間にガッと皺が寄った。そのままぶんぶんと首を横に振って、口を押さえて哀れっぽい目で他の面々を見てくる。

 咀嚼が完全に停止してるけど、口に入ってるものをそのままにしておくのも嫌だ! って表情で完全に把握できるね。


「人を呪わば穴二つって言葉知ってます?」


 バス屋さんの反応がかなり辛そうなので、蓮がニヤニヤとしていた。うん、その言葉を出しちゃうと、今の蓮も墓穴に入っちゃうわけだけどもね。

 バス屋さんは首を縮めるようにしながら凄く無理矢理口の中のものを飲み下し、一気にペットボトルのお茶を半分まで飲むと完全に被害者の顔で食べかけのおにぎりをチェックし始めた。


「すっごい生臭いし、えっ? なにこれ、俺の口の中で何が起きたの? ビックバン? 俺という小宇宙コスモから新しい銀河が爆誕しそう……いや、むしろミクロ案件? 歯医者行くべき? うえっ、なんだこの柔らかいのが歯に食い込んだ奴ーーーー」


『急に厨二になるのやめてw』

『味覚遮断しろ! LV90で覚えるって聞いたぞ』


 あまりにバス屋さんが食べ物に対する言葉じゃない感想を吐いてるから、他人事のコメント欄は笑ってるけど間近で見てる私たちは怖くなってきたよ。

 そうだ、作ったの聖弥くんだもんね。まともなものを作るわけがないよ。


「うへー、お茶でも流しきれないこの感じ、納豆っぽいけどなんか生き物感があった! ねえ、俺明日へそから変なもの生えてきたりしない!?」

「あ、引かなくてよかった」


 寧々ちゃんがぼそっと呟いた。納豆ダメ派なんだよね、寧々ちゃんは。いや、納豆が平気でも食べたくはないけどね!


 完食しなければいけないというルールは自分が出したものなので、バス屋さんは時折テーブルに頭を打ち付けつつ、ガチで涙を流しながら「中性子のレベルから存在消えて欲しい」「味蕾が存在することを心底後悔した」と言いつつほとんど噛まずに残りのおにぎりを飲み込んでいた。

 うん、相変わらず語彙が理系だなあ、私のこの感想も小並感あるけどね!


「納豆と一緒に、タピオカのニンニク醤油漬けを入れました」


 聖弥くんが爽やかな笑顔をカメラに向ける。途端にバス屋さんの悲鳴と、コメントの悲鳴が轟いた。


『食レポじゃなくて精神崩壊RTAなんよ』

『さすが腹黒王子、えげつない!』

『特級呪物食ってもここまでの反応引き出せねえだろ……』

『見ろよ蓮とゆ~かの顔。ザマァってこのことだぞ』

『うわあ、想像するだけで胸焼けしてきた……』


「バス屋さんが食べてくれてよかった……」

「ありがとうバス屋。由井聖弥の食物兵器を片付けたおまえの犠牲は忘れない」


 寧々ちゃんとあいちゃんもさすがにドン引きだよ。犠牲者を見る目をバス屋さんに向けてるもんね。

 彩花ちゃんなんか、こういう時だけ手を合わせてるし。


「はい次々、元々の4番目だった奴誰だー」

「はーい、私。正直、ゆーちゃんのおにぎりちょっと怖い」


 ……あっ、私のおにぎり、あいちゃんが引いたのか!

 よりによってあいちゃんか。唯一この中で私に向かって攻撃を繰り出せる人間だよ。逃げる準備しておかなきゃ。

 私がちょっとビクビクしていると、あいちゃんはおにぎりを手に取って外見からチェックを始めた。


「見た目はいいんだよね、ちゃんと三角形でさ……うん、一口目は普通のおにぎりです。……あれ? 何か入ってはいるけど、んんん? 味がほとんどないなあ、何食べてるんだろ」

「味がない? ナタデココとろろ昆布巻フライなのに?」


 あ、うっかり先に答えを言っちゃったよ。あいちゃんは答えを聞いてちょっと咳き込んでたけど、「味がする要素がほとんどないよ」と割と冷静に分析してる。

 味がする要素……確かにナタデココって食感だけであんまり味はないかも。とろろ昆布も出汁要素で、塩気と言うほどではないのかなあ。しまった! 渾身の変なものを作ったつもりだったのに、捻りすぎて何かに特化してない味になっちゃった!


「ナタデココとろろ昆布巻フライ……柚香ちゃん、なんでそんなものを思いついちゃったの?」

「字面は凄いのに、味はあんまりしないのか」

「あーん、だったら食べられたのにー! 安永蓮の手作りおにぎりよりゆ~かっちの

が食べたかったよー!」


『ナタデココとろろ昆布巻フライ』

『本当に字面が強いけど、それだけなのな』


 ぐぬう、なんか「おまえの芸、滑ったぞ」と言われてるこの感じ嫌だなあ!

 私がもやっとしていると、残り2個のおにぎりの片方を寧々ちゃんが持った。ううっ、なんか、寧々ちゃんにも無言で「じゃ、次のターン行こうか」って切られた感じがする!


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