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第384話 実食! おにぎりロシアンルーレット・1


 野外用の小さなテーブルの上に、それぞれがおにぎりを置く。

 ……どうしよう、この時点でアルミホイルに包まれてるものとか、既に絶対当てたくない。


「はい、じゃあ、おにぎりロシアンルーレットについて簡単に説明しまーす」


 バス屋さんがにこやかに仕切り始めた。持ち込み企画だから、説明はちゃんとする気らしい。そこは偉い。


『大男が可愛い語尾だと逆に萌える』

『いや、どこにも可愛い要素なんかないやろ』

『バス屋くんはかっこいいと思うよ! しゃべらなければ!』


「え、かっこいいって言われるの嬉しいけど、結局俺ってしゃべっていいの? いけないの?」

「今はしゃべってください。バス屋さんが自分で説明するって言ったんでしょ-」


 バス屋さんは顔がよくて背が高いけど、しゃべらなくても「ダメな子」オーラが出過ぎてて、かっこいいとは一切思えないんだよね。むしろ彩花ちゃんの方がかっこいいと思う。

 でも、視聴者さんの中には「可愛い」って思う人もいるんだね。目から鱗ですよ。趣味は広いなあ。


「じゃあ、説明するからもっと褒めてー! おにぎりロシアンルーレットとは、食べられる物限定で『おにぎりとしては変な具』を入れたおにぎりを用意し、くじ引きで他の人の作ったおにぎりを食べて食レポする企画でーっす」


『はい、可愛い可愛い』

『説明できて偉いでちゅね』


「待って! 褒め方雑じゃね!?」


 コメントが雑に褒めるから、バス屋さんがガタガタとテーブルを揺らして抗議している。でもそれを止める人はいなくて、蓮がさっさと箱に入れられたくじをみんなに回し始めた。


「バス屋さんのは引きたくない……バス屋さんのは引きたくない」

「どうせ食べるならアイリちゃんのでお願いします」

「今日に限ってはゆ~かっちのは引きたくない」


 各々、思いの丈を吐き出しながらくじを引いてるけども……彩花ちゃんの言いよう! まあ、確かにやるからにはって力入れて作ってきたのは間違いないけどさ!


 私が個人的に引きたくないのは、発案者のバス屋さん。経験者らしくて、えげつないものを作りそうだから。そして、メシマズ枠のあいちゃんと、腹黒聖弥くん。


 蓮は調理スキルがないから、そんなたいしたものは作れないはず。そこはあいちゃんもだけど、突拍子もない発想とかしそうなんだよね。蓮の方が常識的というかさ。

 寧々ちゃんは、「良心枠」だ。料理するって話も聞いたことあるし、一番狙いたいのはここ。


「私の豪運、今こそ出ませい!」


 豪運なんてものが本当にあるかどうかは知らないけど、こういう時は「ある」と思った方がいいよね。

 くじは2種類あって、食べる順番が書いてある数字と、参加メンバーの名前が書いてあるものだ。私が引いたのは、「7」と「ねねちゃん」のくじ! 思わずガッツポーズが出たよね!


「じゃあ1番から、食べて食レポしてください。全部食べきらないとダメです」


 嬉しそうに言うバス屋さんの前に、彩花ちゃんがゆらりと立った。「1」の書かれたくじをカメラに見せて、テーブルの上から蓮のおにぎりを取り上げる。


「安永蓮の手で作られたものとか体内に入れたくないけど、食べ物に罪はない……はぁー」


 いただきます、と殺意が漏れた声を上げて、彩花ちゃんは蓮の作った不格好なおにぎりをばくりと大口開けて食べた。

 そして、ちょっと眉間に皺を寄せ、無言で食べ続ける。時々首を傾げながら……え、どういう反応? 食べられない味じゃなかったみたいだけど。


「ごはんに塩味も付いてなくて、何かべちゃべちゃした感じのものが入ってたけど、全体的な感想としては『虚無』だった」


 中身が空になったラップを丸め、どことなく不機嫌になった彩花ちゃんはペットボトルのお茶をぐびぐびと飲んでいる。蓮は「えっ」って意外そうな顔をしているから、聖弥くんが「何を入れたの」と尋ねたけども。


「チューブのおろし生姜……きっと辛くなるんじゃないかと思って」

「あー、あの食感それかー。おいしくはなかったけど、食べられない味じゃなかった。正直、今回に限ってはマジでゆ~かっちとバス屋のは引きたくないと思ってたから結果オーライ」


『ゆ~かちゃんは調理スキルあるから怖いよね』


「ああ、そういう意味で警戒されてるんだ」


 普段だったら私が作った物なら人から奪ってでも食べそうな彩花ちゃんに避けられてる件、正しく危機管理能力の発動だったのか。

 まあね、私の作った物を誰が食べるかわからないけど、早く反応見てみたいとは思う。


「じゃあ、次僕だね。じゃじゃーん、なんと僕はアイリちゃんのおにぎりです!」


 満面の笑みの聖弥くんが、あいちゃんのおにぎりを取り上げる。愛、強いな!


「大丈夫大丈夫、確かに変なもの入ってるけど、まずくはなってないと思う!」

「変なもの入れたらまずくなるんだって、普通は」

「いただきます!」


 あいちゃんのフォローになってない言葉に彩花ちゃんがツッコんで、聖弥くんは一瞬だけ目を泳がせてから思い切って行ったー!


「うん、美味しいよ!」

「一口で言うなよ」


『具にまで到達してないのでは』


 蓮と視聴者さんのツッコミを食らいながらも、聖弥くんは迷うことなく二口目を行き、そのまま全部を食べきった。


「本当に、全然おかしくなかったよ。美味しく食べました、ごちそうさま」

「うわーーーー、よかったぁぁぁぁ」

「愛は感じるけど食レポとしては0点だな」


 カメラに向かって笑顔で手を合わせてみせる聖弥くんに、あいちゃんがホッとしたように崩れ落ちている。そして蓮の採点は厳しいけどもその通り。


「あいちゃんが入れたものは何ですか!」

「私が入れたものは、キャンディチーズです!」


『なるほど、ミスマッチそうに見えて無害』


 チーズか! おにぎりと合うかどうかはよくわからないけど、飛び抜けて変なものじゃないし、味もちゃんとあるよね。意外にも蓮の「チューブのおろし生姜」よりはまとも度が高かった。


「はぁ……サクサク行くか。次、俺。バス屋さんのおにぎりです。多分最悪の奴引いた」

「うわっ、蓮が引いたんだ」


 さすが、「青箱から【神々の果実・復活】を出した人間」だよ。肝心なところで運が悪い。

 とりあえず、ペットボトルのお茶を出して蓮の横に待機する。絶対ヤバいやつだもんね、すぐお茶が飲めるように準備くらいしてあげなきゃ。


「いただきます。……とりあえず、一口目はまだ具まで到達しないから……グホッ!」


 バス屋さんのおにぎりを口に入れた蓮が、一口目で撃沈したー! そのまま飲み込めずに凄い顔のままで悶絶してる! そこに降り注ぐスパチャが地獄絵図感を増している。


「ちょっとバス屋さん、何入れたんですか!?」


 蓮にお茶を渡しつつ、私は慌ててバス屋さんを振り向いた。バス屋さんは「何も悪いことしてませんが」って顔でパチパチと瞬きをしている。


「俺、具を入れたらおにぎり握れないから、フリ○クをごはんにまぶした奴をそのまま握っただけだけど」

「うわっ、考えただけで寒気がする」


 彩花ちゃんが「鳥肌立った」と自分の腕を一生懸命さすっていた。私もフ○スクまぶしご飯と聞いてぞわっとしたよ。なんで、そんなものを入れようと思い付くかな!


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