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第397話 修学旅行は京都へGO(2年ぶり2回目)

 体育祭が終わり、テストが終わると修学旅行だ。

 今年の体育祭は――うん、大変だった。あまり思い返したくない。


 弓削くんがマスゲームでセンターを取りたがり、1年生の「馬入ばにゆう下り」で弓削くんが去年の私の真似をして八艘飛びしようとして、まんまと落ちた。

 とうとう「自意識過剰ボーイ」が3年生にも認知されたよ……。


 マスゲームは3位、総合では2位だったから、結果は悪いわけじゃないんだけどね。去年の総合優勝はやっぱりいろんな要因が絡んだ奇跡だったんだなーって思ったよ。


 3泊4日のうち、2日目と3日目が班別の自由行動で、どっちか1日を使って清水寺ダンジョンに行くことになっている。


 学校によっては「全員まとめて同じ日に行けば、危険度が下がる」って、同じ日に行くところもあるらしい。

 でも私たちは「ドラゴンの取り分が減るだろうが!」って意見が圧倒的で、3班と4班に分かれて攻略。


 ……確かに、1年生の時の金太郎ダンジョンでの合宿を見てると、大人数で一気に押し寄せちゃうと、うまく計画してばらけない限り戦力飽和だったね。

 1年生だったから、それでもよかったんだけど。


 クラス内での話し合いの結果、2日目のダンジョン攻略は法月・平原・前田・由井班。3日目が長谷部・安永・柳川班。

 理由は割と簡単で、「強い奴らは後回し」だった。リスポーンするとはいえ、ドラゴンが大量に出るわけではないから。



 私とあいちゃんと寧々ちゃんは直前まで「従魔連れて行っちゃダメなんですか?」ってごねたけど、「むしろ修学旅行に連れて行けると思ってるのおかしいだろう」って先生に真顔で言われた。チッ。

 まあ、そんな事前準備があり、修学旅行当日。

 集合場所は小田原駅だ。ここから新幹線で京都に向かう。


「解せぬ」

「許せん」


 新幹線の3列席の真ん中に座った私と、通路側に座った蓮が低い声でぼやく。

 ちなみに、通路挟んだ反対側の2列席には聖弥くんとあいちゃんがいる。誰もこのふたりを邪魔しようとはしない。

 が、私たちは普通に邪魔される! そう、彩花ちゃんによってね!


 彩花ちゃんが窓側、私が真ん中、蓮が通路側の席になったんだけど、彩花ちゃんってば窓側の席を自分で選んでおいて、爆睡してやがる!

 しかも私の左手をがっちり握ったまま!


 倉橋くんなんか、それを見て心底安心したって安らかな顔をして、前方の席に向かって行ったよ。もちろん、席は事前に決まってたけども。


「窓側を選んでおいて即寝るなよ……いや、俺も多分この後寝るけどさー」

「ねー、新幹線で一番楽しいのって窓際なのに」

「いやいや、長谷部正しいから」


 後ろの席から、急に浦和くんが立ち上がった。おわあ、びっくりした!


「窓際は景色見られるけど通路側に出にくいじゃん? だから、通路に出ないって決めた奴が座るのが一番いいんだよ。長谷部の『通路から一番奥にいるから寝る』って、鉄的に大正解」

「鉄的に……」


 浦和くんって、鉄道マニアだったんだ。知らなかった。


「うーん? でも、俺の前を何度も通る長谷部とか確かに迷惑だよな」

「そういうこと。ちなみに俺は窓際だけど、こっちから思いっきり日が入ってくるけど、カーテンは閉めない。景色を見たいから。それが、鉄!」

「まぶしいんだよ、閉めてよ」


 そんな浦和くんに隣の席の千葉くんがツッコんでいるけども。

 冒険者科にとっては「移動時間=お昼寝タイム」だからなあ。

 なんだかんだ言ってるけど、私も蓮もそのうち寝ちゃうだろうし。


 浦和くんと千葉くんは「カーテン閉めろ」「だが断る」でちょっと揉み合いになってたけど、更に後ろにいるかれんちゃんと柴田さんからの「うるさい」という一喝と、

起きちゃった彩花ちゃんの不機嫌な視線で黙った。


「安永蓮、その無駄な長さの脚をどけろ。トイレ行ってくる」

「おい浦和! 長谷部の行動大正解とか大嘘じゃん!?」


 しかも堂々と「トイレ行ってくる」って私と蓮の前を通っていくしね、彩花ちゃんってば。

 はぁー、行きの行程からこれって、前途多難の予感しかしないね。

 いつものことだけどさ。



「あれ本物だよね? 寝てた! かっこいい!」

「寝てるときも顔がいい!」


 ……ん?

 やっぱりいつの間にか寝ちゃってたなあ。

 で、横を通って行ったお姉さんたちの声で目が覚めたわけだけども。


 うちのクラスは35人。引率の先生を入れても新幹線の1両は埋まらない。

 だから同じ車両にも他のお客さんは乗ってるんだけど。

 蓮や聖弥くんの寝顔でも見たんだろうか。それでなかったら、隣の車両に芸能人でもいたのかな。


 隣の蓮はくかーっと寝てる。ちょっと口開いてるけど。

 ひょいっと横を見たら聖弥くんも寝てるけど、ちゃんとマスクしてそういう顔を見せないようにしてる。

 わー、あいちゃんとか思いっきり聖弥くんに寄りか掛かって寝てるなあ。ラブラブ~。


 なんとなくもう寝なくていいかなという気がしたので、ペットボトルのミルクティーを飲みつつスマホをいじる。

 もうすぐ京都だなーって頃にみんなが起き始めて、そのうち何故か前田くんが私たちの横にある通路で立ち止まった。


「なあなあ、今トイレの前でバス屋さんに似てる人を見たんだけど?」

「えっ?」


 私と蓮と彩花ちゃんが、途端に険しい顔になった。

 というか、似てるだけじゃないのかな。何も聞いてないから。


「私はそんな話は聞いてないよ」

「俺も」

「そっかー。まあ、俺も配信でしか見たことないから、本人か確信持てるわけじゃないけど」

「……そこはかとなく嫌な予感」


 確かに、ちょっと嫌な予感はするよね。でもバス屋さんだって旅行くらいするだろうし、私たちは修学旅行だから、その間ダン配も企画配信もないからどこかへ遊びに行ってるって可能性もある。


 ……という淡い期待は、京都駅でズバッと打ち砕かれましたけどね!!


「やっほー! 俺も来たよー!」


 京都駅に降りた瞬間、私たちを見つけてぶんぶん手を振る183センチのシベリアンハスキー!

 俺も来たよじゃないよ、私たちは一応学校行事だよ!


「楽しそうだから俺も一緒に行くー。彩花たちもこっちにいるしさー」


 その言葉にピクリと反応した人がふたり。ひとりは彩花ちゃんで、もうひとりは――。


「……バス屋さんって、長谷部と付き合ってるんです?」


 あんまり見たことのない疑いの目をバス屋さんに向けてるのは、倉橋くん。

 あっ、彩花ちゃんがそんな倉橋くんを見て喜んでる。確かに嫉妬してるように見えるもんね。


 ところがバス屋さんはおろおろと戸惑いながら、叱られた大型犬のようにしょげて倉橋くんに近寄った。


「えっ……俺と彩花が付き合ってるとか、なんでそんな恐ろしいこと言うの? 俺、キミに嫌われるような事した?」


 言い方ーっ! そして被害者面!

 元凶はあんたでしょうが!


「で、でも、動画とかでも仲よさそうに見えるし……」

「俺は彩花に完膚なきまでに叩き潰された過去があるんだよ!? 仲良しに見えるかもしれないけど、下僕なわけ! それに、美人でもこんな怖い子と付き合うのヤダ!」

「ば~す~や~……」


 ゆらりと彩花ちゃんがバス屋さんの後ろに立った。いつの間に移動してたの?


「天誅!」

「ぎいやあああああ! お許しください彩花様ぁ!」


 彩花ちゃんのミドルキックがズバンとバス屋さんのお尻に炸裂した。ひえっ、あれは痛い。高ステータスのバス屋さんじゃなかったらヤバいやつ!

 クラスメイトどころか、新幹線ホームにいる人がみんなざわざわしてる。


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