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第398話 ぐだぐだ京都観光、開始

 凄い、僅か1分程度の時間で、「黙って立っていればいいけど、しゃべった途端残念」な中身を余すことなく晒してる!

 あ、もしかして新幹線で通りかかったお姉さんが言ってた「寝てるときも顔がいい」って、バス屋さんのことだったのかなあ。


「はっ、長谷部、やめてやれよ」


 思わず止めに入った倉橋くんの後ろに回って隠れながら、バス屋さんが目に涙を浮かべた。


「助けてくれるの? 凄えいい奴じゃん、俺と仲良くして? 名前なんていうの? 倉橋かー、よろしく、親友!」

「や、柳川……この人なに!?」


 ……無意味にフレンドリーなシベリアンハスキーに懐かれた倉橋くんという幻影が見えるな。



 倉橋くんはいきなり馴れ馴れしく肩を組んできたバス屋さんに困惑してる。当然ですね。


「あー、その人はね……多分、大人げというものをお母さんのお腹に残したまま生まれてきたタイプの、混沌の使者だよ」

「俺も彩花たちと一緒に観光するー! いや、彩花じゃなくて倉橋と一緒に遊ぶー! 倉橋と仲良くなりたい! 今まで俺の周りにいなかった白い王子オーラを感じる」


 倉橋くんって、やっかいなのに好かれる星の下に生まれたの? 確かに、聖弥くんは「黒い王子」だし、彩花ちゃんも倉橋くんのことを王子様と思ってるみたいだけど。


「バス屋さんって友達いないんですか?」

「センシティブな話題で心を抉ってくるゆ~かちゃんが酷い! 助けて蓮!」

「……バス屋さんって『俺たち以外』に友達いないんですか?」


 蓮の言い直した言葉も、大差ないけどね?


「俺の友達、みんな就職しちゃって遊んでくれないんだよ」


 そう言ってバス屋さんはしょんぼりとうなだれた。 

 大卒新社会人の年齢だもん、仕方ないよね。


「そろそろ移動するぞー」


 そして大泉先生は動じてない……。


「あ、俺は駅前のホテルに泊まってるからさ、遊びに来てもいいよ! LIME交換しよ」

「倉橋から離れろよ、バス屋。フッシャー!」


 倉橋くんに抱きついたままでスマホ取り出してLIME交換を迫るバス屋さんと、威嚇する彩花ちゃん。彩花ちゃんに威嚇されて思わず応戦し、自分もフーシャー言うバス屋さん。


「これ、もうわけわかんないね」

「倉橋ってば、長谷部に狙われるだけじゃなくてバス屋さんにもロックオンされたの? 不憫」


 常識派のかれんちゃんと須藤くんが、その場のみんなの意見を代弁していた。



 倉橋くんは圧に負けてバス屋さんとLIME交換し、一応その場では別れた。

 私たちは隣の駅の山科まで移動して、山科セミナーハウスに一度荷物を置きに行く。


 山科セミナーハウスも、例に漏れず近くに初級ダンジョンがあるんだよね。

 京都なんてダンジョンが発生する条件がいくらでも揃ってるけど、さすがに文化財とか壊して発生はしなかったらしい。


 この後は夕食前に帰ってくればいいってことで、さっそく自由行動だ!


「柚香ちゃんたちはどこに行くの?」

「今日は清水寺。寧々ちゃんたちは?」

「私たちはね、先に新京極に行ってお土産買っちゃうんだ。それで家に送っちゃう」

「ああー、最終日にバタバタしなくていいもんね」

「うん、でもきっと、観光してる間に買いたくなるものとか増えちゃうと思うけどね」


 去年の夏合宿と同じ部屋割りで、出かける準備をしながらそんな会話をする。

 お土産が増えちゃうのわかるー。美味しいものとかがあると、ついあれもこれもって買いたくなるよね。


「長谷部さんは?」

「私も清水寺方面。やっぱり地主神社に行って恋占いの石を試さなきゃ!」


 おや、さっき倉橋くんを巡ってバス屋さんと争ったせいかな、彩花ちゃんが「私」モードになっている。でも元々行動予定は出してあるから、地主神社は元々行く予定だったんだよね?


「恋占いの石……」

「彩ちゃんの口からその言葉が出てくるなんて」


 かれんちゃんとあいちゃんは、乙女モードの彩花ちゃんにげそっとした顔をしている。

 私は――恋占いの石に挑戦する彩花ちゃんは見てみたいかも。というか、彩花ちゃんと倉橋くんは同じ班だから一緒に行くんだよね。否応なしに。


「というわけで、私たちも地主神社に行きます。何かあったときに止められるように」

「で、本音は?」

「何かあったときに止められるように」


 一緒に自由行動をする蓮の班と合同で移動を開始する前に、私たちも清水寺の前に地主神社に行こうと提案したら、金子くんから「本音は?」って聞かれたよ。

 本音も何も、面白がってるわけじゃない。彩花ちゃんが暴走したらそうそう止められる人はいないから行くんだよ。


「面白がって見物に行くんじゃないんだ」

「恋占いの石ってあれだろ? まっすぐ進んでいくと脛の辺りを強打して、そのまま頭から向こう側にこける奴」


 ……千葉くんの認識ィー! それ完全に物理事故じゃん! 恋も運命もスピリチュアルもぶっ飛んでるじゃん!


「だいたい合ってる」

「いやいやいや、そうじゃないよ」


 蓮まで適当なことを言い出すから、思わず止めたね。


「まあ、いいんじゃないのか? 俺も縁結びお祈りしたい」

「俺も!」


 中森くんの言葉にすかさず室伏くんが同意した。出たな、妖怪「カノジョホシイ」。

 彼らの場合、「誰でもいいから『彼女という存在』が欲しい」という態度が見えているので、同じクラスの女子からはほぼ無視されている。冒険者としてはまあ頼りになるけども。


 結局、彩花ちゃんと私と蓮の班、15人でぞろぞろと清水寺方面へと向かった。

 ……人数、多過ぎ。


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