京都駅からバスに乗りぎゅうぎゅう詰めになりながら移動して、「清水道」で下車。
わー、2年前にも来てるけど、やっぱりここは「観光地!」って感じがするね。
坂道を上りつつ焼きたてでサクサクの八つ橋を食べて箱買いしたり、お土産屋さんを覗いたりしながら進む。
明後日もここには来るけども、目的がダンジョンだから観光は今日するつもり。
清水寺の境内に入って、清水の舞台に行く途中に地主神社がある。縁結びで有名なスポットだし、人がたくさんだ。
順番に手水で清めて、お参りをしてから恋占いの石へ。
というか中森! お参りの時のお願い事を声に出すな! 「彼女欲しい彼女欲しい」とか、恥ずかしすぎるよ。
――と思ったら。
「彼女欲しい彼女欲しい。彼女できますように!」
うわあ、聞き覚えのある声が、もう一段階上のしつこさでお願いをしている。
「ば、バス屋さん……なんでここに」
ふらり、と蓮がよろめいた。うん、私もぶっ倒れたい気分だよ。
「蓮ー! ゆ~かちゃーん! 彩花……はいいから倉橋ー!」
でっかい声で私たちの名前を呼んで、黙っていれば顔がいい残念な大人がぶんぶんと手を振ってきた!
「ゆ~かちゃん? ……ホントだ、ゆ~かちゃんと蓮くんだ」
「高校生の集団? 修学旅行なのかな? わー、バス屋さん本当に背が高くてかっこいいけど、しゃべったらダメな人なんだね」
ほらぁ! 一部の参拝者の人にはバレちゃったし!
修学旅行くらいは静かに過ごしたいと思って、髪型変えてきたのに!
「私はいいってどういうことだ! フッシャー!」
「寧々ちゃんに頼んで倉橋の行き先聞いて先回りしただけだもん! フッシャー!」
口ではフッシャーって言ってるけど、彩花ちゃんとバス屋さんはアリクイの威嚇ポーズをしてる。……やめてよぉ、ここ神社だよお。
「は? 法月に聞いたってどういうことです?」
ささっと蓮の後ろに隠れつつ、倉橋くんは怯えている。
本当に、どういうことだろう。寧々ちゃんが倉橋くんの行き先なんて知ってるわけが――あー!
そういえば、宿で荷物を整理してるとき寧々ちゃんに行き先聞かれた!
彩花ちゃんの行き先を知ってるってことは、同じ班の倉橋くんの行き先を知ってるってことだ!
「寧々ちゃん……まさか、バス屋さんに情報を売ったの……?」
「普通に聞いたら教えてくれたよ? LIMEで」
無邪気な顔でバス屋さんがこっちにスマホ向けてきた。さすがに時間までじっくり見られなかったので、私はバス屋さんに問いただす。
「ちなみに、それはいつです?」
「京都駅で別れてすぐ」
「ダメだ、寧々ちゃんは黒!」
バス屋さんに訊かれてから、彩花ちゃんの行き先を確認してるもん。しかも、バス屋さんに訊かれたってことは教えてくれなかった。
「何か条件付けられました?」
「んー、それは……まあ」
「目を逸らすな」
「寧々ちゃんは悪くない、寧々ちゃんは悪くないから! あと、俺も悪くないから魔法は撃たないで!」
蓮がひっくい声で追い詰めたら、バス屋さんが土下座を始めた。目立つからやめて! 外国の人が興味深そうに動画撮ってる!
「はぁー……とりあえずおみくじ引こうっと。お守りとか欲しい人はもらってきたら?」
「あ、買ってこよう!」
ごそっと10人以上が授与所へ向かい、あまり興味のない人が残る。ここは縁結び特化の御利益がある神様だから、私と蓮は行かなかった。
その間におみくじを引いたけど、半吉。こ、これは見たことない!
で、旅行のところには「思わぬ災いの兆し」って書いてある。
既視感!
あれ? 初詣での時にもこんなこと言われなかったっけ?
他のところは概ねいいんだけども……やだなあ、私って微妙に神様と縁があるから、こういうの気になっちゃう。
「柚香、どうした?」
「あ、なんでもない」
思わずおみくじを折りながら、心配そうにしてる蓮にへらっとした笑顔を向けてしまった。……そんなに困惑が顔に出てたか。
おみくじを結んでくると、お守りをもらいに行ったみんなが戻ってきている。
「バス屋さん、必死すぎ。お守りに絵馬にお札に鈴は買い過ぎ」
金子くんがツッコんだとおり、バス屋さんの袋の中には随分いろいろ入ってる! 他の人たちはせいぜいお守りだけなのに。時間が掛かったのは絵馬まで書いてたからか。
「俺いつも真剣だよ。必死だよ、彼女欲しい」
「モテそうなのに……」
「高校も大学も女の子少なかったし、付き合っても1週間以上続いたことがないよ」
ピキッと、周囲の空気が凍り付いた。
バス屋さんは自虐で本当のことを言ったんだろうけど、ほとんどの男子は「彼女いたんだな?」って天敵に向ける目を向けていた。
んー、この人は、自爆が得意だなあ……。
「女の子が少ない環境でなんで彼女できるの……?」
「えー、逆ナンされたり、行きつけのコーヒーショップの人に告白されたり?」
うわっ、蓮がフロストスフィアを唱えたのかと思うくらいの冷気が漂い始めた!
「逆ナン……?」
「でも、いつも『思ってたのと違った』って振られるんだよ!」
「ああ、それはそうだろうね」
赤いお守り袋を握りしめた彩花ちゃんが、冷ややかな目をバス屋さんに向ける。それでやっと、氷点下かってくらいの冷たい空気がちょっと和らいだ。