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第406話 難所越え

 清水寺ダンジョンには、「上級ダンジョンの中でも攻略難易度が高い」と言われている2大難エリアがある。


 ひとつ目は、他に東尋坊ダンジョンとか限られたところにしかない「絶壁エリア」。

 これは階段を降りてすぐ崖があって、凄く迂回しないと人間の足で普通に通れる場所がないエリアだ。


 清水寺ダンジョン17層からあるこのエリアは、「下層へ至る前に大幅に時間をロスしてしまう」原因になっている。


 もうひとつは滝エリア。これは21層から23層で、音羽の滝に由来してると思われる。

 部屋がないぶち抜きタイプのフロアで、壁面は細い滝が何本も流れている。そして、面倒なのはその水が膝ぐらいまでの深さでフロアを覆っていること。


 昨日のパーティーは、ここを越えられなかった。聖弥くんはプリトウェンで簡単に渡れたけど、それ以外のメンバーが無理だった。

 一応、ちゃんと釣り人が穿くズボンみたいなウェーダーという装備はみんな持ってたんだけど、崖エリアの遠回りの後に水中を歩くことで体力を削られて、女子が多いメンバーでは「もう無理~」となってしまったらしい。


 昨日その話を聞いてみんなで相談した結果、以前新宿ダンジョンでやった「氷の上をアイゼンを装着した靴で渡る」のをやるのが一番安全では? という結論に達した。


 なので、私は宿泊先の山科セミナーハウス近くのダンジョンハウスで鉄を買い込み、クラフトメンバーにアイゼンを人数分用意してもらったのだ。

 それと、縄ばしごを10本ほど一緒に買っておいた。


 絶壁エリアの敵は、そこら辺に転がってる大きい岩に擬態するロックリザードや、赤い目をしたでっかいカラスのブラッドウィング、それにドラゴンフライ。

 ドラゴンフライは英語でまんまトンボだけど、モンスターとしてのドラゴンフライは、でっかくて一直線に突っ込んでくる嫌な敵らしい。

 というか、絶壁エリアに出るモンスって、全部性質がいやらしい……擬態するトカゲ、頭が良くて人の頭に岩を落としてくるでかいカラスに、特攻トンボだもんね。


 崖の下の方にロックリザードがゴロゴロしてるって言うのは、昨日ここへ来た寧々ちゃんやあいちゃんから聞いている。近付くまで本気で見分けが付かないらしくて、「気を付けてね」って言われたけど、トカゲ系は大体動きは遅いし私たちは下へ降りる気はない。


 問題は、上空から攻撃をしてくるカラスとトンボだ。


「テレポート」


 私がまずテレポートで向こう側の崖の上に跳んで、縄ばしごを地面に固定。そして重しを付けた反対側の先端を持って、思いっきり反対側にぶん投げる!


「オッケー!!」


 縄ばしごを蓮がキャッチしてでっかい声で応えてくれたので、私はモンスター迎撃モードに入った。

 ギャアギャア言いながら突こうとしてくるカラスを村雨丸でスパスパと倒しながら、特攻トンボはギリギリで避ける。

 このトンボ、前にしか進めないから、スピードは凄いけど攻撃がほぼ自爆なんだよね。命を犠牲にしながら突っ込んでくるの怖すぎるよ。

 そのため、一部では「トンボミサイル」と呼ばれている。ドラゴンフライと文字数変わらないじゃん。


 私がさくさくと戦っている間に、あちら側のメンバーは縄ばしごをこちらと同じように地面に固定した。ここからがちょっと特殊。


「アクアフロウ、フロストスフィア、アクアフロウ、フロストスフィア」


 蓮が魔法を連発すると、縄ばしごを軸にして氷の橋が架かった。ちゃんと地面に接しているところはガッツリとでっかい氷で固定して、人間が渡っても問題なさそうな強度……になってなかったらやばいね!


「柚香、テスト!」

「りょうかーい!」


 蓮がテレポートでこちらに渡ってきたので、私は強度を確認しながらアイゼン付きの靴で氷の上を走る。

 最初は彩花ちゃんがテストという話もあったんだけど、私が一番落ちた場合に対処できるんだよね。


 蓮は高いところから落ちるのがダメだし、彩花ちゃんは落下してしまったら戻るのに時間が掛かる。だから私。

 いきなり氷が割れて落ちるのはさすがに嫌だなあと思ってたけど、上で飛び跳ねても何も問題なさそうだった。


「じゃあ、ひとりずつ渡って。私と蓮がモンスターは食い止めるから」

「柳川様々!」


 まずは室伏くんが危なげなく走って行く。普段から金属装甲の付いた靴を履いてるから、一番慣れるのが早かった。

 トンボとカラスは私と蓮がライトニングやウインドカッターで早めに対処する。


「ひえー、俺昔、こういうトリックが出てくるミステリーマンガ読んだことがある」


 嫌そうに言う割りには凄い勢いで千葉くんが駆け抜けていった。

 その後はおっかなびっくりだったり、悲鳴を上げながらだったりしたけど、とりあえず私以外が全員無事に渡れた。


 最後に私がテレポートで合流してクリア!

 橋を残したのは、帰りも使う予定だから。モンスターは基本人間には向かってくるけどこういう構造物に攻撃したりしないから、溶けた分だけ補強すれば帰りも使えるってわけ。

 うまく行くかどうかはわからないけどね!

 だから縄ばしごは多めに買ってある。


 絶壁エリアを全てこの方法でショートカットして、今度は21層からの滝エリアへ。

 聞いていたとおり、もう階段を降りたらすぐ水が溜まっている。


 ここは一方の端では細い滝から水が少しずつ落ちていて、反対側の方へと流れて行っている。


「心配したけど、流れがほとんどないから助かる。俺の独壇場だな! アブソリュート・ゼロ!」


 ってことで、ここも凍らせてその上を通る!

 蓮がアブソリュート・ゼロを唱えると、ピキピキと音を立てて氷が広がっていき、ひんやりとした空気が漂った。

 アブソリュート・ゼロは本来それほど範囲が広い魔法じゃないけど、「絶対零度を作り出す」魔法だから水を凍らせるには最高なんだよね。


 水中のモンスターは、この時点で氷に閉じ込められて倒されたことになる。それは昔鎌倉ダンジョンで確認済みのやつね。

 ドロップが拾えないのが問題だけど、水中にいるモンスターは倒すのが厄介だから経験値が入るだけマシって感じ。


「こういう時、安永蓮を敵に回したくないってちょっと思う」


 早足で凍ったフロアを歩きながら彩花ちゃんがぼそっと呟いた。

 ……嘘だあ。いつもバリバリ敵に回そうとしてるのに。


「凄すぎ……」

「池の水全部凍らせる安永」

「池じゃねえよ」


 絶壁エリアと違って攻撃されることがないから、みんな安心して軽口を叩きながら歩いて行くね。


 23層までの滝エリアは楽々攻略をして、私たちは2時間ほどで24層への階段へ辿り着いていた。


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