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第405話 ドラゴンへ一直線

「ドロップは帰りに拾うから、まずは24層に辿り着くことが最優先だよ、いい?」

「……ああ、あの作戦」


 私の言葉に倉橋くんはピンときたみたい。

 そう、「武士の集い」の3年生の追い出し会のときの、うちの班がやった作戦ね。

 戦闘は最小限、ドロップは帰りに拾えばいいから無視。

 他の一般冒険者に拾われないかとちょっと思ったけども、この時期の清水寺ダンジョンは高校生冒険者がわちゃわちゃしてて邪魔なので、一般冒険者は寄りつかないらしい……ご迷惑をおかけしております。


「経験値も換金目当てのドロップも、必要だったら戻ってから江ノ島ダンジョンでゲットしよう。とにかく今は、ひたすらに移動! はい、今移動したとき、自分が一番走るの遅かったかもと思ってる人は挙手」


 すっと手が上がったのは須藤くんで、全員の視線はやっぱり須藤くんに向いていた。

 まあ、仕方ない。須藤くんはクラフトだし典型的なDEX偏重型で、パラーメーターとしては戦闘にからきし向いてない。


「じゃあ、選んで。先頭を死ぬ気で突っ走るのと、私に小脇に抱えられるのと」

「先頭を死ぬ気で突っ走ります!!」


 ちゃんと選択肢を用意したのに「一択じゃんかぁぁ!」って突っ伏しながら須藤くんが叫んだ。

 解せぬ。


「柳川……もう少し、情けをさ……」


 倉橋くんまで、須藤くんへの哀れみを込めた視線で私に抗議している。


「小脇に抱えられるくらいよくない? 安永蓮なんかゆずっちに担がれて下山したばかりか、オーバーヒート起こしたときにゆずっちにお姫様抱っこで連れ帰られたんだから」

「なっ……!? 俺、そんなの知らない!」


 彩花ちゃんがしれっと新宿ダンジョンでのことを暴露して、蓮がめちゃくちゃうろたえている。

 今、蓮と須藤くんだと身長差が10センチくらいかな。須藤くんはうちのクラスの男子の中で一番華奢だ。

 下手すると彩花ちゃんの方がムキっとしてるかも。

 だから、蓮をお姫様抱っこできる私は須藤くんを余裕で小脇に抱えられる。


「おまえ、気絶してたから」

「あの時!? あの時にお姫様抱っこで柚香に運ばれたのか!? ぎゃああああ!」


 私が否定しないで目を逸らしたので、蓮が思いっきり崩れ落ちた。

 周囲の男子は、宗教画の中の聖母マリアのような眼差しを蓮に向けている。


「安永、ドンマイ」

「まあ、相手が柳川じゃ仕方ないよな」

「長谷部に襟首捕まれて引きずって行かれたよりマシじゃね?」

「おまえら、他人事だと思ってるだろ!」

「他人事だよ。爆ぜろリア充☆」


 慰めなんだか罵倒なんだかわからない言葉を次々に浴びて、蓮はぐうと呻く。

 こいつら、放っておくとすぐこうなるんだからー。

 私はパンパンと手を叩いて、その流れをストップさせた。


「ハイハイ、そういうわけで、余計な魔法は使わせないでね! 次の休憩は10層だよ」

「走るのに邪魔だから、ボウガンしまっておいてくれない?」

「オッケー。他にも武器が邪魔になる人がいたらアイテムバッグに入れておくよ」

「……ダンジョンで武器が邪魔ってどういうことなんだよ」


 倉橋くんがぼそっとツッコんだけど、「安永もいるし大丈夫か」って言いながら刀を私に預けてきた。

 他にも中森くんの斧とか、金子くんのショートソードとか、かなりの割合で武器を預かる。こういう時、走る邪魔にならない室伏くんのクロウは優秀だね。


「じゃあ、改めて3層走るよ! 23層で上級ポーションあげるから、須藤くんは死ぬ気で走って! 最後尾は彩花ちゃんだから、地獄の獄卒が追いかけてくると思えー」

「的確すぎる比喩で草」

「ゆずっち酷い! 千葉は後で覚えてろ」


 ラピッドブーストだって、効果時間は長いとは言え無制限に掛かってるわけじゃないからね。そっちは蓮に任せてあるけど、できるだけMPは節約したい。


 そして3層、蓮がウィンドカッターで道を切り開き、私が「インフィニティバリア」と唱えた途端、須藤くんが全力で走り出す。

 おお、さっきより全然速いじゃん!

 あれかな、「バリアから出たらまずい」って思ってたから、さっきはスピードセーブしちゃったのかも。


 一応速度に自信がない人は前の方、自信がある人は後ろの方に配置したから、須藤くんの全速力」で移動ができてる。

 あ、でもちょっと間に合わない!

 ――と思った瞬間。


「フロストスフィア!」


 蓮がフロストスフィアを撃って、前方にいた敵を片付けてくれた。

 とりあえず進路上の敵さえいなければ、後ろの敵は彩花ちゃんに任せても大丈夫だ。


「蓮、ありがとう」

「まあ、俺も10秒のタイミング掴めてきたし」

「ゆずっち、ボクにもお礼言ってください!」


 ちょっと遅れて、襲いかかってきたモンスターを片付けた彩花ちゃんが階段に駆け込んでくる。


「彩花ちゃんへのお礼はみんなが言うべき」

「長谷部様ー、ありがとうございますー」


 訓練された男子たちが一斉に彩花ちゃんにひれ伏した。



 森林エリアはショートカットが簡単だ。

 それを過ぎると、一旦平地エリアに入る。ここはマップ担当の出番なので、まずは千葉くんが指示出しをして蓮が先頭を走る。

 私はそのすぐ後ろを、サモン・ファミリアで出した使い魔コウモリのナツを飛ばしながら付いていく。

 ナツは索敵用ね。蓮より先を飛ばしてるから、角を曲がったときとかの攻撃の指示は私が出している。


 通路ではアクアフロウで前方の敵を全部吹っ飛ばし、広間では氷コンボでモンスターを殲滅して通り抜ける。蓮の無双っぷりに、そのうち他の男子たちが口数少なくなってきた。


「……安永の魔法が凄いのは知ってたつもりだったけど、ここまで圧倒的だと不条理を感じる」

「仕方ねえよ、世界最強の魔法使いかもって言われてるんだし」

「こんな人間が身近に何人もいる自分の状況がおかしく思えてきた……」


 今はインフィニティバリアを使ってないので、しゃべる余裕がある人もいるね。


「蓮の魔法、本当に威力おかしいよねー」


 私が同意したら、後ろから非難が囂々ごうごうと!


「いや、一番おかしいのは柳川だから!」

「物理特化だったくせにワイズマンとかどういうことだよ!」

「安永は世界最強の魔法使いかも、だけど、柳川は世界最強の冒険者だろうが!」

「えええええ、世界最強は彩花ちゃんだと思うよ!」

「もしかすると、そんな人間がクラスに何人もいるってのが一番おかしいかも」


 一瞬沈黙が落ちたけど、その直後「それなーーーーーーー」という合唱が響いた。

 というか、うちのクラス全体がおかしいんだわ。

 日本全国の冒険者科を比較しても、「クラフト全員がフリークラフト取得済み、全員がLV35以上」って他に多分類を見ないからね。


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