あいちゃんも寧々ちゃんも、クラフトとして頼りになるし、高DEXのおかげで結構強い。――だけど、そう理屈ではわかっていても、本来戦闘職じゃないふたりが行くのは……なんとなく嫌だ。
本当は私たちが引き受けなきゃいけない戦いに、ふたりを巻き込んでる。そんな風に感じてしまう。
でも、クラフトが必要なのも事実だろうし、と私が悩んでいると、すいっと彩花ちゃんが挙手をした。
「ボクはY quartetにカウントされてると思っていいの?」
「おお、これはミステイク。もちろんだとも。Y quartet+1が一部ライトニング・グロウとメンバーが被っていたせいでカウントし損ねただけだ。失礼をした」
赤城さんがさらりと謝り、彩花ちゃんは「バス屋のせいかー」と鼻を鳴らす。
「まあボクは、ゆずっちと一緒に行けるならそれでいいよ」
「……本当に、それでいいの?」
彩花ちゃんが当たり前のように続けた言葉に、私の中の何かがブチッと音を立てて切れた。
「ちょっと、ちょっと待ってください! あいちゃん、寧々ちゃんも来て!」
立ち上がって彩花ちゃんの手を掴んで、私は廊下に引っ張り出した。突然の私の行動に驚いて、あいちゃんと寧々ちゃんも一緒に来てくれる。
「ゆずっち! どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ! もっと真面目に考えてよ! 私と一緒ならいい? そんな動機で命の危険があるところに飛び込むな、バカー!」
私が廊下で彩花ちゃんの胸ぐらを掴んで頭突きすると、彩花ちゃんはぐわっと仰け反った。
「ゆ、柚香ちゃん、落ち着いて」
「寧々ちゃんもあいちゃんも! 守れるものがあるならとかかっこいいこと言ったけど、マジで命に関わるんだよ!? ふたりともクラフトじゃん! 戦う専門じゃないじゃん! そういう人を危険に晒さないように、私たち戦闘職がいるんじゃん!」
私の心のダムが決壊してしまったように、涙が溢れてくる。
私は戦いに行く。世界最強かもしれないから、一番の勝ち筋はそれだから当然だ。……蓮や聖弥くんにも本当は危ない目に遭って欲しくないけど、戦力としてあまりに強い。
彩花ちゃんだって強いのはわかってるけど、「私と一緒」を戦いの理由にして欲しくない!
「彩花ちゃん、前に言ってたじゃん! 撫子との決戦の前にさ、因縁断ち切って、長谷部彩花として生きるって! あの後もずーっと小碓モード入ってるじゃん! どうなってんの!? 倉橋くんのこと好きなんじゃないの? もういい加減、私を理由にしないで!」
「あああああああ」
ガクガクと揺すぶられながら彩花ちゃんが両手を挙げる。
「あれはその、なんだろう、ケリを付けられると思ったのに全然付かなかったっていうか」
「ゆーちゃん」
彩花ちゃんが言い訳を並べている間に、あいちゃんがぐいっと私を引っ張った。
そして、そのままバシーンと頬を叩かれた! いったぁい!!
「自分ひとりで解決しようとするな、そんなの思い上がりじゃん! 私たちは私たちの意思で決めたの。ゆーちゃんは危ないことするなって言いたいんだろうけど、私だってゆーちゃんや聖弥くんに同じことを言いたい」
あいちゃんに叩かれたショックで私が呆然としていると、あいちゃんは一度言葉を切って、すうっと大きく息を吸った。
「私と翠玉を甘く見るな、バカー!!!! ただのお荷物になると思ってるなら、絶対行くって言ったりしないもん!」
「そ、そうだよ、私とマユちゃんだって、一緒ならもっと高LVの冒険者より強いんだから」
あいちゃんと寧々ちゃんは、真っ直ぐに私を見つめていた。
不意に、去年の寧々ちゃんを思い出す。全然LVが上げられなくて、蓮の特訓に付き合ってもいいって言ってくれたときのこと。
今の寧々ちゃんは、あの時と違う。目の強さでそれがわかる。だけど、だけど――。
「……うっ……うわああん!」
気がついたら、私は爆泣きしてしまっていた。
一度泣いたらもう止まらない。今まで溜まってきたいろんな感情が、今日の出来事で降り積もった不安が、一気に堰を切って流れ出す。
「やだ、嫌なのぉー、私が戦えばみんなが戦わなくてもいいかもしれないのに、危ない目に遭わせるのが嫌なの! わかってよぉ……ひいぃぃん」
「あーもう、だからさ、ゆずっちが昔っからそういう考え方だから放っておけないんじゃん!? 何もかも自分が犠牲になればいいとか、思うのやめてよ! 残される気持ち考えたことあるの!? 1500年レベルで変わってないじゃん! そっちこそどうなってんの!?」
「ゆーちゃんひとりで戦えるわけないでしょ!? ゆーちゃんママとかバス屋さんたちはよくて、なんで私たちがダメなのよ!? 私たちのこと、弱いと思ってんでしょ!」
「柚香ちゃん、1年生の時からずっとみんなのこと心配してくれてたのはわかってるよ。でも、私たちも成長してるの。変わってるんだよ」
彩花ちゃんに抱きしめられ、あいちゃんに頭チョップされ、寧々ちゃんには彩花ちゃんの反対側からぎゅーっとされ……。
私は、言葉を無くしていた。
言わなきゃいけないことがあるのに、頭がまとまらなくて、ただギャン泣きしていた。
「……お取り込みのところ申し訳ないんだけど……ゆ~かちゃん、私のこと忘れてない?」
颯姫さんがそろりとドアを開けて声を掛けてこなかったら、延々泣いていたかもしれなかった。