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第194話 一瞬だけの青

ただいま


玄関ドアあけて一歩のタイミング

発した声とドアしまる音ちょっと重なった


返事なくても空気ざわり揺れて

靴を脱いで秒ちょっと


おかえり


おかえり


おかえり


やまびこタイム





安心感と呼んでいい


その返事


どの声も


このあと説教くらうにせよ


おれは


おれに言う


『おかえり』


唇とじたまま





洗面所の鏡を見れば


冴えない気分になったりするけど


大丈夫


いい一日だったじゃないか



いい一日だった


たとえば なにが


いい一日だったろ


だから 理由は




かわりばえないし


結果も出てない


明日が面倒


未来うんざり


次から次へと出るわ出るわの感傷に


ふと




ふと






ほんの ちょっと


思い出す



思い浮かべる


よみがえる


うすらぼんやり


ちょっとだ ちょっと


でも


いまの おれには じゅうぶんだ






案の定だよ怒られる


けれども根拠が見当たらなくて


理由があるからではなく



怒ること それ自体が 目的化


ならばいっそ


怒らせてあげましょう


はいはい あなたたちにとって


私は非行少年です


わるいことなんてしてないよ でも


イメージ レッテル それでいい



だって



怒ってるときの母は生き生きとして


心配そうにしてるときの父は張り合いがある



ほらね


おれは少しづつ耐性を身につけて


ますます きっと 強くなる




目を合わせたとき姉が


『うんうん』


うなづいた



なにがわかったっていうんだよ?


『うんうん』


うなづいてる




なにもかもを済ませて


いよいよ就寝タイムになったら


おれは再度しっかり思い出して見る


見る


見えないけれど


見る


記憶が薄れるスピードより早く


映画ワンシーンよみがえるみたく


ほら


薄くて濃くて濁って清らかな


ほんの一瞬だけの青





















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