目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第2話 癒し系VRオンラインゲーム『輝けモフ子さん』とは

 和香子がはまっているのは、癒し系VRオンラインゲーム『輝けモフ子さん』だ。

 これはプレイすることでエステを受けられるゲームになっている。


「仮想現実の世界だっていうのに、癒されちゃうのよねぇ~」


 和香子は顔をだらしなく緩ませた。

 だが真の目的はエステを受けることではない。

 エステを受けて、モフ子さんを立派なエステティシャンにするという育成系のゲームなのだ。


「まずは準備、と」


 和香子はゴーグルタイプのVRヘッドセットを装着した。


「おっと。先にあっちを付けなきゃ」


 和香子はいったん装着したVRヘッドセットを外すと、マッサージ器を肩に乗せた。


「『輝けモフ子さん』の醍醐味は、マッサージ器を付けておくと実際に施術を受けている気分を味わえるってトコよね。専用のマッサージ器を購入すると、更に特典もあるし。もっともアレは高いから、わたしのは専用のじゃないけど。コレでも充分に楽しめるんだよね」


 再びVRヘッドセットを着けた和香子は、癒し系VRオンラインゲーム『輝けモフ子さん』へアクセスした。

 ゲームが始まると、可愛らしい服を着た和香子のアバターとエステサロンの店舗が現れる。

 建物の外観からしてお洒落で可愛い。

 これを見ただけで期待で胸膨らみ、癒されてしまうような気がする。

 だが和香子は初心者ではないので、さっさとエステサロンの店内へと入って受付に向かった。

 清潔感がありながら上品かつ豪華な室内には、様々なキャラクターの画像が並んでいる。


「さーてと、わたしの担当のモフ子さんを呼ばなくちゃ」


 この『輝けモフ子さん』では、『モフ子さん』と呼ばれるエステティシャンを指名制で選べる。

 様々なキャラクターから自分の担当を決めることができるのだ。

 動物をモチーフとした『モフ子さん』には、ウサギやネコ、クマやハムスター、オカメインコやペンギンなどがいる。

 なぜか犬はいない。

 ゲーム内では、モフ子さんからマッサージを受けるだけでなく、モフ子さんをモフモフすることもできる。

 だから刺激が強すぎて犬はいないのかもしれない。


「クマのモフ子さんも、ハムスターのモフ子さんもいいけど……私のご指名は、君! ウサギちゃんだ!」


 和香子は、居並ぶモフ子さんの中から、迷わずにウサギちゃんを選んだ。

 すると賑やかな音楽と共に、ウサギちゃんのモフ子さんが画像から飛び出して立体化する。

 目の前に、耳を除くと和香子と同じくらいの身長のモフ子さんが現れた。

 エステティシャンらしい清潔感のある白い制服を着ている。

 和香子の推しモフ子さんであるウサギタイプのモフ子さんは、白ウサギだ。

 顔は可愛らしくキャラクター化されているが、リアルウサギに近いタイプである。

 長い耳と可愛らしい尻尾、そしてピンク色の肉球を持つエステティシャンなのだ。


(たまらん)


 癒される予感に、和香子はヨダレが出そうだった。


 モッフモッフのウサギさんタイプのモフ子さんは、直立で丁寧な礼をする。

 長い耳がゆらりと揺れた。


「ご指名ありがとうございます。誠心誠意、心を込めてサービスさせていただきます」


 見える。見えるぞ、私には。語尾から飛び交うハートマークがっ!

 和香子は盛り上がった。

 実際に目の前にはピンクやブルーなどカラフルなハートマークがブワッと沸き上がり、キラキラと輝いていて、虹まで出ている。


 声も可愛い。

 声については用意されているボイスから選ぶことができるのだ。

 至れり尽くせりである。

 まさにわたしのための、わたしのモフ子さんがそこにいる。


 和香子は初心者ではない。

 すでにかなりやりこんでいた。

 だから和香子ご指名のモフ子さんのレベルは、かなり上がっている。


 指名したマイキャラには名前を付けることができるが、和香子は『モフ子さん』という名前が気に入っているので変えてはいない。

 和香子の『モフ子さん』が、和香子好みの声で聞く。


「今日は、どのようなメニューをご希望ですか?」


 このゲームでは舞台がエステサロンだ。

 リアルなエステサロンでは、顔や体のマッサージやトリートメント、脱毛といった施術を受けることができる。

 しかし和香子はVRヘッドセットユーザーなので、脱毛は無理だ。

 これがフルダイブ型のマシンだと話は違ってくる。

 だが今はVRヘッドセットと肩に乗せたマッサージ器を使って楽しむよりほかない。


 和香子はわざとらしく悩んだふりをしながら、メニューを眺めた。

 初心者であれば、カウンセリングからのスタートになるのだが、和香子はリピーターなのでいきなりメニューを指定できるのだ。


「んん~。今日は、上半身のマッサージをお願いしようかな」

「かしこまりました」


 綺麗に頭を下げるモフ子さんのウサ耳が揺れる。


「では、施術室へどうぞ」

「はいっ」


 和香子は揺れるウサ耳を見ながら、高まる期待にウキウキしながらモフ子さんの後について施術室へと向かった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?