「……白煙爆、身体強化」
再び俺は煙幕を展開して、さらに身体強化もかける。
俺が使える魔法は、無と火の二系統。
しかも火は、実戦で使えるような火力を出せるような魔法は使えない。
というか煙幕くらいにしか使えないし、より視認性の悪くなる黒煙爆や、毒煙を展開したりみたいなことは出来ない。
まあ殺し方なんて何でもいいわけだから、多彩さよりどんな状況からでも必殺に持ち込む臨機応変さが重要なのだ。
ブライの殺意を感じ取って、煙幕の中を気配を殺して動くが……なんだこれ、殺意が強すぎて煙幕内を満たしてやが――――。
「……だぁかぁらぁ……っ、小賢しいんだってえッ‼」
煙幕を斬り裂きながら、ブライは叫びながら真っ直ぐ俺に突っ込む。
どんだけ戦闘状況から遠ざけて暗殺を成立させようとしても、無理やり状況を戦闘に修正してきやがる……。
ミラルドンはどっかで、殺人を
ちゃんと頭がイカれている実力者が相手だと、こんなに状況の押し付け合いになるのか。
でも、
俺は突っ込んでくるブライに、毒付き棒手裏剣を投げ込みながら運足で距離を保ち続ける。
一瞬でいい、この距離に意識を集中させたい。
殺意の割には丁寧に棒手裏剣を弾きやがる、身体強化でまあまあな速さなんだが確実に当たらないようにしてやがる。
でも、俺は暗殺者として訓練された『忍者』持ちなんだよ。
「……ぐ……っ」
ブライの足の甲にガラス製の棒手裏剣が突き刺さる。
投げていた棒手裏剣のひとつにピアノ線を張っていた。
一瞬剣に引っかかりそちらに気が向いたところで、視認性の悪い透明なガラス製棒手裏剣を足に打ち込んだ。
これで一拍、隙ができた。
俺は最短最速の軌道で短刀を喉元に向けて真っ直ぐ突く。
ブライもギリギリで反応し俺の指ごと短刀を迎撃しようと剣を振るが。
「空間魔法、空間魔法ッ」
短刀の先に空間領域を展開してそのまま短刀ごと手を突っ込んで回避。
さらに空間領域の出口をブライの脇腹付近に展開し。
そのまま出口から短刀を突き出して脇腹を、刺す。
「ぎぃ……っ⁉ が…………あッ‼」
しかし、命に届く前に高密度な筋肉で刃が止まりそのままブライは歯を食いしばりながら片手で俺の袈裟に斬りこんでくる。
肩に刃がくい込んだところで、俺は短刀を離して倒れ込むように緊急回避をする。
危なかった。
相討ち想定なら殺せた場面で武器を手放せた。
殺しより生存を優先できた。
暗殺者としては愚かな行為だが、冒険者としては成長したと言える。
肩の傷は深くはないが浅くもない。
左腕は思うようには使えない、投擲での牽制は出来ない。
出血を抑えている暇は…………。
「……ふーっ! はははっ‼」
満面の笑みでブライは剣を構えて突っ込んでくる。
「……空間魔法」
俺は空間領域から短刀を取り出して構える。
弾いたり受けたりはしない。
全部躱して全部
さっきの暗殺空間殺法を警戒しているのと、脇腹に刺さったままの短刀と足に刺さった棒手裏剣で鋭さが死んでいる。
俺も左腕が使えないが、機動性は落ちていない。
俺の『忍者』は機動性や運動性や隠密性などに補正がかかるが、何より忍耐力に補正が入る。忍び耐える者だから忍者なんだ。この程度の損傷で俺は怯まない。
ブライの剣撃を
勿論ブライは反応して脇腹を庇う動きをしたので、半月当てではなく捻体足絡みで靭帯を断裂させながら崩し倒す。
「いっっでえだろうがぁあああゴラァあッ‼」
崩れて倒れながらブライは叫びつつ、俺の右大腿部に剣を刺す。
「……ぐぅ…………っ!」
脚に力が伝わらなくなり、脚をへし折ることが出来ずに離される。
すぐに立ち上がろうとするが、剣が貫通し地面に釘付けにされて立てない。
俺は手にしていた短刀を投げるが、ブライの頬を
ブライはもう片方の剣を振り上げて、俺の首を狙って振り下ろす。
「――
俺は自爆魔法を詠唱する。
この詠唱に一瞬、ブライの動きが止まる。
もちろん嘘だ。
俺にこんな自爆魔法は使えない、里に使えるやつが居たから詠唱を知っていただけだ。
この一瞬が欲しかっただけ。
先程放った短刀が、自由落下で真っ直ぐブライの後頭部に落ちる。
俺に意識を向かせたことによる、暗殺の成立。
しかし。
このイカれ馬鹿最強は、完全な死角から落下してくる短刀を全く見ず、片手しか剣を握っていないのでスキルによる補正もない状態で。
ほぼ無意識で、勘だけで、弾いた。
ブライ自身すら、驚いていた。
一矢報いるための一矢が弾かれたその瞬間、俺の心臓付近が爆発的に熱が身体を駆け巡る。
夜を
目から太陽のように、炎が燃える。
身体を軸から回して、剣が突き刺さったままの大腿部を引きちぎりながら回転のまま立ち上がり、立ち上がりの勢いのまま。
なんの
ブライは反応していた。
だが迷った、俺がこんな何もないナンセンスな一撃をするはずがないと裏を読み過ぎた。
その迷いごと、顎を打ち抜いて。
俺の右の拳と、ブライの顎を砕いて。
意識が飛んだブライは大の字に、ぶっ倒れた。
それを見て俺は。
「……
人生初の大爆笑と共に、意識を失って倒れた。
ナンセンスも悪くない。
最高の気分で、俺は眠った。
だが。
「……ゲ……ア……カ……アカカゲ……アカカゲっ‼」
大声と共に俺は目覚める。
目を開けると目の前には美少女。
声の
目覚めとしてはかなり良い状況だが、どうにもキャミィの目はやや
「てめっ! やり過ぎだ馬鹿‼」
「痛っづ⁉」
キャミィの瞳に見蕩れていると、頭頂部を殴られる。
顔を上げると鬼の形相で拳を握る、ジスタが居た。
「てめえ、たかだか模擬戦で真剣抜くどころか殺し合いまでやりやがって……馬鹿過ぎんだろ! 熱くなんのは構わねえが、熱くなりすぎんな馬鹿野郎‼ キャミィが居なきゃ死んでたところだったんだぞ‼」
ジスタは凄まじい剣幕で捲し立てる。
ああそうか、キャミィが回復してくれたのか。
痛みもないし腕も脚も問題ない、凄まじい回復力だな……。
「ありがとうキャミィ、助かった」
俺は素直に、キャミィにお礼を言う。
「…………はあ……、心配させないでよ。私だって何でも治せるわけじゃないし…………、怖かった」
そう言ってキャミィは
「ちっ……、まあ事の顛末は大体わかる。大方ブライの大馬鹿が挑んできて、おまえがまあまあな返しをしたからノってきて抜いちまったからおまえもやらざる得なかったってとこだろ? わりと良くあることだ、次からもしブライが真剣抜いたらクロウを呼べ。クロウがブライ係としていい感じに畳んでくれる」
煙草に火を付けて、俺に一本差し出しながらジスタは語る。
いや全くその通りだ……、本当によくあることなんだなコレ。
「……そういやブライは? 死んだのか?」
それほど興味はなかったが貰った煙草に火をつけながら俺は一応聞いておくことにした。
「生きてるよ。ちゃんと治したから、ほらあれ」
キャミィはそう答えて、指さす方を見ると。
鎖でぐるぐる巻きにされて、ギルドの入口に吊るされるブライの姿があった。
「次に問題起こしたら吊るすってクロウに言われてたからな……、おまえもあんま問題起こすとクロウに吊るされるから気をつけろ。この町で一番イカれてるのはブライじゃなくてクロウだ。覚えとけよ」
ジスタはさらりとそう述べる。
「……了解した」
俺は吊るされるブライに合掌して、そう返した。