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第24話 エピローグ 実家

 数日後。



 カンタロウとアゲハは、山道を歩いていた。


 道は整備されておらず、泥と石だらけで歩きにくい。


 カンタロウの足は速く、アゲハはその後ろを追いかける形になっていた。



 有刺鉄線が巻かれた、柵が見えてきた。



 カンタロウはその柵にそって、歩みを進める。


 柵は鋭い針が突き刺さり、剥げた木の中身は雨で腐食が進んでいた。




「ねえカンタロウ君。あの柵と有刺鉄線、何かね?」




 アゲハの呼吸が速い。


 カンタロウについていくのに、精一杯だからだ。



「ああ、これは俺の家族を隔離するための、壁だ」


「君の家族?」


「そうだ」



 カンタロウがむかっている先に、鎧を着た兵士が立っていた。


「あれ? 兵士が立ってる?」


 アゲハがよく見ると、鎧には剣帝国国章、剣を持つ竜『ソードドラゴン』が見える。


 カンタロウが兵士にむかって手を上げた。


 兵士は二人に気づき、何も言わず、どこかへ行ってしまった。



「いなくなったけど?」


「俺が帰ってきたら、森に行く段取りだ」



 アゲハとカンタロウは、兵士がいた所から、柵の中へと入る。


 入り口には、看板が立てられていた。


「じゃ、あの看板。なんて書いてあるの?」




「『犬小屋』だ」




 いまいち、状況が理解できず、アゲハはカンタロウにばたばたとついていく。


 カンタロウの歩みがまた少し速くなった。


 声も高揚し、顔から疲れが吹き飛んでいる。





「もうすぐ俺の家だ。ほらっ、あの丘の上」





 カンタロウが指さす方向の丘の上に、家が一軒だけあった。


 木造建築で、煙突が見える。


 さほど大きな家ではない。






「ふぅん、あれがカンタロウ君の実家か……って、ちょっと待て!」






 カンタロウの背中にパンチするアゲハ。


「おうっ!」カンタロウは少し腰が曲がり、


「なんだ?」


 意味がわからないといった顔で背中をさする。




「『なんだ』じゃないでしょ! もしかして実家に帰ってたの?」




「それが何か?」


「ほんとかよ、カンタロウ君! ハンターらしく、賞金稼ぎの旅をしてたんじゃないの?」


「誰も、そんなこと言ってないぞ?」


「まあ確かに、こっちも聞いてないけどさ!」


 アゲハが今思い返してみても、カンタロウは一言も、ハンターとして旅をしているとは言っていない。


 実家に帰るとも言っていない。


 ただ、自分と旅をしていても仕方がないとは、何度も聞いた。




 それがこういう意味だったと、アゲハは初めて知った。




 ――ううっ、なんてこった。普通に旅してるかと思ったら、まさか実家に帰ってたなんて。もうこいつ予想の斜め上の、上の、上の方いっちゃってるよ。


 アゲハは、自分の非力さと情けなさに、悲しくて涙がでそうになる。


 何も聞かず、ただもくもくとカンタロウについていったことを後悔した。




「だから言ったろう? 俺についてきたって、お前の足手まといになると」


「見事にまでの足手まといだよ。はぁぁぁ」




 カンタロウに向かって嫌み気に、アゲハは深いため息をつく。自暴自棄寸前だ。




「ため息つきすぎだ。まあここまで来てしまったのは仕方がない。――俺の母を紹介しよう」




 嬉しさゆえか、自然とニコニコするカンタロウ。


「何その言い方? 『俺の恋人を紹介します』的な言い方? ちょっとムカつく」


 かなりカチンとくるアゲハ。


「ふふふっ、俺の母はとっても美人だぞ。ふふふふふっ」


 そんなアゲハなど気にせず、カンタロウは母に会える喜びで、テンションが上昇しきっている。



「カンタロウ君。キモい! その笑い方、キモすぎ!」



 アゲハはカンタロウの笑いに、ドン引きした。




 家が近づいてくると、野菜畑に二人、女性がいた。


 目つきの鋭い女性が、カンタロウに気づくと、麦わら帽子をかぶった女性に耳打ちする。


 目の見えない女性は、誰か来たことに気づき、キョロキョロと首を動かした。




「母さぁん!」




 カンタロウが元気よく叫ぶと、手を振る。


 ヒナゲシはようやく息子が帰ってきたことがわかり、声がした方へ、大きく手を振った。




「あっ、カンタロウさん。――おかえりなさぁい」




 農作業はしていなかったのだろう。


 ヒナゲシは白いワンピースを着ていた。


 柔らかい風が、長めのスカートを揺らす。



 その笑顔は、丘で白い花を咲かせているカモミールのように、あでやかだった。





 ――はあ……これからどうなることやら。





 アゲハはため息をつきながらも、カンタロウの家へ足を進めていた。

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