☆第五十章 島崎環名をいい女にする会、結成。
わたしは麗奈と環名ちゃんとショッピングモールに来ていた。環名ちゃんは服装にあまりこだわりがないのか、トレーナーとジーンズとかラフな格好が多い。
「スカート履かないの?」
「履かないですねぇ。中学と高校の制服でやむを得ず履いていただけで」
身長は百五十五センチらしい。小柄な環名ちゃんに似合う服を探しまわる。
「これ、かわいくない?」
白いベレー帽とベージュだけど花柄が刺繍されたスカートに、半袖ニットを合わせたマネキンを指さす。
「かわいい、環名ちゃん似合いそう!」
「試着してよ試着!」
いつもはポニーテールをしている環名ちゃん。
「いつものままで充分かわいいけど、ちょっとだけ女子力アップさせたいなぁ」
麗奈は今日の朝、そう言いながらヘアアイロンで環名ちゃんの髪を巻いて、さらに化粧もオレンジ系でまとめる。大人の魅力とかわいい女子の雰囲気、両方を醸し出している。
試着室から出てきた環名ちゃんは超プリティーな女子だった。
「かっわいいいいいい!!」
「似合うよ!」
しかし、二人のテンションに対して微妙な表情の彼女。
「うーん、やっぱりなんか落ち着かなくて」
「そっか……」
三人でモール内にあるイタリアンレストランに入る。
「薮内さんの好みがわからないもんね」
「歳上だから可愛いよりもう少し大人っぽい方がいいのかな?」
島崎環名をいい女にする会は、麗奈とわたしが乗り気なだけで本人がそこまで乗り気ではない。
「あの……」
「ど、どうした?」
「浴衣ってどうでしょうか?」
環名ちゃんの意見に麗奈の目がキラキラ光る。「いいね!」
季節は7月。夏まっさかりで、これから夏まつりや花火大会がたくさん開催される。
「誘ってみたいね!」
「薮内さんは琴さんが好きなんでしょう? だったら和風美人がいいのかなって」
「あ……」
わたしは一人で気まずくなる。
「環名ちゃんって大人だね」
麗奈がそう言う。
「大人って、もう二十六ですけれど」
「違う違う、まぁそうなんだけれど、自分の意中の相手が好きな人が目の前にいるのに、ヤキモチとか妬かないのが偉い」
「いや、思いっきり妬いてますよ」
素のままでわたしを見つめる環名ちゃん。
「でも、いまの状況では仕方ないですし、これからわたしのことを知ってもらって、琴さんより上をいくことができたらなって」
無表情のままパスタを口に放り込む環名ちゃん。
「合理的っていうか、それが偉いんだよね」
わたしは何と発言したらいいのだろうか。
「じゃあ、食べ終わったら浴衣探しに……」
「あ、それは大丈夫です。前にも言ったけれどうち、実家が呉服屋なので、浴衣は既に三着持たされています」
「あ、そっか」
そういえば月末に花火大会がある。
「薮内さんの電話番号は知っているんだよね?」
「はい」
「環名ちゃんが直接誘うの?」
「もちろんです」
堂々としているな。威風堂々、きりりとした態度の彼女。いい子だよな、薮内さんも絶対わたしより環名ちゃんの方が合っている。
「じゃあ張り切って、女度アップさせよ! 島崎環名をいい女にする会はまだまだ続行!」
7月末の花火大会に、何かあるのか何かないのか。