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悪役令嬢は義弟を叩きのめす(つもりが溺愛される)
悪役令嬢は義弟を叩きのめす(つもりが溺愛される)
未知香
異世界恋愛悪役令嬢
2024年08月20日
公開日
6,884字
完結済
ついにこの日が来た。 悪役令嬢に転生してしまった私の前に、私を破滅に追い込む義弟ミシェルが現れた。 私が生き延びるためには、仕方がない。 これから私はこの子を圧倒的な力で叩きのめして、私を尊敬するよう育てるつもりだ。 ……と思っていたのに、圧倒的な力で負けてしまった。 ※大半がヒーロー視点となります

本文

プロローグ

「はじめまして、ミシェルです。……お姉さま、と呼んでもいいでしょうか」


 おずおずと父の横で、可愛らしい男の子が上目遣いで私の事を見ている。

 黒髪に黒目の、まだ小さいと言ってもいい男の子。

 初めて見る子だけれど、私は彼をよく知っていた。


 ついに来た。


 私は強張りそうになる顔を、気合で笑顔の形にした。


「ええ。もちろんよ。弟ができるだなんて嬉しいわ! ミシェル、これからよろしくね」


 目の前に居るのは、ミシェル・グリドファー。

 つややかな黒髪に、瞳は黒曜石のように深く神秘的な瞳で、彼に見つめられたらそれだけで好きになると評判な青年となる。

 彼は十歳で魔術の力を買われ、侯爵家へ養子になった。


 悪役令嬢の弟であり、主人公を貶めようとした彼女を破滅に追い込む黒幕。


 それが、私の大好きなゲーム『星月夜の誓い~恋に落ちたPrinceたち~』での設定だ。

『恋プリ』は王道だけれど、それぞれ丁寧に描かれるイベントがとてもときめく乙女ゲームだ。


 その攻略対象であるミシェル。

 色気があり、紳士的なのに黒い部分もある。才能にあふれた分傲慢な部分もあり、それが魅力的でもあった。


 しかし、主人公に会い優しさを知り、人を見下したことを恥じる。

 そして取るに足りない相手として義姉であるシェリーミアを野放しにしたことを悔い、報復に走る。


 ちょっとヤンデレで、執着心があって、でも変に素直でとてもいいルートで、ミシェルは私の推しだった。


 問題はそのミシェルの姉である、悪役令嬢シェリーミア・グリドファーに、私が転生しているって事だ!


「私も嬉しいです。お姉さま」


 にこりと笑ったミシェルは、あどけなくて可愛かった。

 十歳である彼はきっとまだ素直に違いない。

 まだ、乙女ゲームが始まるまで、五年ある。私はまずはこの日の為に、準備はしてきた。


「握手しましょ! 魔術が凄いって聞いたわ」

「ええ、魔術に関しては自信があります」


 はにかんだように笑ったミシェルの瞳には、魔術への自信が見えた。


 ぎゅっとにぎると、十二歳の私の手よりもずっと小さいその手は温かい。

 身長も私よりも少し小さく、完璧だと思っていた彼の頭にはつむじがあって、それがとても可愛かった。


「私も、魔術に関しては頑張っているのよ」

「そうなんですね! 楽しみです」


 にっこり笑いつつ、私は決意を新たにした。

 私が生き延びるためには、仕方がない。


 これから私はこの子を圧倒的な力で叩きのめして、私を尊敬するよう育てるつもりだ。

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