アルージェは真剣な表情で光を放つ剣を見つめる。
次第に光が収まっていくが、ビシッビシッと剣に亀裂が入り、そのまま剣が崩壊する。
「また、だめだー!」
アルージェはそのまま後ろに倒れこむ。
「まだ、三日目だ、むしろここまで出来たことを喜ぶべきだな」
コルクスはアルージェ隣で付与魔法が失敗した、剣を見ながら話す。
「でも、確かに徐々にではあるけど素材の特徴が分かってきた気がする」
当たり前だが魔力を通しやすい素材と通しにくい素材が存在する。
魔力を通しやすい素材として、ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンといった金属が魔法を通しやすい素材らしい。
また、マナスポットにあるものは大体の物が長年魔力に晒されているので魔力を含んだ物質になっており、通常のものとは性質が異なったりしている。
「さて、もう一回やってみるか!魔力を受け入れる許容量がありそうだから次はそこを意識してみよ」
アイテムボックスから新しく剣を取り出し、付与魔法をかけ始める。
その様子をコルクスは憂い顔でただ見守る。
今は『効果を持った魔力を物に馴染ませて効果を付与する』練習をしている。
というよりこれが出来れば『魔玉を武器にはめ込み効果を付与する』以外の付与魔法に通ずるものがあるらしく、
全部できるようになりたいなら、この方法をとにかく極めろとコルクス教授にいわれたので、頑丈さを強化できるように魔力を変質させる。
この魔力を変質させるというのもなかなかイメージが沸かずに出来なかったが、
プログラムのデータ型をイメージすると簡単に出来るようになった。
じっくりと剣に変質させた魔力を注ぐ。
剣が眩い光を放ち、光が収まる。
「あれ?亀裂入ってない?」
アルージェが剣を手に取り確認する。
「上出来だ」
コルクスはどこからともなく鋼のインゴットを取り出し、魔方陣を展開する。
手に持っていた鋼のインゴットが宙に浮きすごい勢いでアルージェに向かって放たれる。
アルージェは飛んできた鋼を反射的に剣で切りつける。
「危ないじゃないですか教授!」
「飛ばしたインゴットと持ってる剣を見てみろ」
「ほんとに危ないじゃないですか」と言いながらインゴットを見ると真っ二つに切れていた。
そして、剣も確認すると同じ硬さのものを切ったはずなのに折れ曲がったりするどころか刃こぼれ一つしていなかった。
「これが付与魔法の力ですか?」
「あぁ、一つ効果を付与するだけでそれはもうただの鋼の剣ではなく、鋼という理を超えたものになる」
アルージェは鋼の剣を見て、目を輝かせる。
「楽しい!!もっとやろう!」
アイテムボックスから武器を取り出し、あらゆるものに付与魔法をかける。
初めて成功しておおよその許容量は分かった。
だが鋼だからと言ってすべての武器が同じ許容量とは限らない、そこは経験を積むしかない。
コルクスは楽しそうに付与魔法の練習をしているアルージェを見て、また昔を思い出す。
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兄様!本当にすごいです!僕も早く兄様みたいに魔法を使えるようになりたいです!」
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「チッ、あいつを見てるとなんでこんなに思い出すんだ」
それから三か月が経つ、剣の修行、付与魔法、魔法とただひたすらに研鑽を続けていたが、事件が起きる。
「わぁぁぁぁぁぁぁ!」
アルージェが自室で叫ぶ。
その声を聞きつけてルーネ、ミスティ、マイアが駆け寄ってくる。
「バウッ!」
ルーネは不審者がいないか臭いを嗅いで付近を探る。
「どうした!アルージェ!」
ミスティもいつでも腰に携えている短剣を抜けるように構えて辺りを警戒する。
マイアは何も言わないが、拳を構えミスティをいつでも守れるように立つ。
「うぅ、聞いて下さい、村を出るときにあんなにあった武器がもうほとんど無くなっちゃいました・・・」
そういってアイテムボックスを逆さに向けてブンブンと上下に振るとグレンデに作ってもらった剣とシェリーの剣だけがガサッと地面に落ちて、
それからは何も落ちてこなかった。
ミスティとルーネはポカンとして、マイアは「はぁ」とため息を付く。
「なんでそんな反応なんですか!一大事ですよ!あんなにあったのに付与魔法の練習台にしたからほとんどなくなっちゃったよ・・・・」
「心配して走ってきて損したではないか、なぁルーネ」
「バウ」
ミスティがルーネに話しかけてルーネはそれに答える。
「アルージェ様のことなので大したことないと思ってましたが本当に大したことなかったですね、お嬢様、早く学園に行く用意をしましょう」
「あぁ、そうだな頼む」
ミスティとマイアは自室に移動し用意を始める。
ルーネはアルージェをジト目で見てから、昨日残していたシュークリームを食べ始める。
「なんか、皆結束力が強くなったね。
嬉しいけどなんか悲しいな・・・、とりあえず教授に良い方法がないか聞いてみよう」
アルージェはいつの間に結束力があることに喜びを感じたが同時に切なくなった。