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第百話

エマは魔法研究棟近くの水場で、水の流れを眺めて両親のことを思い出していた。


「パパ、ママ」

三角座りで縮こまりながら、首飾りを抱えるようにギュッと握る。


「ここにいたんだね」

一人では探しきれずに、結局ルーネの力を借りたアルージェとルーネが立っていた。


「大丈夫?」

アルージェはエマが泣いていることに気付き、エマの方へ手を伸ばしながら声をかける。


「心配をかけてしまって、ごめんなさい。もう大丈夫です」

エマは目元を手で拭い、アルージェの手は取らずに一人で立ち上がる。


「ですが、私にはもう近づかないで下さい」

アルージェたちにさよならを告げて、その場を立ち去ろうとする。

これが最善の選択なのだと信じて。


「ちょっと待ってよ!」

アルージェがエマを引き留めようとした時にサイレンが鳴り響く。


「なに?サイレン?どう言う状況?」

アルージェがルーネと目を合わすが、ルーネは首を傾げる。



“緊急事態発生!緊急事態発生!研究棟付近で錬金生物が暴走した為、生徒の皆さんは速やかに避難してください。繰り返します。研究棟付近で錬金生物が暴走した為、生徒の皆さんは避難してください”


「錬金生物って何か知ってる?」

当たりを見渡していたアルージェがもう一度ルーネと目を合わせるが、ルーネは首を傾げる。


だがルーネは異変に気付き、アルージェを思いっきり突き飛ばし、魔力を纏ってエマに思いっきり体当たりをする。


「キャッ!」

エマの防御障壁が展開されるが、その場で持ち堪えられずにエマは少し飛ばされる。


「うわっ!ルーネいきなり危ないじゃん!」

ルーネの方を見ると、元々居た付近の地面が割れて黒い触手が現れる。


「うわっ、また触手だよ。僕って触手に縁があるのかなぁ」

アルージェは応戦する為に、ブロードソードをアイテムボックスから取り出して、触手を斬る。


触手は簡単に切断できたが、すぐに再生して元に戻る。


「やっぱり触手には再生能力ついてるんだ!?」

憎たらしい触手め!と毒づき、少し距離を取るために後退する。


後退してすぐに更に大きく地面が割れて真っ黒の大きなスライムが現れる。


「おぉ!でかいスライムだ!」

アルージェはファンタジー感ある存在に喜ぶ。



「グ、暴食スライムグラトニースライム

エマは記憶がフラッシュバックして、あの惨状が蘇る。


「い、いや、来ないで!」

その場で頭を抱えて蹲る。


アルージェはエマの様子がおかしいことに気付き、アイテムボックスから鎖鎌を取り出して、ルーネに投げる。


「ルーネ!エマをお願い!」

アルージェは暴食スライムが出している触手を全てを切断する。


「ミスティさんの触手の方が厄介だったかなぁ。この触手は片手で対処できるし」


暴食スライムグラトニースライムは、アルージェに食事を邪魔されていることに気付き、かなりの量の触手をアルージェ排除の為に向かわせる。


「本体に向かいたいのに!」

今の所こちらに向かってきている全ての触手に対処しているが、触手が多すぎて本体に近づく事が出来ない。


「何回切っても、再生するしめんどくさいな!もうっ!」

とアイテムボックスからもう一本剣を取り出し、粉々になるまで切り刻む。

地面に粉々になった触手が落ちるが、それも本体の方に引き寄せられて、また襲ってくる。


「ルーネが手伝ってくれれば、本体の方に行けるのに」

ルーネの方をチラリと見るが、ルーネは僕が言った通りエマを守る為に手を取られていて、離れることができない。


「どうしたものか」

とりあえず、こちらにくる触手を全て粉々に切断して、時間を稼ぐことしかできない。


「何かないか現状を打開できるものは」

あたりを見渡すと、黒色で吸盤が緑の蛸足が見える。


「あれは!ミスティさん達だ!ミスティさんの蛸足なら打開できる!」


「ミスティさん!!」

アルージェが叫ぶと、こちらに気付きミスティさんとマイアさんが駆け寄ってくる。。


「やぁ、アルージェ、こんなところで会うなんて、よほど触手が好きなんだな。卑猥だ、フフフ」

何故か嬉しそうなミスティ。


「やめてよミスティさん!今はそれどころじゃないよ!」

と冗談?を受け流す。


「フフフ、すまない、久しぶりに激しく体を動かして昂っていたんだ」


見事な短剣捌きで触手を撃退する。

さらに動きに無駄が無く、軽やかに羽のように動く


「やっぱり、ミスティさん強いですね」


「フフフ、アルージェには負けるさ、ほら余裕は無いのだろう?早く状況を教えてくれ」


「は、はい!あそこにルーネがいるんですけど、ルーネは僕の知り合いを守りながら戦ってて身動き取れない状況。僕もルーネいないから元凶のあれに近づけなくて困ってる」

今の状況を軽く説明すると「なるほど」とミスティが呟く。


「マイア、ルーネと交代だ。私はアルージェが対応してた触手を相手にする」


「かしこまりました」

マイアは以前持っていたものより大きな金砕棒を持ちルーネの方に向かう。

マイアが金砕棒を地面に叩きつけると、ルーネの周りを囲っていた触手は衝撃で全てバラバラになる。


「あなたのご主人様がお呼びです。ここは私に任せてさっさと行ってください」

マイアがそう言うとルーネは頷き、そのままスライムの方に駆けていく。

ルーネが移動し始めたことを感じて、アルージェもルーネに合わせてスライムに向かっていく。


アルージェとルーネの行く手を阻もうと、暴食スライムグラトニースライムの触手が襲い掛かる。


貴方ノ世界二在ル槍アイネ・ザンフト・ヴェルト・シュペーア


ミスティが短剣を前にかざし鍵のように回すと、アルージェとルーネが進む道を作るよう地面が黒く染まり、黒く吸盤付近は緑色のタコ足のような触手が顕現する。


「ありがとうミスティさん!」

アルージェはスピードを走る速度を落とさないで高台を飛び出すと、ルーネが出てきて、アルージェを受け止めて暴食スライムグラトニースライムへと向かう。


「絶対、死ぬなよ」

ミスティは出した蛸足の触手で、アルージェとルーネの行く手を阻む暴食スライムグラトニースライムの触手を全て薙ぎ払う。

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