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第百三十九話

「カレン教授。ラーニャさんってすごい人なんですか?」

アルージェは教台で説教をしているラーニャを見ながら、カレンに尋ねる。


「そうね。フォルスくらいの町で一番偉い人になれるくらいにはすごい人よ。位はなんて言うんだったか忘れちゃったけど。本来ならこうして会うだけでも、何年も前から予約を取らないと会えないような人間なんだから。君もついでだから祈ってご利益もらっときなさい」

カレンがアルージェに答えていると、教台で説教しているラーニャがカレンの姿があることに気付く。

そして横にいる見覚えのある少年を見て目を見開くが、次第に表情が柔らかくなる。


ラーニャの説教が終わるまで聞いていたが、あまり意味は分からなかった。

神様の名前なのか、専門用語なのか、そのあたりの認識が全くできない。


「さぁ、いくわよ」

カレンがアルージェに声をかけてラーニャの方へ向かう。


近くに行こうとすると立っていた聖堂騎士達が行く手を阻もうとするが、ラーニャの一声で聖堂騎士達が警戒を解く。


「早く着てごめんね。けど予定より早くついたから、ご利益貰うためにラーニャの説教聞いちゃったわ」


「カレンさん。説教を聞いても信じる心がないと全く意味ないですよ」


「まぁ、そう固いこと言わないでよ。それより、ほらこの子見覚えあるでしょ?」


「えぇ、忘れるわけありません。ここではなんですから、まずはあちらの部屋まで移動しましょう」

ラーニャが先導し、礼拝堂から続く部屋に入る。


「すいません。説教の時間が長かったので、先に飲み物の用意をしますね。お二人はそちらでお待ちください」

そう言い残してラーニャは更に奥の個室に入っていく。


カレンとアルージェは言われた席に腰を掛ける。


数分後、ラーニャが紅茶持って現れ、カレンとアルージェの前に紅茶を置く。


「さてお待たせしました。カレンさんお久しぶりです。お手紙はやり取りしてますが、お会いするのは久しぶりですね。それでこの子はニツールの?」


「そうよ。ラーニャの想像通り、ニツールで会ったアルージェよ」


「お、お久しぶりです。ラーニャさん」

緊張しながらアルージェはラーニャに挨拶する。


「まさかまた会えるとは思ってなかったです。それに元気そうで本当に良かった。あの事件をきっかけに心に傷を負ってないか本当心配でしたが、立ち直れたみたいでなによりです」

ラーニャは本当にアルージェを心配していたようで、手を胸に置いて安堵する。


「実をいうと完全に吹っ切ったわけではないです。正直まだ少し引きずってるかもしれません。けど学校に通えるほどには元気になりました!」


「あんな悲惨な現場をみたんですから当たり前ですよね・・・。でも普通に生活はできてるようで良かった。学校というとカレンさんの?」

ラーニャはカレンに視線を向ける。


「そうなのよ。いつも通り授業始めようとした時に学期始まりとかでもないのにいきなり現れてね。こんな目立つ髪してるのってなかなかいないじゃない?だからすぐピンと来たわよ。ビックリしたわ、ほんと」


「そうだったんですね。アルージェ君学校は楽しいですか?」


「はい!もちろんです!付与魔法も攻撃魔法も魔道具製作も全部楽しいです!」


「聞いてよラーニャ!この子、生まれたての暴食スライムグラトニースライムを単騎でそこそこいいとこまで追い詰めたのよ。まぁ最後は詰めが甘くて”あいつ”が手を貸してたけど」

カレンは楽しそうに話すが、”あいつ”という時だけ明らかに嫌そうに話す。


暴食スライムグラトニースライムを単騎ですか!それはすごいですね!アインに話したらきっと喜ぶでしょうね」

ラーニャはアルージェの成長を素直に喜ぶ。


「そういえば、アインは?」

部屋にアインがなかなか現れないので、カレンはラーニャに尋ねる。


「時間は言っているのでもう少しで来ると思うのですが・・・」

ラーニャが壁に掛けている時計を見て時間を確認すると、ガチャリと扉が開く。


音を聞いて皆が扉の方へ視線を移す。


「遅くなってしまってすまない。ちょっと寄り道をしてしまった」

この声を聴くとアルージェは少し安心感を覚える。

とても安心感を覚える優しい声だった。


「おや?もしかしてその赤髪の少年は」

部屋に入るなりアインはアルージェに視線を向ける。


「そうよ。ニツールに行った時にあんたが助けた、アルージェよ」


「おぉ!やっぱりか!まさかフォルスタ超えて王都にまで来るなんてね」

アインは扉を閉めて、とても嬉しそうにアルージェに近寄る。


「お久しぶりです、アインさん。フォルスタでは音声結晶ありがとうございました!なんとか冒険者になりましたよ」


「いやー、まさか本当に追いかけてくるとは思わなかったな。まぁ、それが君の決断なんだったら尊重しないとね」

アインはアルージェの肩に手を置いてから、空いている席に腰掛ける。


「王都にいるのは冒険者で成功したからではなくて、魔法学校に通っているからなんですけどね」


「魔法学校か。確かカレンはアルージェの魔力が凄いって言ってたね」


「はぁ、そうよ。せっかく私が見つけてきた逸材なのに、コルクスのやつに取られちゃったけどね」

ため息をつきながらカレンは話す。


「ははは、カレンは好き嫌いがはっきりしてるからね」

アインは楽しそうに笑う。


「ほらほら、せっかくアルージェ君がいるのだから、愚痴はまた今度にしましょう?それより私はアルージェ君の今までのこと教えてほしいな」

ラーニャがアルージェがここまで何をしてきたのかを訪ねる。


「そうだね。僕も久しぶりに会ったアルージェのこと聞きたいな」

アインがそれに賛同する。


「そんなに面白いことなんてなかったですよ?」

アルージェはぽつぽつとここまで何があったかを話し始める。


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