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第百七十三話

あれから五日が経っていた。

この五日間アイン、ミスティと打ち合いをしていた。


アルージェは今日も何も考えずに訓練場に向かう。


「あれ?なんか忘れてるような・・・?」

最近は体を動かしていなかったので、打ち合いが楽しかったのだ。

だがアルージェは重要なことを思い出す。


「うわっ、ちょっと待って!体動かすの楽しくて忘れてたけど、鎧見に行かないと!」

今日はお休みします!と宣言し、アルージェはグレンデ家に鎧の様子を見にいく。


「師匠ぉ!すいません!遅くなりました!」


「ようやく来たか。どうせ他のことに夢中になっておったんじゃろ」


「あはは、面目ない・・・。それじゃ鎧見に行きましょう」

アルージェとグレンデは仮設の倉庫に向かう。


仮説の倉庫とは言うが知らない人が見れば、ただの四角いオブジェに見えるだろう。

魔力が溢れてこないように出来るだけ密閉していたので、扉もない。


魔力の動きが分かる人なら、一目見ただけで警戒するかもしれないがこの村にはそんな人いない。


魔力を操作して倉庫に中に入る為の出入り口を作り、中の様子を伺う。

アルージェが穴を開けると逃げ道が出来た魔力が中から溢れてきて、風が起きる。


「鎧どうなってるかなぁ?」

アルージェが灯りをつけて中に入る。


「ほぉ、こりゃまたすごいのぉ」

グレンデもワクワクで中に入っていく。


アルージェが鎧を手に取り、見てみると明らかに鉄から変質していた。


「これ鉄じゃないですよね?」


「そうじゃな。見た目は鉄っぽいが」

グレンデも鎧を一つ手に取り、軽く叩いたりして観察する。


「ふむ、やはりこれは鉄ではないな。明らかに別の金属に変質しておる」


「鉄の武器をぶつけてみてどうなるか試したいんですけど、いいですか?」


「んあ?ちょうど儂も気になっていた所じゃ!やってみるぞ!」

二人は一つだけ鎧を手に持って、外に出る。


何も付与していないただの鋼鉄の剣を、アルージェはアイテムボックスから取り出す。


「それじゃあ、いきますね」

アルージェは剣を掲げて突き刺す準備をする。

グレンデは頷き、唾を飲み込む。


「えい!」

アルージェが鎧に勢いよく剣を突き立てる。


金属同士がぶつかる音がするが、アルージェが持っていた鋼鉄の剣が折れてしまった。

「おぉぉぉぉぉぉ!師匠!これ、付与出来てますよ!」


アルージェは興奮気味にグレンデに近づく。


「あぁ!確かに付与されているな!」

グレンデも興奮気味にアルージェの手を取る。


二人は何故か息ぴったりに奇妙な踊りを踊って喜びを表現する。


グレンデが正気に戻り、咳払いをする。

「こんな方法初めてじゃ。時間はかかるがまとめて付与が出来るなんて凄い方法を思いついたのぉ、アル」


「空間を魔力で満たす必要がありますが、その間の時間別のことが出来る・・・。なんて効率的な方法なんだ!本当にすごいですね!」

アルージェは嬉しくて飛び跳ねている。


「なら次は軽量化フェザーもやってみましょうか!」


「そうじゃな、どうせ納期には余裕が有るからやってみるとするか!」


アルージェは簡易付与テンポラリー=軽量化フェザーを付与するつもりで、魔力を操作する。


そして途中で魔力を放出して空間を魔力で満たし、倉庫を密閉する。


その後同じくらい時間を置いてから、グレンデと一緒に倉庫を見に行く。


付与されているかどうかは持つだけですぐに分かった。

鉄で出来た鎧なのに重さをほぼ感じない。


「すげぇぇぇぇぇぇぇ!」

アルージェはまたテンション高く叫ぶ!


「これはなんとも、珍妙なものを作ってしまったのぉ。辺境伯に怒られんかったら良いが」


「やっぱり、重くないとまずいですかね?」


「うむ、どうじゃろう。ただこれに慣れてしまったら、訓練にはならんからな・・・」


「あっ・・・、確かにそうですね・・・。どうしましょう・・・?」


「まぁ、一回このまま納品してみるか。付与がついて性能がいいことには変わらんからな。訓練ではなく、実戦でなら使い勝手良いしな」


「確かに。なら僕達この後辺境様の家に行く予定なので、ついでに届けましょうか?」


「おっ!助かるわい!重さはないが嵩張るからな」


「了解です!」

アルージェは倉庫に有った鎧をアイテムボックスに片付けていく。


片付けながらアルージェはグレンデに話しかける。

「師匠。僕達、近々村から出ていくと思います。会えて本当に楽しかったし、嬉しかったです」


「んあ?何、湿っぽくなっとるんじゃ。今生の別れってことはないじゃろ。儂はいつでもアルが帰ってくるのを待っているぞ」


片付けが終わり、アルージェはグレンデの方へ顔を向ける。

「違うんです。実は僕、聖国の人達に命を狙われてるんです。だからもしかしたら本当に最後に・・・」

アルージェの視線が段々と下がっていく。


「カカカカカ、何言っとるんじゃ。男なら立ち塞がる者は全員倒して、また戻ってくるくらいの甲斐性を持て。アルなら出来ると信じておる」

グレンデがアルージェの背中を力強く叩く。


「うわっ」

アルージェは背中を叩かれて、前に飛び出てしまう。


「絶対にまた会いにくるんじゃぞ!」

ニカッとグレンデが笑う。


「・・・。はい、絶対また会いにきます!」

アルージェは頭を下げて、家に戻る。


グレンデはアルージェの背中を何も言わずただ見つめる。


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