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第百七十六話

「本気で?」


「あぁ、そうだ。お前に勝ち逃げなんてさせねぇ」


「分かった。ここだと危ないから少し離れたところでやろう」


サイラスは頷き、アルージェの後ろをついていく。


「なんだなんだ!またやるつもりか!」


「サイラスも懲りねぇな。帰ってきた時あんだけボロボロにされたのに」

村人達はサイラスとアルージェが戦うのは、一種の娯楽になりつつあった。

皆でアルージェ達の戦いを遠目から見物する。



「この辺でいいかな」

アルージェはサイラスの方に振り返る。


「あぁ、こんだけ広ければどんだけ暴れても大丈夫だろ」

サイラスはアルージェの目をジッと見て、槍を構える。


サイラスの目を見てやる気なのが分かったアルージェは、アイテムボックスから可変式片手半剣トツカノツルギを取り出し構える。


まず先手を取ったのはサイラスだ。

槍をアルージェの方に向けて駆け出す。


突きや蹴りを多用して果敢に攻める。

以前より明らかに技にキレが有った。


アルージェはサイラスの成長が嬉しくてニヤリと笑う。


アルージェは可変式片手半剣トツカノツルギ・壱式=アメノハバキリから状態を変えずに突きを受け止め、あっさり蹴りを躱す。


反撃が来ないと分かったサイラスは、槍を振り回す。

流れるように蹴りと突きの連携でアルージェをさらに攻める。


村人の中にはサイラスの動きを見て、声をあげるものも居た。

それ程にサイラスの成長は著しかったのだ。


「サイラスのやつ、張り切ってるな」

ミスティもサイラスの成長に感心する。


「そうだね。僕達が育てたみたいなもんだからね」

アインもサイラスの動きを見て嬉しそうに話す。


「アルージェ君、攻められてますけど大丈夫でしょうか・・・?」

エマはあまり戦いのことはわからないので、少し心配になる。


「はぁ、何言ってるの暴食スライムグラトニースライムと戦えてたんだから、あんなの問題無いに決まってるでしょ」

カレンはあまり興味なさそうだが、やることもないので二人の戦いを眺めている。


サイラスの猛攻を耐え、アルージェが距離を取る。


「お前、ふざけんなよ!」

サイラスが叫ぶ。


「俺は本気でって言ったんだ。舐めてんのか!」



アルージェは目を丸くする。


「・・・。舐めてるつもりは無いんだ。けど、なんか嬉しくってさ!そう思ったならごめん。今から本気出すよ」

アルージェは自身の魔力を操作する。


「むっ、サイラスの奴何か言ってるが?」

微かに聞こえるサイラスの声にミスティが反応する。


「何か怒っているようですけど・・・」

ラーニャが不安そうにアインを見る。


「あぁ、アルージェが本気を出していないって怒ってるみたいだね」

耳に身体強化を施したアインが二人の会話を皆に教える。


「ちょっと、ちょっと!アルージェが魔力操作してるわよ!」

カレンがアルージェの魔力の動きを見て、慌て始める。


「あぁ、そうみたいだね。僕には魔力の動きは見えないけど、アルージェからピリピリとした何かを感じるよ。教会で戦った時と同じくらい魔力を動かしてるんだ」

アインもアルージェから出る魔力を直感的に感じ取っているようだった。


「アルージェの事だ。流石に手加減はするだろうが・・・。サイラスが心配だな」

ミスティは魔力の動きが分かるので、アルージェから放たれる魔力ををただ見つめる。


「ほんとに綺麗・・・」

エマもボーッとアルージェの魔力を流れを眺める。


そしてアインや村人達がいるところまで届く程の暴風が吹き荒れる。


近くに居たサイラスは槍を地面に突き立てて、なんとか飛ばされないように踏ん張る。


「やっぱりお前はすげぇよ。アルージェ、俺はお前が羨ましかったんだ。シェリーはお前の事ばっかりで俺のことなんて見向きもしない。お前の事ボコボコにしても、お前にボコボコにされても一度も俺の事なんて見てなかった。俺だってシェリーのこと・・・」

踏ん張りながらサイラスはアルージェを睨みつける。


「これが今僕が出せる全力。どうなっても知らないからね」

アルージェは睨みつけるサイラスに笑いかける。


アルージェが剣を構えたと思った次の瞬間には、アルージェがどこにいるのかわからなくなった。

そして、サイラスは何が起こったのかわからないまま、後ろからの衝撃で飛ばされ地面に倒れ込む。


「クソが見えねぇよ」

サイラスはすぐに起き上がり、後ろを振り返ると目の前に見たこともない模様が浮かび上がっている。


それはサイラスの周りを囲むように展開されていた。


「『 破裂する小球ブラストボール』」

アルージェが魔法名を口にすると、浮かび上がっていた一斉に光を放つ。

そして、サイラスに向かって炎の玉が飛んでくる。


「こんなもので」

魔法を見たことが無いサイラスは驚き、避けようと後ろに視線を移す。

だが、自分の周り全方位を囲まれていることに気づく。


「お前にだけは!」

サイラスは咄嗟に腕で頭だけは守るように防御する。


破裂する小球ブラストボールがサイラスに直撃し、何度も爆発が起きる。


可変式片手半剣トツカノツルギ・弐式=ヤタノカガミ」


可変式片手半剣トツカノツルギのミスリル部分が盾に変形し、アルージェを爆風から身を守る。


サイラスは腕で顔を守った状態のまま膝をつく。


アルージェはサイラスのことを見て決着がついたと思い、剣を片付けようとする。


「ま、まだ終わってねぇ」

サイラスは槍に体を預けて、立ち上がる。

そのままヨタヨタとアルージェに向かってくる。


アルージェは可変式片手半剣トツカノツルギのデゾルブ剣を構えてサイラスに駆け寄る。


「『簡易付与テンポラリー=鋭利化シャープネス』」

デゾルブ剣に簡易付与テンポラリーを施し、サイラスが持っていた槍を刻む。


体を支えるものが無くなったので、サイラスは地面に倒れ込んでしまう。

アルージェはサイラスの首元に剣を向ける。

「まだやる?」


サイラスから返事が無い。


可変式片手半剣トツカノツルギ可変式片手半剣トツカノツルギ・壱式=アメノハバキリに戻し、アイテムボックスに片付ける。


アルージェが少し離れてところでサイラスが叫ぶ。

「こ、今回は勝ちを譲ってやる!けど次は・・・、次は絶対勝つ。だから絶対また戻って来いよ」


「あはは、分かった!今回は僕が勝ちを貰っとくね」


そして、アルージェ達はフォルスタに向けて出発する。




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