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第百八十七話

自称鍛冶職人アルージェの朝は早い。


昨日BBQをして夜更かしをしたにもかかわらず、日が昇るとほぼ同時にアルージェは目を覚ましていた。


アルージェはベッドから起き上がり、窓を開け放つ。

「んー、なんていい朝なんだ」


伸びをしながら本館の方に視線を移すと、窓からメイド達が慌ただしく動いているのが見える。

メイド達はすでに業務を開始しているみたいだ。


「メイドさん達すごいなぁ。さて僕も外に出る用意しないと!」

ささっと服を着替えて、顔を洗う。


外に出る支度をしているとマイアから声をかけられる。

「おはようございます。アルージェ様、今日はいつもより早起きですね」


「あっ、マイアさんおはようございます。今日は訓練前に鍛冶場に行きたくて」


「なるほど。だから上機嫌なんですね。鍛冶場は今居る別館から近いので、少し移動すれば金属を打つ音が聞こえてくると思いますよ」


「おっ!ホントですか!んじゃ、行ってきます!ミスティさんに聞かれたら鍛冶場に行ったって言っといてください!」


「承知いたしました」

マイアは頭を下げてアルージェを見送るが、アルージェはマイアの返事を聞かず外に飛び出す。

いつも一緒のルーネも連れずに鍛冶場を探す。


キョロキョロと鍛冶場を探しながらアルージェは移動する。

「マイアさんは近くに有るって言ってたなぁ」

少し歩くとどこからか金属を叩く音が聞こえた気がした。


「こっちか!」

アルージェは音がした方に走り出し、金床と金槌が描かれた看板を見つける。


「絶対ここだ!」

看板が掲げられた建物に入ると専属の鍛冶屋だろうか三人に男性がすでに仕事を初めていた。


アルージェは敷地内に鍛冶屋があることに感動し、目を輝かせる。


一人の鍛冶師がアルージェに気付き、作業を止めて近づいてくる。

「どうした?迷子か?」


「迷子じゃないです!空いてる場所使わせてもらってもいいですか?」


「あぁ、構わないが・・・?」

鍛冶師はアルージェのテンションの高さに困惑する。


「ありがとうございます!」

アルージェはすぐに空いている炉に向かい、炉に魔法で火を灯す。

魔力を注ぎ込み、炉の温度を上げる。


アイテムボックスから鉄鉱石を取り出し、鍛冶の準備を始める。


「使い方分かるのか?って炉に火を焚べてるから問題ないか。怪我だけはするなよ」

鍛冶師はアルージェから離れて、自身の作業に戻る。


この鍛冶場にいる鍛冶師達は初めは子供の遊びだと思って、危険なことをしていないか代わる代わる様子を見に来ていたが、実際に鋼を作った辺りからアルージェを見る目が変わった。


皆自分の作業の手を止め、アルージェが武器を作るところを観察し始める。

一本の槍を作り終える頃には三人全員がアルージェの作業を見て、「おぉ凄いな」「たまげた」と口々に声を漏らす。


「ん?」

鍛冶屋の一人がアルージェが持っている槌の紋様に気付き、目を凝らす。

そして紋様がグレンデのものだと分かり、大声を出す。

「ぐ、ぐ、グレンデさんが制作した槌!?」


急に叫び始めた鍛冶師の隣にいた鍛冶師は耳を塞ぐ。

「いきなり叫ぶなよ。耳が痛いだろ。急に叫んでどうした」


もう一人いた鍛冶師も会話に入る。

「グレンデがどうしたって?」


「いや、だからあの子供が持ってる槌の紋様見てみろって!」

二人の鍛冶師が紋様に目を凝らす。


「グレンデさん!?」


「えっ、あれってグレンデさんの紋様じゃ!?」

三人が槌を見て大騒ぎする。


「あぁ・・・。えーと・・・」

アルージェはその場から逃げるように走り始める。


「あぁ!待ってくれ話だけでも!!」

一人の鍛冶師が声をかけるが、アルージェは厄介なことになりそうだったので振り向きもせず鍛冶場を離れて屋敷に駆け込む。


屋敷の中に入り、物陰に隠れて数秒間後ろを観察する。

誰も追いかけてきていないのを確認して、物陰から体を出す。

「はぁ・・・。なんとか一本だけ槍は作れたけど、当分近づくのは無理そうだ・・・。もう少し鍛冶したかったんだけどな・・・。この後どうしよ」

肩を落としながらアイテムボックスの中を見ていると辺境伯に渡すはずの鎧が大量に入っていて、鎧を渡していないことを思い出す。


「よし!辺境伯様に鎧見てもらおう!書斎は昨日も行ってるし、すぐに見つかるでしょ!」

記憶にある場所に行くが全く違う場所だった。


「あ、あれー?ここ何処だろう?いや確かに昨日はここに合ったと思うんだけどな。だって昨日この花瓶見た気がするもんな」

アルージェが少し歩くと同じ花瓶がもう一つ置いてあった。


「えっ?ここにも同じ花瓶?もしかして同じ道進まされてる?」

更に奥に進むともう一つ同じ花瓶が置いてある。


「花瓶全部一緒なだけか・・・。えっ、なら目印が目印になって無いってこと!?」

花瓶に翻弄されていると、アルージェと同じ歳位の少年が前を歩いていた。


後ろ姿や髪色はミスティとは全く違うが、着ている服が少し高そうに見えた。


アルージェはもしかして弟さんか?と思い声を掛ける。


「ちょっと待ってー!」

アルージェが少年に声を掛けると、少年は不快そうにアルージェを睨みつける。

「誰だ、お前?」


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