食事後、ミスティから逃げるようにルーネに案内してもらってアルージェは訓練場に足を運んだ。
朝早いこともあり、まだ誰も来ていなかった。
アルージェはそんなことお構いなしに昨日製作した
「型みたいなのがあればいいんだけど、父さんが教えてくれたのは実戦での戦いだけだからなぁ」
父フリードも色々な武器を使えたが、今思えば一番得意な武器って感じでは無かった。
おそらく元冒険者の父は得物が無くても戦えるように努力した結果なんだと思う。
「えっ、ちょっと待って一番得意な武器なんだったんだろう。これ気になったらずっと気になっちゃうやつだ。絶対次村に帰ったら聞こう」
首を横に振り、雑念を振り払う。
「槍に学習させないといけないから、ちゃんとやろう!よし」
雑念を払ってルーネに猫撫で声で話しかける。
「ルーネェ。お願いあるんだけどぉ」
アルージェは猫撫で声でルーネに話し掛けて近づき、体をわしゃわしゃと撫で始める。
何をして欲しいかルーネは勘付いていた。
素振りでは物足りないから組み手の相手をして欲しいのだろうと、断固拒否の意思を崩さずにルーネはアルージェにそっぽを向く。
「一緒に組み手しよぉー?ねぇ?たまにはいいでしょー?ほらほらぁ」
アルージェはルーネのご機嫌を取るために必死に頭や体を撫で回す。
ルーネは少し嬉しくなって尻尾でパタパタを地面を叩くが、それとこれとは別の話。
今のルーネの心境は眠いのに早朝に起こされて、組み手までしろなんて溜まったもんじゃないと言った所だろうか
「シュークリーム」
アルージェはルーネの気を引くために大好物の名前を呟く。
ルーネは耳をピンと立てて、耳だけアルージェに傾ける。
「三個」
アルージェが呟くたびにルーネの尻尾は地面を叩く力が強くなる。
だが、ルーネは断固としてアルージェの方に顔を向けることは無い。
「ちぇっ、三個じゃダメか。シェフは何人か屋敷にいたけどシュークリーム作れるのは一人だけだからなぁ。これ以上は厳しいだろうし・・・」
アルージェがうんうんと唸っていると、アルージェに声がかかる。
「あれ?アルージェ珍しく早いじゃん。どうした?」
アルージェが視線を向けると意外にもジェスが私兵団員達の中で一番に訓練場に来ていた。
「えっ?ジェスさん早く無いですか?」
「早いか?俺いつも一番に訓練場に来てるけどなぁ」
「・・・。人は見た目通りじゃ無いんだって、今知りました」
「おいおい、それどういう意味だ?」
ジェスはアルージェの肩に腕を回して、脇腹を小突く。
「痛い。痛いですって。ジェスさん!冗談ですから!」
ジェスの拘束をするりと抜けてアルージェは距離を取る。
「ははは、それならいいけどよ。それで何か困ってんの?」
「そうなんですよ!あっ、この際だからジェスさんでいいや。組み手しましょ!く・み・て!」
アルージェは持っていた
「別に良いけど、なんか言い方気になるな」
「気にしないでください!じゃあいきますよ!」
「ちょっ!早っ!」
ジェスはアルージェの攻撃を受け止めて、詠唱をして魔法を発動させる。
「我が身に魔を宿し強化せよ。『|身体強化《フィジカルエンハンス』」
そのままジェスと組み手をしていると、続々と私兵団達が集まってくる。
「いつも来るのだけは早いジェスがアルージェと組み手してるぞ!」
「ははは、いつもサボろうとするツケが回ってきたな」
「ジェス以外はこちらに集合だ。ジェスはそのままアルージェと戦闘訓練を続行!」
スベンが指示を出すと、私兵団達はジェスの方へキビキビと移動をする。
アルージェと少し距離を取った隙にジェスが他の私兵団達に叫ぶ
「えっ、俺もう疲れたから誰か代わってよ!アルージェと戦闘訓練すんの、もう疲れたんだけど!?」
ジェスの言葉も虚しく、スベンは私兵団達に今日の訓練内容を伝え、ジェスをおいて訓練を開始する。
「えっ、みんな本気?」
「ジェスさんどこ見てんですか!まだまだいきますよ!」
ジェスがよそ見している内にアルージェがまた肉薄し、攻め続ける。
「ひぃ!もう辞めてくれー!」
アルージェからの攻撃をいなし、ジェスの虚しい叫び声が訓練場に響き渡る。
午前の部が終わるギリギリでジェスはやっと休憩に入った。
「はぁ・・・。はぁ・・・。アルージェとの戦闘訓練休憩ないからキツー」
ジェスは槍で体重を支えながら座り込む。
「ジェスさん!ありがとうございます!午後から良いですか?」
アルージェが座り込んだジェスに駆け寄る。
「午後?あぁ、厳しいだろうねぇ。午前サボったし、きっと団長が訓練に参加しろって言うはずだからさ」
「構わん。午後もアルージェの相手をしてやれ」
スベンがジェスの肩を叩き去っていく。
「はぁ・・・、逃げ道無しじゃん」
ジェスはやれやれと首を振りながらため息をつく。
「やった!なら僕別館でご飯食べてきますね!ルーネ!いくよ!」
木陰で寝ていたルーネを起こして、別館に走って戻っていく。
「子供は元気だねぇ」
ジェスはアルージェの背中を見送りしみじみと呟く。