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第五部 〜First Step〜

第二百十一話

青年が目覚める。

「ここはどこだ?一体何が起きたんだ」

この世界では珍しい黒髪を掻き上げて、黒目をキョロキョロと動かし辺りを見渡す。


まず初めに目についた物。

それは、橙色の表紙の本。


「なんだこれは?」

青年が拾い上げると、ヒュッと本が手元から消失する。


「一体なんだったんだ?」

消失した本のことは置いといて青年は再度辺りを見渡す。

青年の目に木々が生い茂り、木には蔦が巻きつき岩には苔が張り付いている管理されていない森が映る。


「森か?」

青年はここに来るまでに経緯を思い出そうと記憶を遡ろうとする。


「痛っ」

猛烈な頭痛が襲い、ここにどうやってきたのか何も思い出すことが出来なかった。

だが、自分の名前や出身、その他の記憶や教養は失ってはいなさそうだ。


「くそっ、何がどうなってんだよ」

青年は記憶を遡ると頭痛がするので思い出すことは諦めて、立ち上がり辺りの様子を伺う為に動き始める。


少し歩いたところで物音に気付き、青年は木の陰に隠れる。

木の陰からちらりと覗き込むと子供のような大きさだが下腹が出ており、醜悪な顔をしたゴブリンがグギャグギャと群れて騒いでいた。


「なんだあれは?見たこと無い種類の餓鬼か・・・?」


「おい、お前達」

青年がゴブリンに話し掛ける。


ゴブリン達は一斉に青年の方へ視線を移す。


「ここが何処か分かるか?目が覚めたらここにいたんだが」

青年は話を続けるが、ゴブリン達は獲物を見つけたと目を光らせて手入れをされていない武器を構え始める。


「チッ、やっぱり話は通じないか」

青年は落ちていた石に視線を向けると、石が浮かびゴブリンに向かって放たれる。


先頭にいたゴブリンは石で頭を貫かれて即死する。


「餓鬼では無いようだが弱さは餓鬼と同じようだな」

青年は死んだゴブリンが落とした槍に視線を移すと槍が青年の元に勝手に移動して、周りをフヨフヨと漂い始める。


ゴブリン達は仲間を殺された怒りを露わにして、その場にいたゴブリン全員で一斉に青年の元に走り始める。


「統制も連携も無いか」


青年の近くをフヨフヨと浮いていた槍が槍を持っているゴブリンを一匹、また一匹と襲撃する。


「ふん、相手にもならんか」


青年は倒したゴブリンが落とした槍を追加で五本操作し、合計六本の槍を使い残りのゴブリンを蹴散らしていく。


最後に一匹だけ残ったゴブリンは、勝てないと判断して青年に背を向けて走って逃げていく。


「逃すわけないだろ」

近くを漂っていた槍が一本だけ地面と並行になるように動き始める。

発射ファイア

青年は人差し指と中指を立てて、前に倒すと槍が発射され最後のゴブリンの体を貫く。


「それにしても物騒な場所だ。早くここから出る必要があるな」

青年はたったの十分程度でゴブリンの村は壊滅させて、この場を後にした。


青年が森を抜けると大きな城壁がある街が見えた。


「なるほど、あれほど大きな城壁見たことが無い。今の時代城壁なんてなんの意味も為さないはずだ。ここは日本皇国ではないのか」

だが青年は他に行くあてもないので、大きな城壁のある街に歩を進める。


城門にはかなりに人が並んでいた。

青年は何も考えることなく後ろに並び始める。


だが、途端に不安が襲う。

前で何やら楽しげに話している言葉を聞いても全く理解できない。

そう話している言葉が日本語でも英語でも中国語でも無いのだ。

いや、正確には今まで日本皇国で暮らしてきて聞いたこと無いが正しかった。


「話しているのは何語だ?」

青年は不安になるが、列はどんどんと進む。


そして青年の番になった。


門番らしき男が青年に向かって何かを話し始める。

やはり門番らしき男が話している言葉を理解することが出来なかった。

今まで聞いたことある言葉ではなかったのだ。

青年は言葉を理解できないので、門番の顔を見る。


もう一度門番が何か青年に向かって話し掛けるが、青年はただ無言で門番を見つめる。

段々と門番はイライラし始めていたが、門番も言葉が通じていないと分かったようでため息を吐き、壁に向かって指を指す。

青年は何となくだが向こうで待ってろと言われた気がしたので、指示に従い壁側で待機する。


壁際で待機していると先ほども門番よりも大きな体の男達が出てきた。

青年が殴られたら一溜りもないだろう。

一人が青年に向かって話し始めるが、青年は無言でガタイのいい男を見つめる。


話しかけてきたガタイのいい男は突然青年の腕を掴み、出てきた部屋に入る。


そのまま部屋に入るや否や、鍵を閉めて大声で何かを訴え始める。

剣をチラチラと見せてきているので雰囲気的に何か脅し文句を言ってきているのだろう。


「すまない、言葉が分からないんだ」

青年がようやく口を開いたが、ガタイのいい男達は顔を見合わせせる。


男達は青年に向かって何かを言い始める。


「だから、君たちの言葉わからないんだよ」


ガタイのいい男達は青年との会話を諦めて、各々の仕事に戻り始める。

リーダー格の男が椅子を指さして、何かを言う。


青年は雰囲気的に椅子に座れということなのだと思い、椅子に腰を下ろす。


どれくらい時間が経ったかはわからないが、外に出ていたガタイのいい男が今度は小柄でふくよかな男性を連れてきた。


そしてガタイのいい男が青年を指さすと、小柄でふくよかな男性はニコニコと近づいてくる。

小柄の男性もニコニコしながら何かを話しかけてくるが何を話しているかはわからない。


リーダー格の男が小柄な男性に何か話しかけているが、小柄な男性は青年をジロジロと見ている。


「あんまり見るなよ。気持ちわるい」

青年は呟く。


小柄な男性は立ち上がり、リーダー格の男に何かを話している。

一人ガタイのいい男が近づいてきて青年を無理やり椅子から立ち上がらせる。

「力に任せて無茶苦茶しやがる。なんなんだこいつらは」


青年を無理やり引きづり小柄な男に差し出すと小柄な男性が、青年に首輪のようなものをつけようとする。


「やめろ!なんだそれは!」

青年は暴れようとするが、ガタイのいい男達が青年を押さえ込む。

その隙に小柄な男性が青年に首輪を装着しようと近づく。


「やめろ!」

青年は叫ぶと小柄な男が持っていた首輪が弾かれて、壁の方へ飛んでいく。


首輪を弾かれた小柄な男性は驚き目をキョトンとして、ガタイのいい男達が顔を見合わせる。

青年は弾いた首輪に視線を向けると、首輪が宙に浮き勝手に動き始めてガタイのいい男に装着される。


それを見た別のガタイのいい男は青年を殴ろうと拳を振り上げるが、青年は何かを察知してすぐに椅子に視線を向けてガタイのいい男に向かって飛ばす。


横からの不意打ちを受け殴りかかろうとしていた男は床に倒れる。

他の男達は携えていた抜剣し何かを叫び、青年を囲む。


青年も首輪をつけられそうになったり殴られそうになったりしたので、警戒し興奮していた。

「お前らが意味わからないことをするからだろう!」


剣を抜いた男達の前に小柄な男が出てきて、何かを言って静止する。

リーダー格の男が小柄な男性に何か言っているが、小柄な男性がリーダー格の男に何かを言うとリーダー格の男は渋々頷き、剣を鞘に戻す。

他の者達にも戻すように指示をすると指示に従い剣を納刀する。


小柄な男は青年に頭を下げて、何かを言っている。

何を言っているかはわからないが敵意はなさそうだ。


青年は頭を下げている小柄な男性をただ見つめる。

そして小柄な男性が頭を上げると、背を向け外に出ていく。


ガタイのいい男は親指を立ててちょいちょいと小柄な男性を指さす。

どうやらあの男についていけと言われているようだ。

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