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第二百十四話

超能力者リミットレス

俺がいた世界では人ならざる力をもつ人間をそう呼んでいた。

異能やら超能力といえばわかりやすいかもしれない。


魔法は使えないが俺には超能力者リミットレスとしての力がある。

故に魔物を相手するのは容易いことだった。


あの日から何度か依頼を受けた。

俺にとって難しいと感じる依頼は無かった。

魔物を倒せと言う依頼は俺がいた世界でも超能力者リミットレスなら何度も経験することだからだ。

言われた通り魔物を倒せば、あの老人の言った通り生活や地位は保障されていた。


そして今日も新しい依頼が届いた。

今回の依頼は北の村に現れた魔物の群れを倒す。

この世界は生と死が常に隣り合わせの危険な世界のようで、魔物が当たり前のように村を襲う。

今まで受けた依頼は全て魔物に襲われた村の救助に行く依頼ばかりだった。


だが、俺達討伐隊が到着する頃には、村人は一人も残っておらず骨すらも残らないくらいに食い荒らされた後だ。


もう少し俺達が早く着くことが出来ればと居た堪れない気持ちになりながらも到着後、俺は必死に魔物を駆除したのを覚えている。

だれか一人でも村人が生き残っていない微かな希望を胸に抱きながら。


そして今回も魔物の討伐に出発し、襲われていると言われている北の村付近に到着する。


「おい、ユーキ。もうすぐで着く。これを飲んでおけ」

この部隊の隊長に丸薬を渡される。


「あぁ、いつも助かる」

青年は隊長から丸薬を受け取り、水で流し込む。


どうやら俺はこの世界に転移して来たせいか、魔力というものが備わっていないらしい。

魔力はこの世界では万物に備わっており、防護壁のような物を形成し、自身を護る効果があるらしいが俺にはそれがない。


だから敵からの攻撃を一度でも喰らえば、即死してしまう可能性ある。

そうならないためにあの老人が配慮して、魔力の丸薬とやらをお抱えの錬金術師に作らせて俺に配給してくれている。


「クッ」

ズキズキと頭痛がして青年は頭を抱える。

だが、これはいつものことだ。

魔力が無いものに無理矢理、魔力を与えるのだから副作用があるのは当然だ。

効果は一時的なものなので毎回戦闘の前にはこれを飲む必要がある。

この頭痛は慣れないが死ぬよりはマシだろう。

それに頭痛はすぐに収まる。


「飲んだか?念の為に確認だ。口を開けろ」

隊長は青年の口の中を見て丸薬を飲んだことを確認する。


「よし、飲んだな。お前が死んだら俺の首が飛ぶからな。気をつけてくれよ。まぁ、ユーキが死ぬなんて考えられないけどな。ハハハハ」

隊長は笑いながら背中をバンッと叩く。


「今から行く村もおそらく既に魔物が闊歩しているはずだ。気を抜くなよ。魔物は一匹も残さず全て片付けろ。いいな?」


「あぁ、分かっている。これが国のためになるんだろ?」


「そうだ。ユーキもようやく分かってきたみてぇだな」

隊長は青年に向けてニヤリと笑う。


「よし、お前ら。国を護るために行くぞ!」

隊長が鼓舞すると一緒に討伐に来た兵達も気合いを入れる。


「かかれー!」

隊長の指示で皆が村に向かって駆け出す。


村に入ると隊長の言った通り、村人の姿は無く。

魔物が我が物顔で闊歩していた。


またもや村人達を護ることが出来なかった悔しさで青年はギリィと歯を噛む。

青年が指で指示を出すと青年の後ろに浮遊している槍が一本地面と平行になり魔物目掛けて飛んでいく。


槍は魔物の頭を貫く。

「お前ら、全員皆殺しにしてやる」


そこから青年の一方的な蹂躙が始まる。

青年の後ろをフヨフヨと浮いている槍が地面と平行になり四方八方に放たれて一寸の狂いも無く無抵抗な魔物の頭を貫く。


青年の力も有り数分もしないうちに村にいた魔物は全て片付いた。


「ご苦労。今回もすごい働きだったな。ついてきた兵達全員合わせてもお前の討伐数には勝てないだろうな」

隊長は青年の背中をバンッと叩く。


「そうだ、もう終わったからこれ渡しておく。後始末は俺達がやっとくから帰っていいぞ」

隊長から丸薬が渡される。

これははじめに飲んだ丸薬とは別物。

魔力を体内から排出するための薬だ。


丸薬の効果で魔力が無い俺に無理矢理魔力を与えているので、体にどんな影響があるのかわからない。

だから、魔力が不要になればこの丸薬を飲んでしっかりと魔力を体外に出す必要があるそうだ。


「飲むのは戦場を抜けてからにしろよ。何があるかわからないからな。おい、お前。ユーキを聖国まで送っていけ」


「ハッ!」

隊長から指示された兵は敬礼をする。


「ユーキ様、聖国へはこの道から行くといいです」

兵士は先導し、青年は兵士の後ろをただついていく。


「あぁ、俺には土地勘がないから道案内は任せる」

青年は戦場から出てからと言われていたが忘れるのが嫌だったので、丸薬を口に含み水で流し込む。

村から出ようとした時、小屋からガサガサッと音がした。


「ん?」

青年は音に気付き、槍をいつでも放てるように構える。


「どうしましたか?ユーキ様」

兵士が振り返り青年に近づく。


「あの小屋、まだ魔物がいるかもしれない。少し見てくる」

青年が小屋に近づこうとするのを兵士が止める。


「ユーキ様。念の為に隊長達に知らせて来ますので、ここでお待ちください」

兵士は駆け足で村の方へ戻っていく。


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