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Chapter6 - Episode 52


結論から言えば、その後のイベントは灰の塔で戦ったフールフールとの戦いを大規模なものにしただけで終わった。

私も参加はしたものの、殆ど目立たないように……と言うよりは。

そもそもレイド戦で目立つような活躍が出来るプレイヤーでもないため、いそいそと、ちまちまと攻撃を加えていただけだ。


『……で、その悪魔の将軍っていうのはどうなったんです?』

「簡単ですよ。そりゃ強かったとはいえ、レイドですからね。最終的には物量で圧されて終わりです」

『へぇ……』


場所は『惑い霧の森』、そのボスエリアだ。

深い霧に囲われた境内には、石畳の上に胡坐をかいて座っている私の他に、大きな白い狐と霧を衣服のように纏った美女が居た。


『狐の女子よ、些か話を端折りすぎだろう』

「いやぁ、まぁ本当に色々あったからなぁ。……あぁ、灰被りさんと似たような境遇のプレイヤーが何人かイベントエリア内に居て、その人らを助ける度にフールフールが弱体化入っていったらしいんだよね。灰被りさんの塔は暴走させられた魔術の特性の所為で、色々と面倒な事になっただけで、他の所には普通に他のプレイヤーが入れたらしい」


塔には結果的には私しか入れなかった。

というのも、元々あの灰の塔が『限定条件を設定して』『条件に合ったモノ以外を攻撃する』という法則があったらしいのだ。

だからこそ、元々条件付けられていた『アリアドネに関係するモノ』以外を灰に変える魔の塔へと変わってしまっていた。


「似たような例だと……なんか『だるまさんが転んだ』とかの鬼ごっこ系の遊びを一定時間ごとに強いられる暴走魔術とかあったらしいよ?それも鬼側に捕まったらダメージとか、最悪デスペナの類の奴」

『あら、それは面白そうですね』


巫女さんは楽しそうに笑っているが、実際に体験したプレイヤーからは大変に不評であったらしい。

というのも、その魔術を暴走させていたフールフールの分体が各遊びの『鬼役』となっていたらしく。

こおり鬼が始まれば、フールフールの攻撃に触れた者は凍り。

手つなぎ鬼が始まれば、フールフールの攻撃に触れた者は一定時間アバターの操作権自体が奪われる。

ボール鬼が始まれば、突然立体型の弾幕気合避けを強いられるのだ。


元がどんな魔術だったのかは分からないが、最後トドメを刺された分体も牡鹿であるにも関わらず、非常に疲れた表情を浮かべていたとの事。

その場にいた遊び人フィッシュがそう言っていたのだからそうなのだろう。


「ま、私には関係ないですけどね。知り合いの魔術でもないし、今後もPvPには触れるつもりあんまり無いんで」

『それは残念です……その指輪を通して見れるかと思ったのですが』

「ごめんなさいねー。……で、馬鹿狐。試練の続きってのはいつやるの?私は別に今からでも良いんだけど?」

『――いや、少し後にしよう。狐の女子には我の試練よりも先に片づけるモノがあるだろう』


話は『白霧の森狐』によって行われた試練の続きへと変わっていく。

しかしながら、白狐はそれを今すぐに始めるつもりはないらしい。

と、いうよりは。私がイベント【集い祓え鹿の者を】中に新たに得た縁の方を気にしているのだろう。


「あー……蛇さんかぁ……」


蛇。【嫉妬の蛇】。

確実に悪性変異関係の、プレイヤー個人個人に対して発生するタイプのイベント。

その中に出てきた魔術言語で出来た蛇の事だ。

あの少女のような声をした蛇は、私に対して力を与えると言っていた。

言っていたし、試練を行うとも言っていたのだ。

それを気にしているのだろう。


「じゃああの蛇さんとの試練が先、その後はあんたね」

『あぁそういう事になる』

「りょうかーい、それならこれからの方針は大まかに決まったかなぁ」


私がスッと立ち上がると、ふよふよと浮きながら『白霧の狐憑巫女』はこちらに問う。


『これからの方針とは?』

「まずは、魔術の等級強化から。その後はちょっと活動範囲増やしながら、良い感じのタイミングで蛇さんの試練を受けたいなって所ですね。まぁタイミング自体は蛇さんのさじ加減次第なんですけど」

『成程……では?』

「えぇ。ちょっとそこの馬鹿狐の劣化ボスでも倒し続けようかと。久々にやる?『白霧の森狐』」

『……良いだろう。後悔するなよ?』

「あはッ、こっちのセリフ」


……さて、やる事はまだいっぱいあるなぁ。

これからやる事を考えると、暫くの間は再び素材集めなどを行う必要があるだろう。

しかしながら、今の私には新たに移動手段が2つも増えた。

まだ見ぬ景色を見に行くには十分すぎる程に選択肢が増えてくれたのだ。


再戦エリアへと足を向けながら、私は空を見上げる。

お祭り事イベントは終わった。

しかしながら未だ忙しい。否、やる事は尽きない。

その事に頬を緩ませながら、白い霧の中を今日も行く。



――――――――――

Name:アリアドネ Level:24

HP:480/480 MP:170/170

Rank:novie magi

Magic:【創魔】、【魔力付与】、【挑発】、【衝撃伝達】、【霧の羽を】、【血液強化】、【血狐】、【ラクエウス】、【霧狐】、【血液感染】、【交差する道を】、【路を開く刃を】、【霧式単機関車】

Karma:『禁書棚』、『禁書庫へと至る鍵』

Equipment:『面狐・始』、『狭霧の外套』、『狭霧の短洋袴』、『ミストグローブ』、『ミストロングブーツ』、『魔霧の狐面』、『霧の社の手編み鈴』、『白霧の狐輪』、『煙管:【狐霧】』

Technique:魔術言語、儀式魔術、シギル魔術、付加魔術

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