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Chapter7 - Episode 2


植物に浸食された境内。

そこには満面の笑みを浮かべた、霧を衣服のように纏っている絶世の美女と言うべき存在が居た。

『白霧の狐憑巫女』……私の管理するダンジョン『惑い霧の森』の深層のボスだ。


『どんな魔術を創るんですか?』

「……なんで私よりわくわくしてるんです?」

『私、【創魔】見るの初めてですから!』

「あは、でも他人から見たらそこまで面白い物じゃないと思いますし、そもそも【創魔】は使わないんですよね……。あと、やる事はお願いしますね」


私がそう言うと、彼女はふよふよと浮きながら私の方へと近づき。

一瞬形がブレる白い手を私の頭へと伸ばした。

人ではなく、ボス。それも深層という高レベルのボスだ。

そんな存在から頭に手を伸ばされるというのは、普通ならば恐怖したり身構えた方が良いのだろうが……普段の彼女を知っている分、それが杞憂に終わる事を私は知っている。


彼女の手はそのまま私の頭を撫で、狐耳を少しだけ触った後に。

私の頭に付けられている狐面へと触れた。


『……今も視ていますね?』

「あ、やっぱり?」

『えぇ。この面からあの子へ魔力が少し流れているのを感じます。恐らく限定的ではあるでしょうが会話内容も聞かれているかと』


巫女さんがそう言った瞬間、少しだけ狐面が震えた……ような気がした。

しかしそんな事はお構いなしに、巫女さんは濃い魔力の込められた霧をその身体から出現させる。

形が無かったそれは、徐々にある形へと固まっていく。

それは、錠だ。

少し見れば引く程の魔力が込められていると分かる、霧の錠だ。


彼女はそれを狐面に近づける。

すると、


【個人通知:『白霧の狐憑巫女』により『魔霧の狐面』の効果が一時制限されました】


「もしかして、くっつきました?」

『えぇ。不可視のまじないを込めた錠です。一応あの子のモノなので時間経過で取れるようにしています。それに加えて、一時的に狐面の効力も抑えてます』

「……凄いですね……」


ログが流れ、狐面の効果が制限された所為か境内に満ちる霧が見通す事が出来なくなる。

しかしながら『白霧の狐輪』のおかげで霧の操作能力自体は失われる事はない。

だが、これであの馬鹿狐にこれから等級強化する予定の魔術について知られる事は無くなった。


「じゃあ始めます。どんな影響が出るか分からないんで、少しだけ離れてください」

『はーい』


楽しそうにニコニコと笑う彼女はそのまま離れていく。

……あの人、どんどんフランクになってくなぁ。

そんな事を思いつつ、私は魔術の等級強化を選択する。

今回強化する魔術は、



【魔術の等級強化が選択されました】

【【霧狐】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『隷骨王の骨』、『霧霊狐の毛皮』が規定数必要となります……規定数確認】

【【霧狐】の強化を開始します】


そう、【霧狐】だ。

多くの場面で索敵を任せていた魔術ではあるものの。

少しばかり使う事が少なくなってきた魔術だ。

先のイベントでは活躍してくれたものの、同時期に創り出した【血狐】のように普段から活躍させているかと言えばそうではないのだ。


出現した魔導書のページを、とりあえず理想として考えていた内容へと変化させていく。

名前も、そして内容も全て変えていく。

ほぼほぼ確実に追加の素材が必要になるものの、今回要求されるであろう素材は十中八九巫女さんか馬鹿狐のモノであるのが予想出来ているため問題ない。

その2体の素材だけならばインベントリの肥やしとなっているレベルで持っているのだから。


「よし完成」


【警告:名称未設定の状態では等級強化を完了することはできません】

【名称を設定してください……【狐霧フォックス憑りトランス】へと名称が変更されました】

【魔術効果が変更されました……一部承認】

【一部効果を書き換えました】

【魔術効果変更に伴い、インベントリ内から『霧霊狐の霧発器官』、『霧霊狐の血液』、『霧霊狐の毛皮』『狐憑巫女の霧発器官』、『狐憑巫女の血液』、『狐憑巫女の髪』を消費しました】

【魔術効果変更に伴い、等級が『初級』から『中級』へと変更されました】

【『言語の魔術書』読了による構築補助を確認しました。『カルマ値』を獲得します】

【等級強化を終了します】

【条件を満たした魔術数が規定数に到達しました。プレイヤーの等級を『novie magi』から『medium magi』へと変更します】

【機能が開放されました。詳しくはオンラインヘルプをご確認ください】


ある程度予想出来ていた為、一部の効果が書き変わる事や素材が持っていかれるの自体は問題ない。

しかし同時に予想外の事も起きたために、私は頭の処理が追いつかなかった。


「ふ、ふふ……久々だなぁこの感じ。確か前は【衝撃伝達】を強化した時に似たような事になったなぁ……」

『ん……終わったようですね。纏っている魔力の質が変わりましたよ』

「あ、本当ですか?……そういう所にも影響が出るのか」


思わぬ所で自分自身の等級の変化によって生じる影響を知る事が出来たが、今知りたいのはそこではない。

今回強化した【霧狐】もとい、【狐霧憑り】の性能だ。

私は少しだけ逸る気持ちを抑えながら、【狐霧憑り】の効果をウィンドウで表示させた。


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