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Chapter7 - Episode 4


「補助ッ!」


周囲の霧の中からこちらへと伸びてくる矢印・・の本数を確認しながら。

私は霧の着物へと呼びかける。

すると、だ。私の周囲に鬼火のような白い霧の塊が3個程出現した。

それと共に濃い霧の中の状況がある程度把握できるようになる。


瞬間、私の目の前に2体の剣を持ったミストヒューマンが突然・・出現し。

その手に持った剣を私に向かって振るう。

……またッ!


だが、それだけだ。

突然出現する以外に意外性の無い攻撃を、今更私が喰らうわけもない。

手に持った『面狐』を握りしめ、【衝撃伝達】、『脱兎之勢』を使う事でその2体の背後へと回り込む。

見る人が見れば、私こそ瞬間移動しているように見えるかもしれないが、ただただ直線移動を繰り返し、足に多大な負担をかけているだけの小技にすぎない。

無防備にこちらへ背を向けている2体の首を切りつけ、『面狐』の追撃が発動したのを確認してから息を浅く吐く。


現状、私の周囲にはこちらへ向かってきている矢印が複数本。

【狐霧憑り】によって索敵出来た敵性モブの数だ。

詳しい索敵範囲は分かっていないものの、ほぼパッシブスキルのように使えているため現状不満はない。

そして、


「一回戻った方が良いかなコレ……うん。霧狐、そのまま補助」


私は周囲の霧に干渉し、魔術言語を構築していく。

それと共に私の周囲に浮いていた霧の鬼火がその形を変化させていった。

【狐霧憑り】による魔術言語の構築補助……という名の、私が構築した魔術言語の複製能力だ。

当然、全てを複製することは出来ない。

現状はある程度まで簡易的にした魔術言語でないと複製できないのは確認しているし、『狐群奮闘』や『脱兎之勢』ほどにきちんと構築しないといけないモノに関して言えば、複製する前に鬼火が霧散していくのだ。


「とりあえず『氷生成』で。……周囲に壁を作る形でいける?」


そう問いかけると、私の身体に付いている霧の尻尾が横に振れる。

その反応に満足しながら、私は構築した魔術言語に魔力を流した。

瞬間、私の手元の魔術言語と周囲に浮いている鬼火から冷気が漏れ、氷の壁が私の周囲を囲むように出現する。

これで一時的に目を使って索敵をするタイプの敵性モブからは隠れることが出来るだろう。

あとはこのまま一度、巫女さんが居るであろう深層の境内へと戻ればいいだけなのだが……1つだけ気になる事がある。

それは、


「……さっきから瞬間移動とか、転移とかそういうタイプの能力持ちが居るんだよねぇ」


『惑い霧の森』の深層は、確かに私もまだその全てを探索し終えたとは言い難い。

しかしながら、出現するモブに関してはほぼ網羅出来ていると思っている……のだが。

私の知っているモブの中に転移能力持ちは存在していないはずなのだ。

だが、居ると断定することが出来る。

この深層のどこかに、転移能力か何かを持ったモブが存在すると宣言することが出来る。

【狐霧憑り】による矢印表示……敵性モブの位置が度々別の場所へと変化しているからだ。


数回ほど霧狐に確認しているが、範囲外に敵性モブが移動しているわけではない……とのことなのだ。

言葉を介しているわけではないため、細かいニュアンスの差はあるかもしれないが。

……狐面が無いと厳しいかな、やっぱり。少なくともきちんと霧が見通せないと……。

私はそう考え、詠唱を開始し【霧式単機関車コンクラー】とコンダクターを呼び出し境内へと帰還した。



『……で、帰ってきたわけですね?』

「そういう事です。巫女さんの方は何か感じてます?」

『そうですね……正直、私はそういった生物に対する感覚はあんまり鋭くないんです。なので申し訳ないですが……』

「まぁそうですよねぇ……どっちかって言うと馬鹿狐の方がそういうのは得意っぽいですもんねぇ……」


境内に帰ってきた私は、ダンジョン内に詳しいであろう巫女さんに聞いてみたものの。

彼女も彼女で索敵、というよりはバリバリ戦闘系のボスであるためか、あまり境内内以外の事は分からないようだった。

つまりは、管理者である私が確認するべき事柄なのだろう。


「ちなみにこの霧の錠はいつくらいに消えますか?」

『そろそろ消えますよ。それと同時にあの子に色々と情報が行くかと……』

「まぁそれは良いですよ……っと」


そんな会話をした瞬間。

境内内に漂っている濃い霧を見通せるようになっていく。

どうやら狐面の封印が解けたようだった。


目下の目標、というよりは。

確認事項が1つ増えてしまった。だがしかし、転移系能力を持っているとなると。

その敵性モブの素材を使えば、【交差する道をクルーセス】の等級強化を行えるかもしれない。


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