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Chapter7 - Episode 11


『あとアリアドネよ。今の我は【嫉妬の蛇】ではなく【羨望の蛇】だ』

「あれ、名前変わったんですか?」

『貴殿の試練の結果でな』


そう言いながら、【嫉妬の蛇】改め【羨望の蛇】は頭を振り周囲を見渡している。

といっても、恐らく霧を見通す事は出来なかったのだろう。

すぐに興味を失ったのか、私の身体に絡みつき始めた。


「で、どうして出てきたんです?」

『まぁこの本を使った授業の教師役、という奴だ』

「……え、教えてくれるんです?この中身の内容」

『我も暇であるしな』


教師役、という事は。

全く私でも理解できていない本の内容を、それこそ本の内容本体が教えてくれるという事だろう。

しかしながら、相手はあの魔術言語の蛇だ。


「えぇっと……ちなみに代償は?」

『呵々、そうさなぁ。代償という程ではないが、我を度々外に出しておいてくれると助かる』

「……それだけ?」

『あぁ、それだけだ。まぁ我を出すのに貴殿の魔力を使うがな』


その発言に対して、私は巫女さんの方を見た。

彼女は苦笑いしながら首を傾げていたが……止めてこないという事は問題がないのだろう。

一応彼女は退魔関係の神社の巫女だ。

それこそ私以上にこういった代償や存在に対しての知識を持っている……はずだ。


「じゃ、それでお願いします」

『おう!……で、まぁ……この場はなんだ?我でも見通せない霧とは……自然の物ではないな?』

「えぇ。一応ダンジョン内ですよ。そこの巫女さんがダンジョンボスの『惑い霧の森』って所です」

『どうもー』


そんな軽い挨拶に対して、今度は蛇の方が私の身体に絡みつきながら苦笑をしているかのような雰囲気を出しているのが分かった。

恐らく、蛇の知っているダンジョンボスとは違ったのだろう。


「やっぱりここじゃ色々厳しいですか?」

『否、問題はない。確かに空気中の魔力は濃いが……我が制御すれば良いだけの事だ』

「ふむ……じゃあ教えてもらいますか」


制御できるという言葉が本当かどうかは分からない。

色んな意味で、蛇という存在は信用すべきではないと少しだけ神話をかじっていれば分かる事だ。

後で林檎でもあげてみて反応を見よう。

……そもそも食べ物とか食べれるか分からないけどね。

私は驚きや気の緩みによって少しだけ戻ってきてしまった霧を、再度意識して除けていく。


『お、よく周りが見えるようになったな』

「ちなみに、この本って普通に物語とかあったりするんです?」

『ん?ないぞそんなもの。我が外に出るのに必要なものと、それ以外に適当なものを詰め込んだだけの本だからなソレ』

「……えぇ……」


どうやら安全装置がない理由はこの蛇が理由だったらしい。


『うわぉ?!ア、アリアドネよ!霧が!霧が我の顔に!』

「おやぁ、なんででしょうね。制御してるんだけどなぁ」


ただ霧ではなく、目隠しのようにして蛇の視界を塞いでひとしきり遊んだ後。

魔術言語によって冷たくない氷の机、椅子を作りその上へと座る。

まぁ少し経ったら溶けていくとは思うが、そこまで時間を使う気もない為問題はないだろう。

……一応本が濡れないようにはしておくかぁ。

適当な布がないかインベントリ内を漁ってみるものの……良いものが見当たらない。

仕方ないと思いつつ、代用できそうなものを氷の机の上に置いてみると。


『なっ、アリアドネ!お前私の本をなんてものの上に置こうとしている?!』

「え、『病魔術師の外套』ですけど……」

『思いっきり疫病的な名前のボスの素材ではないか!』

「……ま、良いか」


何やら蛇が騒いでいるものの、濡れるよりは良いだろう。

そのまま上に置き、蛇に対して無言で話を進めるよう促すと。

蛇は諦めたのか、溜息を吐いた後に話を始めた。


『……魔術言語の構築自体は試練でも見ていたが見事なものだな』

「霧が操作できるんで、直感的に構築できるんですよ」

『ふむ、だが無駄が多いな』

「無駄、ですか?」


魔術言語については『言語の魔術書』によって構築補助などの補正が入っている、はずだ。

だが蛇が言うにはそんな私の構築には無駄が多いらしい。

流石に魔術言語を身体本体としているとそういった所に気が付きやすいのかもしれない。


『あぁ、無駄だ。例えばこの机』

「結構パッと作った割には中々きちんとしてると思うんですけど」

『いーや、ダメだ!』


蛇は私の身体から氷の机へと降り立つと、尾をべちんべちんと叩きつけながら、


『なんだこの無骨なデザインは!もっと色々あるだろう!机の脚とか蛇の造形とか入れた方が良いと思うぞ!我は!』


……教師役、間違えたかな。

少しだけ自分の選択を後悔しつつも、一応そのまま話を聞いてみる事にはした。


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