目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

Chapter7 - Episode 14


『まぁ、兎に角やってみると良い。言った通りに言語を書けるか?』

「霧で良いなら」

『それで良い。寧ろ慣れていないモノを使って勉強するよりは慣れているモノを使って勉強した方が覚えやすいだろうしな』


言われるがまま、指定されるがままに『The envy first tale』を開き文字らしきものを霧で成形してみると。

何処か私の魔力以外にも紫の瘴気を纏っている魔術言語らしきものが出来上がった。


『巫女』

『はい……私が居る意味があったようで何よりです』


しかしそれもすぐに巫女が発生させた濃霧によって飲み込まれ、言語としての形を保てなくなり消えてしまう。


「失敗ですかね」

『あぁ、そうだな。……こんな風に、構築に失敗すると我々側に引っ張られる。言うならば、油を頭から被った状態で松明を使おうとしている状態だな』

「それは……嫌ですね」

『まぁ一応メリットはあるんだがな。コレはコレで』


そう言いながら、蛇は巫女の身体に巻き付きつつ何かを耳打ちする。

すると彼女は苦笑しつつも私と同じように周囲の霧を操って文字を成形し、同じように瘴気を纏わせる。

その霧の文字が何を意味しているのかは分からない。しかしながら、先ほどの蛇の例えが頭に過ぎり私は身体を固くさせてしまう。

だが、問題は起きないのだろう。

そも、目の前でそれをやっているのは屈指の武闘派巫女だ。それに加え、専門家である蛇が耳打ちしながら実演らしき事をしてくれているのだから、寧ろわざと問題を起こすくらいはやりそうだ。


『失敗した言語構築は瘴気を纏う。これを利用し、魔術言語を使用するとどうなるかと言えば……』


蛇の言葉に合わせるように巫女が霧を操作する。

瞬間、出来上がるのは私もよく使う『霧を発生』させる魔術言語だ。

しかしながら、それは知ってはいても知らない現象を引き起こした。


通常、魔術言語によって発生させた霧は魔力が込められておらず、私などのような特殊な手段を使わない限りは自然の物と同じように霧散する。

しかしながら、目の前のそれは独りでに収束し、成形し、そして確かな知性をもっていると感じる程度には威圧感をもってこちらを威嚇する。


巨大な、とは言い難い。

瘴気と霧で出来た大きな狼がそこには誕生していた。


『ふむ、狼ということは暴食に引っ張られたか。と、このように構築者の思惑とは違う方向に動作し始めてしまうのだ。厄介だろう?』

「厄介って言うよりも先に!言うべき事があったでしょうに!」


咄嗟に『面狐』を取り出し、狐面から濃霧を引き出す私に対し、目の前の瘴気と霧の狼を産み出した一端である巫女は苦笑しつつ私を手で制す。

次の瞬間、こちらへと跳び掛かってこようとした狼は、頭部と胴体の繋がる首の部分……脊髄辺りを霧で出来た巨大な槍によって地面へと縫い付けられた。


見れば、巫女の周囲には霧の槍がいつの間にか数本浮いており。

今も私が発生させた濃霧を利用してその本数を増やしていた。


『で、これを起こしてしまった時の対処法だが……まぁ分かりやすいものでな。大抵心臓部に元となった魔術言語が存在している。それを崩してやれば……ほらな?』


蛇の言葉と共に、巫女の周囲に浮いていた無数の霧の槍が狼の身体に突き刺さり剣山の様になった後。

狼は霧散していった。


「これ、ただの失敗例じゃないですよね?」

『呵々。当然だろう。今見た通り失敗すれば勝手に意思を持ち、命を持ち、周囲の物を破壊しようとする厄災となる。しかし、場合によってはそれは力にもなる』

『確かに今のは1匹だけだったから楽でしたけど、あれが複数となると……面倒ですね』


蛇が今、失敗の例を知識としてではなく教えてきたのは理由がある。

これは私に足りていない魔術言語の攻撃的な使い方の一つだからだ。

確かに私には『雑氷』など、使おうと思えば敵を攻撃する事ができる魔術言語の構築プログラムをいくつか持っている。

しかしながらそれは所謂搦め手と言われる類のものでしかなく、相手に有効打を与えるには些か頼りない。


しかしながら、この失敗例はそうじゃない。

私の本領である魔術言語の構築スピードを活かした物量攻撃を展開できる、一種の切り札ともなる攻撃手段だ。

使えるのならば使う、その選択肢は十二分にとれるだろう。

ただ問題があるとすれば、


「私に襲いかかってくる、って所をどうにかできれば良いですけど」

『そこなのよなぁ。巫女、霧を使うというならその類の術はどうなっている?』

『申し訳ないですが、私も彼女も同じく武に寄り過ぎてまして……』


失敗例達を展開させた所で、私に襲いかかってこられたら元も子もない。

それをどうにかする術を考えなくていけないが……生憎と、そういう物を得意としているのはあの馬鹿狐であって巫女ではない。

ただ、何も無策というわけでもなかった。


「まぁそっちに関しては少し待てば解決すると思います」

『ほう?』

「知り合いにそういうのに詳しいのが居るんですよ。なので、蛇さんの魔術書の場所を聞くついでにそっちも聞いてみようと思います」


至極単純な話、このArseareという世界で問題の解決法というのはたった1つしかない。

魔術の行使だ。

そして、それを行う場合枷となるのは等級であり……強化するにしても素材が必要となるのだが。

それをどうにかできる存在を私は都合よく知っていた。


「とりあえず……そうですね、連絡とってみます。今日の授業はここら辺で?」

『うむ、そうしよう。ここから先はアリアドネの言うソレが問題なく出来た後の方が色々都合が良いだろうしな』

「ありがとうございます」


返事を聞いた後、私はその存在がゲーム内に居ることを確認してから連絡を入れる。

どうせ色々言って渋るんだろうなと思いつつ、どう素材を活かして魔術を強化するかを考えながら。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?