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第99話、聖剣と闇ドワーフ


 聖剣『ブレイブストーム』――と思う。持った時の、そう聞こえたような気がした。


「この聖剣はダイ様みたいに喋らないんだな」

『普通、剣は喋らんぞー』

「じゃあ、喋っているダイ様は何なの?」

『我はそこらの聖剣や魔剣とは格が違うのだ! 特別だよ、とぉくぅべぇつぅ!』


 特別ねぇ……。


 俺たちは聖剣の勇者、と思われる遺体を埋葬した。イラがシスターらしく祈りの言葉を呟き、皆で冥福を祈った後、その場を離れた。


 入ってきた時とは別の通路があったので、そちらへ入ったが、曲がり角がきて左へ行ったら、複数の人影と出くわした。


 ドワーフだった。しかし全身、肌が青く、その目は白一色と、すでに生きているドワーフのそれではなかった。


「これが、闇の力を飲んだドワーフのなれの果てか!」


 黒いモノに取り込まれた黒きモノとは違うようだ。


「ワタシが先制するわ!」


 アウラが、鋭く尖ったニードルを投げた。木のトゲが、ドワーフの顔や体を穿つ。効いた……! と思ったが、悲鳴もあげず、闇ドワーフたちはノソノソとこちらへと動きだした。手に持った斧を振り上げて――超装甲盾が弾いた。


 ギィンと金属音が響いた。さっそく聖剣の力を試させてもらう!


 俺は剣身輝く聖剣を一閃。闇ドワーフの体が真っ二つになると、形が崩れて粉のように散った。


「いいね、これが聖剣か!」


 もう1体を一撃で倒した時、別の1体が斧を横に薙ぎ払った。とっさに後退。外れた斧が石壁に突き刺さり、岩を砕いた。


「おいおい、威力えげつねえな!」


 俺が躱して開いた正面を埋めるように、シィラが魔法槍タルナードを闇ドワーフを突き入れ、風で吹き飛ばした。内臓どころか体まで引き裂いた。


「生身だったら死んでるぞ」


 見守る俺たちの前で、両断されたはずの闇ドワーフが動いた。自分の上半身と下半身がお互いを探し、やがてくっつく。


「聖剣じゃなきゃ不死ってのはこういうことか」


 起き上がる前に、聖剣でトドメを刺した。塵にまでなると、もう再生や復活はできないらしい。


 結局、通路に沿って進んだら、グルっと迂回する形で、元の生け贄の穴のあった部屋に出た。どっちへ行っても最終的には戻ってくるってことだな。


「さて、後は帰るだけだが……」

「絶対にアレはダメです!」


 ニニヤが叫んだ。他のメンバーも同様に渋り顔。じゃあ、蔦を登る? このクソ高い壁を? 生け贄の穴、底に落ちたら即死する高さを。


「実は通路の間に、通路っぽい袋小路があったんだけれど――」


 アウラが言った。


「壁に古いけど傷がいくつかついていたところがあったのよ」

「あー、そういえば」


 マルモが顎に手を当てて考える。


「言われてみれば、鋭利な……おそらく剣で斬りつけたような跡かも」

「もしかしたら落とし扉みたいに、上から岩壁が落ちて通路を塞いでいるんじゃないかしら。あの傷は勇者が通路を塞ぐ壁を壊そうと傷つけた、みたいな」


 もっともらしい推測だ。扉が壁になってしまえば、確かに勇者だって出られなくなるだろう。……空を飛ばない限りは。


「行くだけ行って確かめようぜ」


 違ったら、その時はまた考えればいいさ。


 俺たちはアウラが見つけたと言う袋小路に向かった。通路の途中で、たしかに別方向へ向かう通路のようなくぼみがあった。


「壁にしか見えんがな……」


 シィラは腕を組んだ。


「これが閉じ込める仕掛けだとして、どうするんだ? 砕くのか?」

「ボクがやりましょうか?」


 ディーが右手を挙げた。呪いの腕なら岩壁だろうが、腐敗、破壊ができる。シィラは、ドワーフ娘を見た。


「マルモ、お前、ハンマーを持っているだろう? ちょっと叩いてみるか?」

「このハンマーは、鍛冶に使うもので、それ以外の用途では使いません!」


 きっぱりとドワーフ娘は拒否した。むっ、とするシィラ。まあまあ、落ち着きなよ。


「ちょっと俺がやってみよう。これが上から落ちてここにはまっているなら」


 俺は岩壁にピタリと手を広げて触れる。これがスライドして落ちてきたなら、ちょいと上にズラすように持ち上げれば……。


 ぐりっ、と壁のような岩が動いた。


「おおっ!」


 マルモがパチパチとまばたきをした。


「これは、アウラさんの推測どおり、上から落ちてきた岩の壁、いえブロックですね!」


 この岩壁ブロックは上以外には動かせなかった。ぴったり溝に沿って落ちてきたんだろうな。持てるスキルで上にぶん投げるは、さすがに高さがあり過ぎて無理だろうから――


「ダイ様、このブロックを収納」


 持ち上げた岩壁ブロックをダイ様の収納庫に放り込む。ブロックのあった所から上を見上げる。


「見えないな」

「ライト」


 アウラが照明の魔法を使った。天井はそれほど高くなかった。どうやら天井ブロックがひとつ分スライドして落下、通路を塞ぐ仕掛けらしい。収納したブロックと同じブロックが通路に3つ分落ちて塞ぐ形となっていた。


「……これ、苦労してブロックをひとつ壊したとしても、同じ壁ブロックが出てきて、軽く絶望するやつね」


 アウラはそう評した。俺は残るブロックも持ち上げ、その都度、ダイ様に収納してもらうことで、別の通路に出た。


 この通路が上への帰り道でありますように。


「……」

「どうしたんですか、ヴィゴさん?」

「いや、ルカ……。何というか――」


 違和感があってな。俺たちは通路をたどり、上への階段があったので登る。


「さっきの岩壁ブロックの封印だけど、ちょっとオーバーじゃないかって思ってさ」


 生け贄の穴に落とされたら、まず助からない高さだ。だがその生け贄の穴に通じている通路があるって、妙だなって思ってさ」


「落とした奴の死体から金品を回収しにいくための通路じゃないか?」


 シィラが指摘した。イラが口を開く。


「でもそれなら、生け贄に落とす前に奪いません?」

「あ……。それはそうだ」

「言われてみれば、あの岩壁ブロックの封印、大げさ過ぎるわね」


 アウラも眉間にしわを寄せた。


「そもそも、あんな通路があること自体おかしいのよ。つまり、この神殿を作った者たちには、下に行く用事があったってことで……」

「まだ何か、秘密がある」


 俺は立ち止まる。それにしてもクソ長い階段だ。上からの高さを考えると、まだまだあるんだろうな。


「上に行く前に、もうちょっと調べてみるか?」

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