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第141話、ドローレダンジョン探索


 俺たちリベルタは、洞窟型ダンジョンに突入した。


 最初のフロアで、ファウナが舞った。


「……地に留まりし、戦士の亡者よ。いまここに集い、その怨念を燃やせ」


 エルフの姫巫女の周りに、青い炎の輪が浮かぶと、ぼぅ、と人魂のようなものが、いくつも浮かび上がった。


 そして地面より、同じく青い炎をまとう甲冑をまとった戦士たちが這い出てくる。


 これが降霊術か!


 ファウナが、呼び出したのは亡霊の戦士たち。それらは次々と通路の奥へと進んでいった。


 ひと通り、亡霊を呼び出したファウナが一息つく。


「……亡霊戦士たちを先行させます。彼らが目となって敵の存在を知らせてくれます」

「いいね」


 いくつも分岐があっても、亡霊戦士たちが分かれて進めば、どこかで敵と遭遇するだろう。それがこちらでもわかるなら、迂回される率もぐっと減るだろう。


「ありがとう、ファウナ。こちらの手間も省ける」

「……お役に立てたなら幸いです」


 ファウナは従者のように静かに頭を下げた。うーん、まだ他人行儀、というか仲間感が薄いかな。もう少し楽に接してもらえると気も楽になるんだけど。


「……それで、すみません。わたくし、亡霊戦士たちと視覚を繋ぎますので、どなたかわたくしを運んでくださると助かるのですが」


 その視線は、黒甲冑騎士であるベスティアに向く。いや、彼は貴重な盾兼、前衛だ。


「ゴム、分裂して彼女を運んでくれ」


 それを聞いた黒スライムが自分の体を二つに分離させると、一体がぽんぽんと弾み、ファウナの前で止まった。


『どうぞ』

「……ありがとうございます」


 すっとゴムの上に座るファウナ。スライムだからと嫌悪を見せることなく、淡々と乗った。


「俺が先頭だ。アウラ、中央にいて、後方の指揮を頼む」

「わかったわ」


 俺が最前列なのは超装甲盾があるから。しかも今回は盾を腕で固定して、左手も剣が握れるようにした。通常だったら絶対に不可能なのだが、一度手に持った後だと、手で触らなくても体が触れていれば重量無視で保持できる。持てるスキルの範囲広い。


 アウラに後ろの指揮を任せるのは、俺が一番前にいるために後ろの様子がわからないせいだ。本当はリーダーは指揮する立場上、最前列はよくないんだけど、そこは俺より遥かに経験の豊富なアウラさんに任せるって寸法。


 最先頭は俺とベスティア。少し下がってシィラ、マルモ。真ん中にアウラ、ニニヤ、イラ、ファウナ。後ろはルカとディー、ゴム本体。……リーリエは、まあ、どこでもいいよ。俺より前に出なければね。


 ひとつ目の部屋を出て通路を真っ直ぐ進む。次の小部屋に到着。さっそく道が三つにわかれていた。


 シィラが魔法槍を下ろして言った。


「どの道が正解かわかるかい、ヴィゴ?」

「一応、この三つはどこを通っても最深部へ行けるよ」


 えっと、道順は――


「真っ直ぐ、右、左、右、左、左、右、左が最短だったかな」


 似たような部屋ばかりで、油断するとさっき通った部屋では、と勘違いしやすいのが、このダンジョンの嫌味なところだ。


「たぶん調査隊もまず最深部を確認しようとしただろうから、ルートは間違ってないだろうけど……。他の道を通ってたら、見逃してしまうな」


 かといって、チームを分散するのは得策とは言えない。どういう状況で消息を経ったのか、原因がわからない以上、単独ないし少人数行動は危険だ。


「……守護者様。他の通路は、わたくしが亡霊戦士と見ております」


 ファウナが事務的に告げた。


「……もし見かけましたら、お知らせします」

「頼む。じゃあ、前進」


 俺はベスティアに合図し、正面の通路を進んだ。数十メートル進むと、次の部屋だ。今度の部屋は斜め前方に右と左に分岐していた。ここから先は、部屋ひとつにつき、通路が四つパターンになっている。


 前回、通った記憶と照らし合わせつつ進む。以前はここでモンスターがいたのだが、その姿はなし。


 砂の通路を進み、次の小部屋へ。……ゴブリンの死体が複数ある。


「これは……?」

「……わたくしの亡霊戦士が倒しました」


 ゴムの上に乗ったファウナが答えた。亡霊戦士たちの視覚に集中しているのか、エルフの姫巫女は目を閉じたまま言う。


 待ち伏せしていたゴブリンたちは、亡霊戦士と遭遇し攻撃を仕掛けてきた。だが『普段』は実体がないため、亡霊戦士たちへの物理攻撃はすり抜けてしまう。


 しかし、亡霊戦士たちは攻撃の際だけ、体の一部を具現化させて現世物質への攻撃を行うことができる。故にゴブリンたちがいくら頑張っても、亡霊戦士を殴れず、逆に急所を突かれて倒されたのだという。


「何それ、無敵じゃん」

「そうでもないわよ」


 アウラが口を挟んだ。


「アンデッドの仲間だから、神聖系の攻撃魔法や浄化魔法に弱いし、同じく魔法武器でもダメージは与えられるわ」

「……それをダンジョンのモンスターたちが使えるかというと」


 うん、ムリだな。ダンジョンにいる魔物などに、神聖系の魔法の使い手なんてまずいないし。そもそも魔法だって、せいぜい一部の亜人系が使える程度だ。


「ここのモンスターにとっちゃ、亡霊戦士はメチャクチャ相性悪いってことだな」


 姫巫女さんの降霊術、半端ねえ。そのファウナが少し眉間にしわを寄せた。


「……申し訳ありません。少し、亡霊戦士の数を増やします。敵の中に魔法使いがいました。一体、いえ二体、撃破されました」

「敵に魔法使い」

「ゴブリンメイジかゴブリンシャーマンかしら?」


 アウラが首を傾げた。まあ、何にせよ、敵さんも俺たちに楽させてはくれないようだ。


 ファウナが、降霊術を使い、亡霊戦士の第二陣を召喚。それらは俺たちの後ろへと進んでいく。


「……迂回を試みている小グループが複数あるようです。後方の警戒につかせます」

「了解。よし、俺たちは奥へ向かうぞ」


 あれだけ亡霊戦士を出しておいて汗ひとつかかないファウナ。降霊術も魔力を使うと思うのだが、なるほどエルフは魔力量が多いというのも納得だ。


 亡霊戦士に助けられ、俺たちはほとんど消耗もなく、ダンジョンを進みつつある。やがて1階最深部に到達。坂を下れば、次は地下階層。このダンジョンの最深部は、この階層にある。

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