ダーク・プルガトーリョ。
暗黒煉獄剣とも呼ばれた魔剣。そしてダーク・インフェルノこと、ダイ様と同じ時に作られた姉妹。
俺も驚いたが、ダイ様はもっとビックリしていた。
「何と! 我の片割れと思うておった魔剣が、実はさらに三つ子だったとは!」
そこかよ……。いや、間違っていないか。ひとつの魔剣なのに、出てきた人型は3人だもんな。
『人の話を聞かない子なのだわ』
『ダメな妹なのかもしれない』
『姉かもしれないけど……』
ダイ様によく似た姉妹たちは、相変わらず口を動かさずに声をぶつけてきた。ダイ様は応じる。
「4人でも3人でも大して変わらんだろ! というか、何故に欠片などになったのだ? 勇者にでもやられたか?」
『『……』』
『図星なのだわ』
「やられたんかい!」
ダイ様が突っ込んだ。マニモンが玉座に腰掛けたまま、頭を振っている。
「ダープルちゃんは、魔王と共に勇者と戦い、そして敗れた。その戦いで、剣は砕け、四つになったのよ」
「聖剣に砕かれるとは、魔剣の面汚しよ」
『酷いのだわ、妹よ』
『姉さんは悪魔だわ』
『魔剣なのだけれど』
「やかましいわ! おい、マニモン。我かこいつら、どっちが姉かはっきりさせぃ!」
ダイ様が創造主に文句をつけると、ドレス姿の少女たちがわずかに眉をひそめた。
『ワタシたちのセリフを削るつもりね』
『慈悲はないらしいわ』
『……』
「もうひとり削られとるやないかい!」
ダイ様の突っ込みが止まらない。何かテンション高くない? 妹だか姉と遭遇して、はしゃいじゃっているのかな?
マニモンが嘆息した。
「ダープルちゃんたちは、ダーインちゃんの姉か妹、どっちがいい?」
『姉』
『姉』
『妹』
「どっちだ!?」
魔剣姉妹のほうでも意見が割れている。マニモンは肩をすくめた。
「2対1で、ダープルちゃんたちは、ダーインちゃんの姉になりました」
「ちょっと待てぃ!」
「ダープルちゃんたちの総意ということで――」
「だから、待てというだろうに! 総意というなら、1人足らんだろ? こいつらは4人のはず――」
『いない姉妹の話をし出したわ』
『イマジナリー・シスターだわ』
『ワタシたちの妹が幻を見てる』
早速お姉さん風を吹かせるダーク・プルガトーリョ姉妹。俺たちは、この魔剣と大悪魔のやりとりをどうしたものかと見守る。アウラやヴィオ、セラータも戸惑っている。
ダイ様は、大悪魔を見た。
「マニモン」
「4つ目の欠片のこと? ふふ、知りたぁい?」
「もったいぶるな、マニモン。我と妹がお主をぶっ飛ばすぞ」
ダイ様が威圧すると、俺の手元から、オラクルが飛び出した。
「呼んだかえ?」
「呼んどらんわ!」
「あらま、神聖剣にも魂が宿ってる……?」
マニモンが口もとに手を当てて驚いている。まーた、めんどくさいことになりそうだぞ。
『妹なのだわ』
『妹が増えたわ』
『知らない妹だわ』
案の定、魔剣少女たちがざわついている。マニモンは苦笑する。
「砕けた欠片、4人目はここにはいないわ。おそらく、ウルラちゃんが持っているんじゃないかしら」
魔王の娘が、ダーク・プルガトーリョの欠片、4つ目を持っている。これから俺たちが攻略する領主町にいるかもしれない、魔王の娘が伝説の魔王の魔剣が。
「まあ、言っても4分の1だし」
ダイ様はどこか投げやりな調子になった。
「敵対したとて、我の4分の1だろ」
『本当にそうかしら?』
『それは侮り過ぎだわ』
『昔と今では全然違う』
少女たちは冷淡に言い放った。
『力をつけたようだけど』
『昔と比べると……まだ弱い』
『ワタシたちも、あの頃とは違う』
1000年前の大地を砕き、大群を蹴散らしたと言われる伝説の魔剣だった頃とは。
魔王の力、破壊に満ちた闇の力が足りない。
「ほほぅ……」
ダイ様が獰猛な笑みを浮かべる。
「面白いことを言うな、お主たち」
『試してみる?』
『お姉さんは、怒なのだわ』
『生意気な妹は、修正してやるのだわ』
玉座の間に、プレッシャーが満ちる。ミシミシと大気が震える。
「ちょっと、ダイ様?」
アウラが不安げな声を出せば、カバーンやディーも蒼白になる。そしてそれは、マニモンも同様で。
「ちょっと、あなたたち! ここで争わないでぇ!」
巻き添えはごめんよ!――と大悪魔でさえ慌てる。
『『『サーバント、召喚!』』』
少女たちのいる床に魔法陣の光が走り、黄金甲冑の騎士がそれぞれ浮かび上がる。その姿は、ベスティアに似ているような。
プルガトーリョの少女たちは剣に変わると、騎士たちの手に収まる。
「なあ、ダイ様、これ俺が戦わないといけないやつ?」
「そういうことだ。どちらが姉かわからせてやるまいて」
「仕方ない。長姉のためにわらわも手を貸してやるのじゃ」
オラクルもニヤリとした。
「どちらが真の妹か、わからせてやるのじゃ」
「いや、お前関係ないからね?」