「はぁ~夏休みどうするかなぁ」
購買室のレジから現金を取り出してっと。
お釣り用の小銭は~レジに戻して~、残りのお札と小銭を金庫に放り込んでおけば完了っと。
お昼休み迄に売れた品物の数をパソコンで管理のため打ち込む。
品数が切れは大丈夫そうだな。別のファイルは~。
「勇大さん、パンの残りどうします? 期限間近の少しあるよ。日曜迄はいける」
うちの学校にパンを納入してくれている女性が、売れ残りのパンをトレーに戻しながら話しかけてきた。いつもお世話になってます。
「おっ! 半値で!」
「バカですか! せめて7割は貰わないと娘のお小遣いにならないじゃないですか!」
「オヤジさんに言いつけてやる。······まっ、良いか。15個くらいあるか?」
「ん~と、17個あるね、全部買ってちょうだい、また持って行くんでしょ?」
「おう。下宿先にちびっこ共が親の帰りを待って大騒ぎしてるからなぁ」
「しかし、勇大さんもよくやるねぇ、自分の子でもないのに」
「ん? ん~そうだな、50前で嫁無し、子無しの用務員。······考えると何してんのやろね」
「はぁ~父に嫁候補でも探して貰う? 勇大さん、見た目は30台でも何とかいけるよ?」
「そうか? まぁ、その辺は気が向いたらかな、よし!」
少し早いが夏休み後の注文書を作成していた。夏休み後の品物なのでそこそこ多かったが、今からチマチマ作っておくと、数字だけ変えるだけなので楽チンだ。
「おっ? 何だ?」
パソコンの画面に集中していた俺の目の前に何かが割り込んできた。
「これパンの保冷庫の隙間に落ちてたよ。生徒手帳ね、今なら終礼に間に合うんじゃない? 私もこれで引き上げるし早く閉めて持っていってあげなよ」
と、手帳を俺にぐいぐいと押し付け、もとい、手渡してきた。
「了解、ありがとな! 俺もこれ欲しいよ、駅前の商店街で割引あるし!」
「バカですか! 学生でもないのに貰えるわけないじゃないですか!」
受け取った俺はパソコンを閉じ、パン屋の女性と一緒に購買室を出た。鍵をかけながら扉横の札を開店から閉店に裏返しパン屋に向き直り、お礼を。
「んじゃ、ありがとうな。また来週も頼むよ!」
「はいはい、また来週ね」
手を振り遠ざかって行くのを見て、手元の生徒手帳を見る。今年の一年生の物だとわかり一年の教室へと向かいながら、生徒手帳の表紙をめくり一年7組の室岡一樹君の物だとわかった。知らない名前やが。
この中学校は工業の盛んな町と住宅街との間に位置し、全校生徒数も1000人に少し届かないかくらいの学校である。
1クラス30人未満で10クラスもある中々のデカイ学校だ。
その上、スポーツに力を入れ全国大会にもいくつかのクラブが出場している。
中でもサッカーは、工業団地にプロサッカーのスポンサーをしている会社があり、月に何回か合同練習をしており、将来スカウトされる子たちも年に数人いるらしい。
とかなんとか考えているうちに1年生の教室がある廊下に到着。
ガラガラと一番手前の教室の扉が開き、先生が出て来た。
「あっ! 先生! お疲れ様です」
ペコリと会釈はしやんとな。
「ん? おぉ勇大さん、お疲れ様です。どうされました?」
「購買で生徒手帳の落とし物がありまして、届けに参りました」
生徒手帳を見せながら。
「そうでしたか、私はこの後週末会議で、······時間がないですが、入ってください」
おお、手伝ってくれるみたいやね、先生の後を追い教室に入る。
ガヤガヤと授業中では見ることの無い賑やかさで、生徒たちが帰り支度と、部活へ行く準備をしている中、先生がパンパンと手を打ち。
「皆少し待ってくれ、購買で生徒手帳を落とした者がいるらしく、勇大さんが届けに来てくれた」
「ユタさん! お疲れ! 誰だ? 落としたの?」
声を上げたのは上山聖、身長140くらいしかなく、ちびっこで、腰くらいまである髪の毛を後ろで簡単にまとめ、······きちんとまとめてないから顔は可愛いのに残念な感じになってる。
「おいコラ! 俺はユ・ウ・タだ! ちびっこ聖!!」
「なっ! これからのびるんです! バインキュッバインってなるんです!」
パンパン! 先生が手を打つ
「はいはい、ところで勇大さん、生徒手帳に名前書いてありました?」
ん? 確か室なんとか······ど忘れしたから表紙をめくり、中を見て再確認。
「え~、1年7組の、室岡一樹君と書いてありますね」
ありゃ、聖がいるならここはそう、1年1組やん······。
「ふむ、7組の清水先生はいつも連絡事項のみで、終礼は早く終わらせるからな、仕方がない、私が届けておくよ。室岡君はサッカー部だからまだ校内にいるだろうからね」
「ありがとうございます」
すると、名前はわからないが、俺と変わらない身長175くらいあり、髪の毛はショートで、日に焼けた小麦色の将来美人さんになりそうな······とか考えていると声をかけてきた。
「私、サッカー部のマネージャーしてますから、届けましょうか?」
「おお、先生もこの後すぐに週末会議だから助かるが、頼めるか?」
先生は俺から生徒手帳を受け取り、小麦色マネージャーに。
「はい。では私はこれで失礼します」
「よろしくお願いしますね、では勇大さん、私も会議に行きますね」
先生はマジで急いで教室を出ていく。
「ユタさん! この後どうするんです? 週末だし、パン貰ったんでしょ?」
「聖······はぁ、勇大な。後、貰ってない! ちゃんと値切って買ってきた!」
「ちびっこ達元気いっぱいだからむしゃむしゃ食べるしねぇ~」
「聖さん。勇大さんと仲がよろしいのですね」
肩までのふわっとした柔らかそうな髮質、某大会社の会長の孫娘で、お父さんも系列会社の社長さん、セレブ美少女やね。俺の父さんと同級生で、会長爺さんと俺は釣り仲間。たまに遊びに行ったりして、この子とも知り合いだ。
「そだよ~うちの下宿に住んでるからね~託児? もしてるから、ユタさん一緒に遊んでくれるんだ!」
「そんな感じだな」
「そんで、小さい子達からユタさんって呼ばれてるから私もユタさん!」
と満面の笑みでない胸を張り、ふんすっ! とドヤ顔。
「あらあら、そうでしたのね」
ふんわりと目尻をさげ微笑む······ほんま美少女や。おっさんには綺麗な微笑みはご馳走です。
ピシッ!
その時鋭い音が鳴り、床が光り出す。下に目が行った後天井も光り出すのが分かったが次の瞬間!
パン!