ヨハンさん達がケストブルグに到着しました。レジスタンスにはまだ動きが無いようですね。結構な大所帯になったので団体客として宿を取るようです。
「そ、その剣は!」
「話は落ち着いてからにしましょ」
アルストロメリアさんがヨハンさんの剣に気付きましたが、大人数で話し込むのはあまりにも目立ちすぎるのでミラさんが制止しました。
「レジスタンスは協力してくれるんだな、ならこれからはいつでも作戦を開始できるように手筈を確認しておこう」
一通りお互いの情報を伝えると、もう夜になってしまいました。それだけどちらの組も大冒険をしてきたんですよね。別行動になったソフィアさんとアルベルさんも様子は見ていないけど上手くやっているようです。開拓そのものはそんなに進んでいませんが、あんなに広いエルフの森の大部分をギルドの冒険者が旅してしまいました。
「プロテア様が認めたのなら、ヨハンさんはエルフにとっての勇者様で間違いありません。その剣を見れば白エルフや黒エルフも納得せざるを得ないでしょう」
白エルフって普通のエルフのことですか、区別するのも大変ですね。それにしても、やっぱりあの剣は全てのエルフにとって特別なものなんですね。なんで闇エルフの女王が持っていたのかは気になりますが。
「でも暗黒神に選ばれた勇者はレナなんでしょ? 勇者が二人いるの?」
ミラさんの素朴な疑問が出ました。別に勇者なんて百人でも二百人でもいていいと思いますけどね。
「ヨハンさんが託された剣は光の剣といって、かつての戦いで魔神パズズを倒した光明神の力を宿す剣です。光の勇者が持つ武器ですね。対して暗黒神エレシュマ様に指名されたレナさんは闇の勇者といったところでしょうか」
なるほど。それ敵対するやつじゃないですかね?
「どうでもいい。面倒くさい」
そしてレナさんは無気力モードを発動しています。たぶんメンバーが増えたから他の人に全部任せようと考えているのでしょう。
「侵入と脱出のルートはもう決まってるんすか?」
ここで忍者のコタロウさんが奴隷救出作戦の具体的な内容を確認します。それが一番大事ですね。誰が勇者とか、レナさんじゃないけどどうでもいいです。
「ああ、だがレジスタンスの捕虜を救出するために、二手にわかれる必要があるな」
ウサギは奴隷として普通に生活していますが、レジスタンスの仲間は反逆者として捕まっているので牢屋に入っています。厄介なことが増えただけのような気がするのですが、混乱に乗じて救出するなら牢屋を破壊して強引に助けても平気という話でした。いかにもレジスタンスの別動隊が助けた風になりますからね。
「なら、レジスタンスの方は俺達がいくぬー」
タヌキさんがトウテツの肩に手を置いて言いました。トウテツに牢屋を破壊させるようです。この中では一番破壊力が高そうですしね。
『おっ、俺の出番か。派手にぶちかましてやんよ』
大丈夫でしょうか?
「ミラもそっちで頼む」
破壊と言えばミラさんですよね。エルフの森ではないですが。
「モフモ……ええ、私に任せなさい!」
なんか未練がありそうですが、サブマスの威厳を優先したようです。そんな感じで真面目組が計画を立てている後ろで、不真面目組は談笑しています。
「ラウくんは匂いでいい人か分かるっすか! 俺は匂いがすることしか分からないっす」
「人間なのにそんなに鼻が利くのは凄いと思うよ! さすが勇者様だね!」
勇者とは何の関係もないと思いますが。そんな話をしているラウさんには二人の女子、シトリンとレナさんがくっついています。
「あ~、モフモフしてていいわねぇ」
「モフモフいいよね~」
これはダメな連中です。真面目組と話しながらアルストロメリアさんもそっちをチラチラ見ています。
「トウテツくん、ちょっと身体を調べさせてもらえないかな?」
『え、なんか怖い』
そしてコウメイさんはトウテツに興味津々です。作戦が終わったら持っていっていいですよ。
そんな様子で、夜は更けていくのでした。
次の日。早速コタロウさんがルートの確認をしていると、にわかに町が騒がしくなりました。
「レジスタンスが攻めてきました! 皆さん安全な場所へ避難してください!」
帝国の警備兵が町の人々に呼びかけます。あらら、もう始まったんですか。カリオストロさんは本当に見た目によらず行動が早いですねぇ。
すぐに決めていた集合場所に向かうと、他のメンバーも集まっていました。こういうところは皆さんプロっぽいですね。レナさんもちゃんと準備完了しています。
「では、手筈通りに」
サラディンさんの言葉を合図に、全員無言で持ち場に向かいました。もっと混乱してから行動に移すので、まだ身を隠す段階ですね。
奴隷商人のところにはサラディンさん、コウメイさん、レナさん、アルストロメリアさん、ラウさんの五名が。
牢屋の方にはミラさん、コタロウさん、ヨハンさん、タヌキさん、シトリン、トウテツの六名が向かいます。
さて、レジスタンスの様子はどうなっているでしょうか? ギルドの冒険者じゃないから直接は見れませんが、ここから視点を移動してやれば彼等の様子を確認することはできます。私は板を操作し――
「あれは、バルバロッサ陛下?」
何故か戦闘が始まる町に皇帝陛下がやってきているのを、目撃しました。