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森のダンジョン

「それではアルスリアさん、ユウホウさん、ステラさんに行ってもらいましょう」


 アルスリアさんは正義の神ヴォルカーを信奉する『極光きょっこう教団』の教団員で、ソフィーナ帝国に新設された支部で登録してくださった方です。


 ユウホウさんは人間ですがエルフが得意とする精霊術エレメンタルアートの使い手で、宮廷魔術師ではなく各国を旅してまわる在野の精霊術師エレメンタラーです。


 そしてステラさんは魔法の道具を作る魔法技師マジカルエンジニアで、工芸者としては異端ですが未知の道具を鑑定できる貴重な人材です。彼女が作り出す不思議な道具は戦闘にも開拓にも非常に役立つものばかりなので、これまでも数々の開拓事業で大活躍してきたCランク冒険者です。前の二人はDランク。


「私を指名していただけるなんて、光栄ですわ!」


 女性向けの修道服に身を包み、透き通るような白い肌と赤い瞳を持ち、腰まで伸びた銀髪を後ろで束ねた姿のアルスリアさんが胸の前で両手を組んで祈りのポーズを見せます。ちなみにこの方、修道女シスターに見えますが性別は男性です。


「やあ、またゲンザブロウと一緒か。よろしく頼むよ」


 ユウホウさんはゲンザブロウさんとウマが合うらしく、よく一緒にパーティーを組んでいます。性格は全然違うんですけどね。人当たりのいい男性で、男性としては少し長めの茶髪を綺麗に整えて魔術師のローブをきっちりと着こなし清潔な印象を与えます。ゲンザブロウさんは小汚いおじさ……ゲフンゲフン。


「ダンジョン開拓ならステラちゃんにお任せだよっ!」


 そしてステラさん。この方はれっきとした女性です。ピンク色の長い髪を頭の両側で束ねて垂らした髪型は実年齢よりも幼さを感じさせ、大きな赤い瞳は人懐っこい印象ですが、着ている服が太ももを露わにする短いパンツスタイル。あれですね、小悪魔的な魅力というやつですね。悪魔なんて伝説の中にしか存在しませんが。


 この三人とゲンザブロウさん、タヌキさんの五人がハンニバル将軍と共にダンジョンを探索するメンバーになります。


「今回の目的は短期間で生成されたダンジョンの中にどれだけの宝があるのか、またボスはどんなモンスターなのかを調査することなので、制圧する必要はありません。その代わりいくつかあるうちの特徴的な三つのダンジョンを回ってもらいます」


 今回はこれまでのダンジョン開拓と異なり、ボスとの戦闘は非推奨です。とは言えそれなりの回数戦闘が発生する見込みですので、戦闘力も考慮に入れたメンバー構成となっております。


「分かったぜぇ!」


「ふふふ、このハンニバル・ゲイナーが指揮するのだ。完璧な成果を上げてみせようぞ」


 あなた以前サフィールを取り逃がしてませんでしたか? かなりの実力者なのは見れば分かりますが。


「今回は複数パーティーで攻略しないぬー?」


「あくまで情報収集ですからね。他の冒険者の皆さんには沢山ある開拓依頼をこなしてもらわないと、どうにも人手不足で大変です」


 そんなわけで、やる気に満ちあふれたハゲに率いられ、六人のパーティーはフロンティア周辺に現れた三つのダンジョンを目指して旅立つのでした。


「よし、まずはフロンティアから一番近くにある『迷いの並木道』に行こうではないか」


 フロンティアに到着し作戦会議を始めると、ハゲが最初に探索するダンジョンを提示します。これはいい判断だと思います。『迷いの並木道』は拠点から近いというのもありますが、ダンジョンとしてもかなり特殊なタイプなのでメンバーの固定観念を打ち破るという点でも最初に選ぶべき場所ですね。


「どんなダンジョンだろうがぁ、罠も仕掛けも俺に任せとけぇ!」


 自信満々なゲンザブロウさん。彼は盗賊という役割に誇りを持っているので安心して任せられます。こと盗賊スキルに関してはコタロウさんよりも上かもしれません。


「頼もしいな、罠の警戒は貴公に任せよう」


 そしてハゲは満足げに頷いてゲンザブロウさんに声をかけました。偉そうな貴族なんかは「本当に大丈夫なのか?」とか馬鹿にした口調で言いがちなのですが、この人はけっこう偉そうな態度なのに相手を侮蔑するような発言はしませんね。というか偉そうなだけで一度も変なことは言っていないんですけどね。


「おうよっ! 将軍さまに安全な探索をお届けするぜぇ!」


 ゲンザブロウさんは腕はいいのですが、人当たりが良くないのであまり好意的な反応をもらうことが少ないのです。そのせいか、ハゲ将軍にはっきりと頼られたことが嬉しくてたまらないようです。彼の中で将軍への好感度は急上昇していますね。


「それで、どんなダンジョンだぬー?」


「間を通り抜けられないぐらいの間隔で木が立ち並び、迷路を形成しているのだ。隙間から向こうが見える分、ただの石壁よりも迷いやすい」


 向こうに宝箱が見える! とそちらを目指そうとしてしまうけど、本当に宝箱のある場所へ向かう道は逆方向。なんてことがよく起こるようです。厄介ですね。


「時間があれば木を伐り倒して進むという力技もできそうだけど、その手の迷路は僕に任せて。風の精霊の力を借りれば正しい道も分かるよ」


 今度はユウホウさんが発言しました。なかなか便利そうですね。私も精霊術は使えますが、精霊との仲の良さで効果が変わるのであまり使う気にならないんですよね。


「宮廷魔術師はあまり精霊術を使わぬので見るのが楽しみであるな!」


「ふふっ、将軍閣下に楽しんでもらえれば精霊の機嫌も良くなることでしょう」


 そうなんですか? 精霊術は奥が深いですねー。


「ただの社交辞令よ~」


 恋茄子のツッコミが入りました。なんと、普通に騙された!


 そんな感じで堅苦しさの欠片もない作戦会議が終了し、六人は最初のダンジョンへ突入していきました。


 さて、フローラリアに行ったヨハンさんの様子はどうでしょうか? 場面を切り替えると、ヨハンさんとシトリンさんが闇エルフの町をうろうろしている姿が映りました。


「おかしいっすねー、どのウサギも変な匂いはしないっすよ」


「怪しい素振りも見えないわね」


 おや?

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