■その309 3月3日(6)■
今夜は祝宴でした。3月3日は桃の節句で、
メニュー…
・お赤飯
・エビと鯛とイクラの海鮮ちらし寿司
・ゴボウとささ身のサラダ
・ホタテと菜の花の醤油バター
・エビとささ身のアーモンドフライ
・鶏モモ肉の唐揚げ
・蓮根と牛肉の甘辛煮
・白見魚のカルパッチョ
・ブリとフグのしゃぶしゃぶ
・昆布の梅煮
・ハマグリのお吸い物
・白桃と黄桃のフルーツ羊羹
・桃のフルーツ大福
・桜餅
・菱餅風ムースケーキ
・ガトーショコラ
今夜のご飯は、いつにも増して品ぞろえも量も豊富です。それもそのはずで、白川家5人、東条家4人、
主が昨日から、腕によりをかけて作っていました。もちろん、美世さんも美和さんも和美さんも、午後はお仕事を切り上げてお料理です。
今日は『桃の節句』でもあるので、女性陣は準備までです。先生組や学生組が揃ったところで…
「
「笠原先生と桃華ちゃんの入籍…」
「おめでとうございます! 乾杯!!」
冬龍君と夏虎君が音頭をとって乾杯です。皆で集まるのはお正月以来だったので、食事もお話しも進みました。
乾杯後のお客様接待や食器や調理済みのお料理の補充、片付けは、男性陣のお仕事です。と言っても、最初は皆で大宴会です。
お仕事がある方々は、終わり次第お祝いに駆けつけてくれました。三鷹さんのお姉さん家族は、お仕事の途中とかで、滞在時間15分でした。それでも、主は少し大きくなった輝君を抱っこ出来て、嬉しそうです。
「桃華ちゃん、入籍したんだって?」「おめでとう~」
「旦那さん、紹介して~」
と、ご近所のおばさん達も、お祝いに来てくれました。リビングは込み入っていたので、喫茶店の方に入ってもらいました。玄関先って言うのも、何ですもんね。
「ありがとうございます。あの… えっと… しゅ、主人の笠原義人さんです」
おばさん達の前に、並んで座った新婚さん。桃華ちゃん、笠原先生を『主人』とか『義人さん』って呼ぶのに、まだ慣れていないので、その度にお顔が赤くなっています。
「あら、梅吉君のお友達の!」「あれよね?! ハロウィンの時に死神の格好してた」「鉄砲がすんご~く上手なお兄さん!」
おばさん達、シレっとしている笠原先生を「まぁまぁまぁまぁ」とジロジロ頭のてっぺんからつま先までよ~く観察していました。美世さんが煎れてくれた珈琲を飲みながら。
「身長高いけれど、細いわねぇ~」「顔はいい男じゃない」「先生だから、頭も良いんでしょう?」
等々、言いたいことをベラベラベラベラ吐き出して、ご機嫌に帰って行きました。お土産に、美世さんと美和さんが綺麗にラッピングした、主が作った桃のフルーツ大福と桜餅を貰って。
そんなご近所さんが、十数名… 入れ替わり立ち代わりにお家の呼び鈴を鳴らしました。
「桃ちゃん笠原先生、美世さんがご近所さん達もう来ないと思うから、上がっておいでって」
ご近所さんの対応に疲れが出始めて来た頃、主が呼びに来てくれました。
「ご飯、食べる~。残っているわよね?」
「大丈夫よ、ちゃんと取っておいてあるから」
疲れた~と、桃華ちゃんは両手を広げて主に抱き着きます。
「ご近所付き合いというのも、大変ですね」
笠原先生も、少しお疲れの様です。冷めちゃった珈琲を一気に飲み干して、軽く溜息をつきました。
「お店もしてますから、ご近所付き合いはとっても大切ですもん」
主が桃華ちゃんを2階へと
「私が出るよ」
そう言って、主が「はーい」と玄関のドアを開けました。
「こんばんは。どちら様ですか?」
そこに立っていたのは、中肉中背の男の人でした。量が多くて伸びた髪が、猫背もあってバサリと顔を隠しています。それでも顔の丸い輪郭と、髪の隙間から丸い眼鏡が見えます。
「あの… その… 桃華さん…」
モソモソとした声に、桃華ちゃんが主の肩越しに顔を出そうとしました。けれど、笠原先生が止めます。
「桃ちゃんですか?」
「白川…」
笠原先生が、男の人との対応を主と変わろうと声をかけた時でした。
「お前が、お前さえいなければ!! 桃華さんは俺のものだったんだ!!」
男の人は洋服の下、お腹に隠していた包丁を取り出しました。けれど、主の反応も早いです。すぐに、下駄箱の隅に立てかけてある素振り用の竹刀を手に取り、構える前に男の手から包丁を叩き落としました。
カランカラン… 乾いた音が響いた時には、主は確りと竹刀を構えていました。
「痛い痛い痛い…」
「私の桃ちゃんを傷つけようとするからですよ」
叩かれた手首を押さえて、男は泣きながら玄関先でうずくまりました。
「そこまでだな。お前、ちょっとこっちに来い」
いつの間にか、玄関に来ていた梅吉さんと修二さんが、その男の人を捕まえて、外へと出て行きました。
「
玄関のドアが閉まる時、梅吉さんは優しく笑っていました。けれど、隣の修二さんのお顔は凶悪犯そのものでした。
「桜雨、怪我は?」
「大丈夫」
三鷹さんは、心配そうに主の手から竹刀を取ります。主はホッとしたお顔で、三鷹さんに微笑みかけました。
「桜雨…」
「桃ちゃん、ビックリしちゃったね」
少し涙目の桃華ちゃんが、主に抱き着きました。桃華ちゃんの心臓がドキドキしているのを感じて、主は優しくその背中を撫でます。
「桜雨、怪我してない? 怖くなかった? 私は、桜雨が刺されちゃうんじゃないかって、怖かった」
主を抱きしめる桃華ちゃんの腕に、力がこもります。
「…怖い思いさせて、ゴメンね。桃ちゃんを守りたかったから、体が動いちゃった。さ、皆とご飯食べよう」
「桜雨は、私が守るから!」
主と桃華ちゃんは、ちょっとお鼻を啜りながら、仲良く階段を上がってリビングへと入って行きました。
「
「同じセリフを返す」
置いて行かれた新郎と新郎予定の二人は、2人の後ろ姿を見送った後、顔を見合わせて軽いため息をつきました。