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第309話 3月3日(6)

■その309 3月3日(6)■


 今夜は祝宴でした。3月3日は桃の節句で、桃華ももかちゃんの誕生日です。いつもなら、ケーキとかプレゼントとかの盛大なお祝いは、2日後の5日に『真ん中バースディ』で、主の誕生日と一緒に行っていたんですけれど、今日は桃華ちゃんと笠原先生が『結婚』した日なので、今年は桃華ちゃんを中心にお祝いです。


 メニュー…

・お赤飯

・エビと鯛とイクラの海鮮ちらし寿司

・ゴボウとささ身のサラダ

・ホタテと菜の花の醤油バター

・エビとささ身のアーモンドフライ

・鶏モモ肉の唐揚げ

・蓮根と牛肉の甘辛煮

・白見魚のカルパッチョ

・ブリとフグのしゃぶしゃぶ

・昆布の梅煮

・ハマグリのお吸い物

・白桃と黄桃のフルーツ羊羹

・桃のフルーツ大福

・桜餅

・菱餅風ムースケーキ

・ガトーショコラ


 今夜のご飯は、いつにも増して品ぞろえも量も豊富です。それもそのはずで、白川家5人、東条家4人、三鷹みたかさん、笠原先生、和美さん、和桜なおちゃん、佐伯君、近藤先輩、松橋さん、田中さん、大森さん、坂本さん、高橋さん、工藤さん、岩江さん、小暮先生、三島先生、二葉さん(三鷹さんのお姉さん)、ひかる君、水島先生(二葉さんの旦那さん)と総勢27名分です。

 主が昨日から、腕によりをかけて作っていました。もちろん、美世さんも美和さんも和美さんも、午後はお仕事を切り上げてお料理です。冬龍とうりゅ君、夏虎かこ君、和桜ちゃん達は、学校から帰って来て、張り切ってお手伝いをしました。

 今日は『桃の節句』でもあるので、女性陣は準備までです。先生組や学生組が揃ったところで…


桃華ももかちゃん18歳のお誕生日…」


「笠原先生と桃華ちゃんの入籍…」


「おめでとうございます! 乾杯!!」


 冬龍君と夏虎君が音頭をとって乾杯です。皆で集まるのはお正月以来だったので、食事もお話しも進みました。

 乾杯後のお客様接待や食器や調理済みのお料理の補充、片付けは、男性陣のお仕事です。と言っても、最初は皆で大宴会です。

 お仕事がある方々は、終わり次第お祝いに駆けつけてくれました。三鷹さんのお姉さん家族は、お仕事の途中とかで、滞在時間15分でした。それでも、主は少し大きくなった輝君を抱っこ出来て、嬉しそうです。


「桃華ちゃん、入籍したんだって?」「おめでとう~」


「旦那さん、紹介して~」


 と、ご近所のおばさん達も、お祝いに来てくれました。リビングは込み入っていたので、喫茶店の方に入ってもらいました。玄関先って言うのも、何ですもんね。


「ありがとうございます。あの… えっと… しゅ、主人の笠原義人さんです」


 おばさん達の前に、並んで座った新婚さん。桃華ちゃん、笠原先生を『主人』とか『義人さん』って呼ぶのに、まだ慣れていないので、その度にお顔が赤くなっています。


「あら、梅吉君のお友達の!」「あれよね?! ハロウィンの時に死神の格好してた」「鉄砲がすんご~く上手なお兄さん!」


 おばさん達、シレっとしている笠原先生を「まぁまぁまぁまぁ」とジロジロ頭のてっぺんからつま先までよ~く観察していました。美世さんが煎れてくれた珈琲を飲みながら。


「身長高いけれど、細いわねぇ~」「顔はいい男じゃない」「先生だから、頭も良いんでしょう?」


 等々、言いたいことをベラベラベラベラ吐き出して、ご機嫌に帰って行きました。お土産に、美世さんと美和さんが綺麗にラッピングした、主が作った桃のフルーツ大福と桜餅を貰って。

 そんなご近所さんが、十数名… 入れ替わり立ち代わりにお家の呼び鈴を鳴らしました。


「桃ちゃん笠原先生、美世さんがご近所さん達もう来ないと思うから、上がっておいでって」


 ご近所さんの対応に疲れが出始めて来た頃、主が呼びに来てくれました。


「ご飯、食べる~。残っているわよね?」


「大丈夫よ、ちゃんと取っておいてあるから」


 疲れた~と、桃華ちゃんは両手を広げて主に抱き着きます。


「ご近所付き合いというのも、大変ですね」


 笠原先生も、少しお疲れの様です。冷めちゃった珈琲を一気に飲み干して、軽く溜息をつきました。


「お店もしてますから、ご近所付き合いはとっても大切ですもん」


 主が桃華ちゃんを2階へとうながそうとした時、今夜何回目かの呼び鈴が押されました。


「私が出るよ」


 そう言って、主が「はーい」と玄関のドアを開けました。


「こんばんは。どちら様ですか?」


 そこに立っていたのは、中肉中背の男の人でした。量が多くて伸びた髪が、猫背もあってバサリと顔を隠しています。それでも顔の丸い輪郭と、髪の隙間から丸い眼鏡が見えます。


「あの… その… 桃華さん…」


 モソモソとした声に、桃華ちゃんが主の肩越しに顔を出そうとしました。けれど、笠原先生が止めます。


「桃ちゃんですか?」


「白川…」


 笠原先生が、男の人との対応を主と変わろうと声をかけた時でした。


「お前が、お前さえいなければ!! 桃華さんは俺のものだったんだ!!」


 男の人は洋服の下、お腹に隠していた包丁を取り出しました。けれど、主の反応も早いです。すぐに、下駄箱の隅に立てかけてある素振り用の竹刀を手に取り、構える前に男の手から包丁を叩き落としました。

 カランカラン… 乾いた音が響いた時には、主は確りと竹刀を構えていました。


「痛い痛い痛い…」


「私の桃ちゃんを傷つけようとするからですよ」


 叩かれた手首を押さえて、男は泣きながら玄関先でうずくまりました。


「そこまでだな。お前、ちょっとこっちに来い」


 いつの間にか、玄関に来ていた梅吉さんと修二さんが、その男の人を捕まえて、外へと出て行きました。


桜雨おうめちゃん、桃華ももかちゃん、皆とご飯たべててね~」


 玄関のドアが閉まる時、梅吉さんは優しく笑っていました。けれど、隣の修二さんのお顔は凶悪犯そのものでした。


「桜雨、怪我は?」


「大丈夫」


 三鷹さんは、心配そうに主の手から竹刀を取ります。主はホッとしたお顔で、三鷹さんに微笑みかけました。


「桜雨…」


「桃ちゃん、ビックリしちゃったね」


 少し涙目の桃華ちゃんが、主に抱き着きました。桃華ちゃんの心臓がドキドキしているのを感じて、主は優しくその背中を撫でます。


「桜雨、怪我してない? 怖くなかった? 私は、桜雨が刺されちゃうんじゃないかって、怖かった」


 主を抱きしめる桃華ちゃんの腕に、力がこもります。


「…怖い思いさせて、ゴメンね。桃ちゃんを守りたかったから、体が動いちゃった。さ、皆とご飯食べよう」


「桜雨は、私が守るから!」


 主と桃華ちゃんは、ちょっとお鼻を啜りながら、仲良く階段を上がってリビングへと入って行きました。


三鷹みたか、貴方のパートナーが、俺にとって一番の恋敵です。どうにかしてください」


「同じセリフを返す」


 置いて行かれた新郎と新郎予定の二人は、2人の後ろ姿を見送った後、顔を見合わせて軽いため息をつきました。


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